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空気が育てる

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 昨日のエントリー「馬鹿がうつる」という話で、場のレベルが参加者の低いほうに引きづられるという話を書いたが、実のところすべての場がそうなるとは限らないようにも思っている。「馬鹿がうつる」と逆の事象に出会うことも多いのだ。特にスポーツの世界では逆にレベルの高い競技者に引っ張られて全体の底上げが行われるケースは多い。実際に私個人も同様な経験を多数してきた。

 実は私はしばらく前まで競技ダンスというスポーツで現役のアスリートとして活動をしていた。この競技ダンスの世界にはクラスというシステムがあって、競技会の成績によってランクが決まるという競馬の賞金制やボクシングなどの回戦制と同じような仕組みがあり通常は同じレベルの競技者同志が競い合う。ところが何らかの理由によって下位クラスの選手1組が突然上位クラスの選手の中で演技をするケースがままあるのだが、こういう状況下で下位クラスの選手が一皮向けるケースが非常に多いのだ。上位選手と一緒に踊る決勝ラウンドでそれまでに見たことのない素晴らしい演技をし、その翌週下のクラスに戻って演技をした際に周りと明らかに異なるオーラを出すようになったり選手はよく見る。このケースでは単に自信がついただけだという人もいるかもしれないが単に組合せのアヤなどで上位選手ばかりの中で演技してもこういうことが起こるのだ。
 別の経験談でいうなら国内よりもよりレベルの高い海外へ遠征をし、国際競技会で世界のトップクラスのダンサーと一緒に踊ると勝ち上がる前の予選の段階でもなぜかそれまでに出来なかったような素晴らしい演技ができるのである。これは競技をしている本人の気のせいではない(ビデオで確認済)。必死にならないと予選で落ちるという気持ちが影響したのか?それならば競技ダンスの聖地と呼ばれるブラックプールの全英選手権でハイレベルな(予選の)空気の中で踊った後の選手が日本への帰国後もしばらくは見違えるようなパフォーマンスを見せるのはどう説明すれば良いのか。単なるストレッチ効果とは言いがたい。そんな彼らに聞くと揃って言うのだ「空気が育ててくれた」と。
 昨日書いたオーケストラのような協調的な場ではなくスポーツの世界のような競争的な場においては周りの優秀なアスリートが醸し出す空気によってレベルの低い者が引き上げられることのほうが多いのではないだろうか?今日は私の経験から例をひいたが、陸上や水泳などで速い選手と一緒に競技をすると好タイムが出るという話やサッカーやバスケットボールのナショナルチームが強化の為に強い国(地域)に遠征して成功したという話も有名だ。

 話を企業に戻そう。組織の場合でも「場の空気が人を育てた」ケースを時々目にする。あるプロジェクトに参画した(それまで凡庸だといわれていた)人が優秀な人に影響されて急に伸びた逸話や、ある企業で優秀だといわれる人の経歴を調べたら過去の一時期に一緒に仕事をしていたいくつかの集団に属した人ばかりだったとか、組織においても場とその空気によって人が育つ例があるのだ。

 結局のところ、場のレベルは参加者の低いほうに合わさるのか、それとも場によってレベルの底上げが行われるのか。昨日の例と今日の例だけでいうと「協調的作業を行う場」ではレベルは低いほうにあわされ、「参加者同志が競争的環境にある場」では下位レベルの者の成長が促されるということになるが、事はそんなに簡単な話ではなさそうだ。
 ナレッジマネジメントでは「場」が重要であるといわれる。最近の流れでいえば、イントラネット上に設けられた目的別フォーラムや企業内SNSにおけるコミュニティはこの「場」にあたるのだが、果たしてこれらの「場」はどちらの種類に属するものなのだろうか。またもし「場」をコントロールできるのならば、どうすれば人が育つ空気を醸成できるのだろうか。

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