ウィキがWikiらしく使われない風土
Web2.0系の技術を企業内にも適用していこうというEnterprise2.0の動きはこのところ着実に進んでいる。一言にWeb2.0といってもそれを体現するアプリケーションはいくつかあるのだが、どうやら今のところ世界的にまんべんなく注目を集めているのはイントラブログで、米国ではイントラウィキ、日本では社内SNSがイントラブログよりもさらに注目されている感がある。この辺りは、なにかお国柄も関係がありそうである。
さて、その米国で人気のイントラウィキであるが、ちょっと面白い事例とデータを見つけたので紹介。e-gineerというブログで紹介されたものである。JCintraというオーストラリアの医療系の会社でのイントラWikiの事例。
JCintraではイントラウィキを運用開始して1年半が経過した。JCintraの社員は340人くらいだそうでこの1年半の間に社員の70%(239人)からに23,335項目のコンテンツが書き込まれて着実に成果を上げているとのこと。(グラフ参照)
さてこの事例で私がちょっと驚いたのは、この23.335個のコンテンツを分析したところ、実際にはコンテンツの大半(82%)は、オーナーを1人しかもっていなかったというデータである。Wikiといえば簡単にページを作って様々なキーワードについての解説を複数人で、並行・協働して記述していくのが特徴で、その過程で内容がブラッシュアップされ品質が上がっていくとされる。そしてインターネット上のWikipediaでは、たまには編集合戦と呼ばれる複数人での項目の激しい修正のやり取りなども発生したりする。
ところが企業内での利用になると、項目の編集や修正を大勢でやることは少なく1項目=1編集者になる傾向があるらしい。これはなにもJCintraに限ったことではなくほかの会社でも一般的に見られる傾向だそうだ。実に興味深い。
こうした項目の蛸壺化現象の理由については、元記事は組織風土面の未熟さが関係しているとして、JCantraを始めとして多くの企業ではまだフルオープンなWikiを活用するだけの風土に至っていないと言っていた。そうした企業ではたとえWikiを導入してもそれは少人数でのコラボレーションを行うためにしか活用されないということのようだ。
元記事では、風土の発展とツールの変遷を以下の図のようにまとめていた。個人ワークが電子メールで繋がったように、グループウェア上でチーム内で共有しながら行っていた文書作成作業が限定的なWiki利用によって置き換えられる段階がこうした事例。そしてこの先は、各個人がオープンなスペースでブログなどを使って発信するようになり、最期にそれが繋がってオープンWiki上でのコラボレーションになる。
なるほど、ツールの名前はともかくとしてステップとしては腑に落ちる。あれ?でもそうなると先ほど書いた日本で人気の社内SNSってまさにこの図の4番目のプライベートウィキのポジションにあたるような気がする。冒頭の各ツールの注目傾向から言うなら日本の企業はちょうど今4番目と5番目に取り組んでいて米国の企業はその先のオープンウィキにも手を伸ばし始めている考えればよいのだろうか。