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ビジネスをアートする?!社会をアートする!?コミュニケーションアートから見た時代の新潮流

素敵なツールを相棒に、未来をEGAKU力を高めよう(Mac Fan12月号寄稿エッセイ)

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経営幹部もEGAKU時代へ

戦略コンサルタントから経営会議の目的とアジェンダが発表されたあと、おもむろに登場するのが、私の役回り。「今から絵を描いていただきますが、絵を描くことが好きな方は?」と話しかけたときの、経営幹部の皆さんから浴びせられる疑問を通り越した拒絶の視線…。
なぜ、経営幹部が集まって絵をEGAKUのでしょうか?
現在、多くの日本企業が抱える課題の本質は、「新事業―新しい価値が生み出せない」「グローバル―海外展開が進まない」「既存事業改革―既存事業が停滞から抜け出せない」そして、その裏にある「人財・組織開発―人の意識・動き方が変わらない」と重いものばかり。組織の多くが過去の成功体験やスマートなロジックだけでは越えられない壁を感じる中、広がっているのが私たちの取り組みです。 通常アートマネジメントの仕事といえば、アーティストのマネジメント、展覧会企画・運営、スポンサーやコレクターとのリレーションなどが主になりますが、私の場合はそれに加え、新しい価値を創り出す力をEGAKUことを通して組織のリーダーから引き出し、リーダーシップを発揮してもらう手助けをしています。変革リーダーや戦略コンサルタント、アーティストとチームを組み、組織の中で眠っている本能を目覚めさせるような、刺激的で創造的な場を現場のリーダーとともに創ることが目的です。

相棒としてのツールと意思

現在、法人でのiPadの導入が本格化しつつあり、ワークスタイルとともに意思決定や組織構造まで影響を及ぼすだろうといわれています。しかし、実際にはマネジメント側に、階層型の組織構造から、個人力を最大限に活かすネットワーク型の組織への変換を図るという意思がないと、導入のメリットが広がらないという懸念があります。私たちが関わらせていただく組織の多くも、個人の主体性を引き出して、新しい価値を生み出す柔軟な組織と、既存事業をしっかりやってくれる組織とのバランスをどう取るかの葛藤の中で、新しい組織の姿を模索し始めています。 本稿を執筆せていただくにあたり、故スティーブ・ジョブズが初代Macintoshを世に送り出すときに「個人が不得意とすることをMacが肩代わりし、個人の能力を増幅するための道具だ」と語ったことを知りました。私自身は、単純にアップル製品の美しさと楽しさに魅了されてきた一ユーザですが、思い返せば、事業を起ち上げてきた10年の中でシェル型iBookにはじまり、iMac、iPhone、iPadは、ビジョン実現に向けて「やりたいこと」と「やれること」のギャップを埋め続けるためのよき相棒でした。Img_8189子どもから年輩の方まで誰もが使え、個人の力を最大限に引き出すことができるのがiPadというツールの一番の魅力だと思います。しかし、そうした素晴らしいツールを手にした今、未来をどう描きたいのか? どんな事業を創り出したいのか? 社会はどうあるべきなのか?そのことについて改めて問い直す必要があると感じます。一握りのリーダーが考え抜き、新たな価値を創り出してきた時代から、意思さえあれば誰もが新しい価値を生み出しうる環境が今の時代です。便利なツールが身の回りに溢れている中で求められているのは「あなたはどうしたいのか?」という意思を問い、想いを引き出す行為であり、その1つとしてEGAKUということが注目されるようになったのだと分析しています。

答えのない問題に向き合う

Dscn34681 そもそも、現在組織にも提供しているEGAKUワークショップを中心とした「コミュニケーションアート」という考え方から生まれたプログラムの数々は、アーティスト「Kuni YAZAWA」のアート活動としてスタートしたものです。特にEGAKUワークショップは、子どもたちに「絵は上手下手を競い合うものではないこと」と「正解不正解のない中で自ら答えを創り出してもいいんだということ」を伝えたいという想いから始まったプログラムなのですが、まさかここまでビジネスの現場で広がるとは思ってもいませんでした。「絵心がない」「子どものときから絵は苦手だ」といっていた経営幹部や組織のリーダー、そしてスタジオでの個人向けプログラムに参加するビジネスパーソンからは、実に美しい作品が生まれ続けています。 アーカイブ化された述べ5000枚以上の作品の中には、本当に素人が描いたのかと疑うほどの個性的でパワフルな作品も多くあります。アートマネジメントの立場から見た現在の多くの日本の組織は、表現することを忘れ、創造性を押し潰された才能あるアーティストの巣窟のように見えます。効率化を追求しながらも、新しい価値を生み出さなくてはいけない状況になっても、すぐに変わることができないのは当然のことでしょう。ただ、ひとたび創造的な場を提供すると、決まって皆さんの目は輝きはじめ、答えのないテーマに真摯に向き合い、互いに切磋琢磨する活き活きとした姿へと変わります。信じられないかもしれませんが、大きな組織の中で現実に起こっている話です。ですので、私たち日本人が本来得意としていた、答えのない問題に独自視点や美意識を持って取り組む真摯な姿勢を思い出し、そのうえでiPadのような素敵なツールを相棒にすれば、立ちはだかる壁を越えて必ずその先に進んでいける、そう感じています。

Mac Fan 12月号「Infinite Loop-仕事と私とApple」に寄稿

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