座学研修の善し悪しを決める3つの要素
座学研修の内容を考える時、次の3つをどのように構成に組み込むかを考えるようにしています。
- 新しいことを教えること
- 既知のことを整理すること
- 既知のことに新たな解釈を与えること
これらを明確に分けて話をすることは難しいのですが、常に意識して話しています。
新しいことを教えること
例えば、「ChatGPTや生成AIが、話題となっていますが、それが何か分からないので教えて欲しい」や「DXに取り組むとは何をすることか教えて欲しい」といった類です。座学研修への期待の多くは、ここにあるように思います。
そのために考慮しなければならないことが3つあります。
相手の関心はどこにあるのか
この知識を得て好奇心を満足させられればいいのか、それとも、自分たちの実務や日常で使いたいのか、講義の後にどのような行動変容を期待するのかといったことです。受講者ひとり一人に確認することはできませんので、研修の担当者とこの点は先ず確認するようにしています。この期待を満たすような内容を仕立てなくてはなりません。そのためには、次の2つを確認しなくてはなりません。
相手の前提知識はどの程度か
ITに関わる仕事をしているのか、あるいは、業務の現場にいる人たちなのかによって、前提として持っている語彙や理解の深さが違います。使っていい言葉や前提となる知識をどこまで説明するかを考えなくてはなりません。
相手の業界や業務は何か
新しいこととは、それを受け入れる人にとっては異物であり、免疫反応のように、これを排除しようとする本能が働きます。この免疫反応を発動させないためには、相手の業務や業界に関連した事例や業務の中でどのように使われるかといったユースケースを示し、自分事として感じてもらい、心の壁に梯子をかけなくてはなりません。
既知のことを整理すること
「DX」という言葉を知らない人はいないでしょう。「デジタル化」も同様です。では、DXとデジタル化は、何が違い、どのような関係にあるのでしょうか。ITとデジタルの違いを意識して使っているでしょうか。昨今、AIの話題が世間を賑わしていますが、機械学習、深層学習とは、どんな関係にあるのでしょうか。ChatGPTが大はやりですが、この言葉と合わせて使われている生成AIや基盤モデル、さらには、登場が期待されているAGI(汎用AI)とは、何が違いどのような関係があるのでしょうか。
ひとつひとつの言葉は知っているのですが、それらがどのような関係を持ち、包含関係にあるのかをといった構造を知ることや、実際の実務の現場でどのように使われているかなどと関連付けることで、ものごとの本質を知ることができます。
表現を変えれば、どのような概念や特徴、規則や法則が共通しているのか、どこが異なっているのかを知ることにより、物事の本質は見えてきます。
本質、つまり根っ子や土台がわかれば、様々な理解への応用が利きます。その積み重ねが、Grand Theory(あらゆる領域で適応できる一般理論)、つまり根源となる本質を作り上げていきます。研修の成否は、それぞれの分野で、少しでもこのGrand Theoryに近づけるかどうかにかかっているとも言えます。
既知のことに新たな解釈を与えること
なぜ業務のプロセスをデジタル化する必要があるのでしょうか。なぜ、デジタル・ネイティブな企業は、昭和でアナログな企業や業界を破壊してしまうほどの力を持ちうるのでしょうか。いずれも、私たちは。この現実に当たり前に直面しているわけですが、その理由をあなたは説明できるでしょうか。
DXと不可分な事実として、デジタル技術の活用があります。では、「デジタル技術を使うこと=DX」だと言えるのでしょうか。「DXとは企業文化の変革である」などと多くの人は語っています。企業文化の変革は、いままでも取り組んで来たことであり、なにも目新しいことではありません。あえて、DXという言葉を使う理由はどこにあるのでしょうか。単なる言葉の置き換えであり、何も目新しいことがないのなら、 こんな言葉を使う理由はないはずです。
私たちは、言葉を知って、全てを理解したと安心してしまうことがあります。それは、既知のこと、あるいは、自分がいま持っている知識の構造や体系の中に当てはめてしまった方が、脳の省エネに貢献できるからです。しかし、これを繰り返していると、言葉は知ってはいるけれども、本質にたどり着くことができず、応用の範囲も狭くなります。この既存の知識の構造や体系を拡げる、あるいは、作り変えることを繰り返すことが、知性の向上の原動力です。
そのためには、知識の解釈や視点を一面に留めず、多くの側面から解釈することです。研修とは、そのための機会であるとも言えます。
自分とは異なる解釈や視点を、新たな気付として喜びと感じるか、異物として嫌悪に感じるかは、人それぞれであり、状況にもよります。ただ「このような解釈がある」と、一旦素直に受け入れることです。価値観の違いは仕方がありませんが、事実や解釈を冷静に受け止める素直さは必要です。その上で、自分は受け入れる、受け入れないを判断することです。
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少々大仰な話しのように受け取られるかも知れませんが、「座学研修」とは、このような要素の組合せで成り立っています。これを意識できるかどうかが、研修の評価の善し悪しを決める背景にあると思っています。
【まもなく締め切り】次期・ITソリューション塾・第44期
次期・ITソリューション塾・第44期(2023年10月4日[水]開講)の募集を始めました。
ChatGPTをはじめとした生成AIの登場により、1年も経たずにで、IT界隈の常識が一気に塗り替えられました。インターネットやスマートフォンの登場により、私たちの日常が大きく変わってしまったことに匹敵する、大きな変化の波が押し寄せています。ブロックチェーンやWeb3、メタバースといったテクノロジーと相まって、いま社会は大きな転換点を迎えています。
ITに関わる仕事をしているならば、このような変化の本質を正しく理解し、自分たちのビジネスに、あるいは、お客様の事業活動に、どのように使っていけばいいのかを語れなくてはなりません。
ITソリューション塾は、そんなITの最新トレンドを体系的に分かりやすくお伝えすることに留まらず、その背景や本質、ビジネスとの関係をわかりやすく解説し、どのように実践につなげればいいのかを考えます。
- SI事業者/ITベンダー企業にお勤めの皆さん
- ユーザー企業でIT活用やデジタル戦略に関わる皆さん
- デジタルを武器に事業の改革や新規開発に取り組もうとされている皆さん
- IT業界以外から、SI事業者/ITベンダー企業に転職された皆さん
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以上のような皆さんには、きっとお役に立つはずです。
詳しくはこちらをご覧下さい。
- 期間:2023年10月4日(水)〜最終回12月13日(水) 全10回+特別補講
- 時間:毎週(水曜日)18:30-20:30 の2時間
- 方法:オンライン(Zoom)
- 費用:90,000円(税込み99,000円)
- 内容:
- デジタルがもたらす社会の変化とDXの本質
- IT利用のあり方を変えるクラウド・コンピューティング
- これからのビジネス基盤となるIoTと5G
- 人間との新たな役割分担を模索するAI
- おさえておきたい注目のテクノロジー
- 変化に俊敏に対処するための開発と運用
- アジャイルの実践とアジャイルワーク
- クラウド/DevOps戦略の実践
- 経営のためのセキュリティの基礎と本質
- 総括・これからのITビジネス戦略
- 特別補講 *講師選任中*
詳しくはこちらをご覧下さい。
日々の暮らしは?買物、病院、学校は?気になることを八ヶ岳暮らしの人に聞いてみよう!
- 日時:2023年10月7日(土) 10:00〜12:00(Q&Aを含む)
- 会場:8MATO&オンライン
- 内容:「失敗しない八ヶ岳移住。まずはここから始めよう」
- なんて素敵な八ヶ岳暮らし!でも注意すべき点も
- 後悔する失敗移住の「あるある」
- 後悔しない八ヶ岳暮らしのために
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- モデレーター:合同会社TMR代表 玉利裕重(たまさん)
- 対談登壇者:八ヶ岳移住者(調整中)
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2022年10月3日紙版発売
2022年9月30日電子版発売
斎藤昌義 著
A5判/384ページ
定価2,200円(本体2,000円+税10%)
ISBN 978-4-297-13054-1
目次
- 第1章 コロナ禍が加速した社会の変化とITトレンド
- 第2章 最新のITトレンドを理解するためのデジタルとITの基本
- 第3章 ビジネスに変革を迫るデジタル・トランスフォーメーション
- 第4章 DXを支えるITインフラストラクチャー
- 第5章 コンピューターの使い方の新しい常識となったクラウド・コンピューティング
- 第6章 デジタル前提の社会に適応するためのサイバー・セキュリティ
- 第7章 あらゆるものごとやできごとをデータでつなぐIoTと5G
- 第8章 複雑化する社会を理解し適応するためのAIとデータ・サイエンス
- 第9章 圧倒的なスピードが求められる開発と運用
- 第10章 いま注目しておきたいテクノロジー
神社の杜のワーキング・プレイス 8MATO
8MATOのご紹介は、こちらをご覧下さい。