磯野波平・54歳の時代と何が変わってしまったのか それとDX
終身雇用は、いまの仕事の中で、経験を積み上げ、その範囲でスキルを磨いていけば、雇用が保証される仕組みです。従業員は、生涯にわたる生活の安定と活躍できる場所が得られる一方で、企業側は安定した労働力が確保できます。
このような相互補完的な利害の一致は、双方にとって魅力的ですが、その前提は、企業が存続し、事業が継続し続けることです。その事業に見合うスキルを活かせる仕事やポストを提供できることが前提です。
高度成長期ならば、企業はどんどん大きくなり仕事の量もポストの数も増えていきました。しかし、ビジネス環境がめまぐるしく変わり、将来を予測できないVUCAの時代になり、また、社会全体の経済規模の拡大も見込めません。さらには、テクノロジーの急激な発展と、これを武器にしたデジタル・ネイティブの台頭により、新たな競争原理に対処することを強いられ、これまでのやりかたのままで事業を存続させることが難しくなりました。
この事態に対処すべく「変革」だとか「DX」が叫ばれ、それと抱き合わせで人的資本投資やリスキリングの必要性が叫ばれているわけです。しかし、例えリスキリングをしたとしても、社内という枠組みの中で、次の受け皿を作ることは、もはや容易なことではありません。だから、新たな事業ニーズに対応するための人材の入れ替え(というリストラ)や事業再編、異業種との合弁設立など、社外を考えた大きな枠組みで取り組む必要が生まれています。
この変化は、従来の経験値に頼るスキルだけでは、その会社での居場所を失なうことになり、終身雇用というセーフティネットも頼れなくなったことを意味します。
1969年にテレビ放送を開始した「サザエさん」では、磯野波平の年齢は54歳でした。その当時の定年は55歳だったので、かれはまもなく定年を迎えることになります。また当時の日本人男性の平均寿命は、65歳だったので、定年からの10年間を退職金と年金で送ればいいことになります。社会の変化も緩やかな時代でもありました。終身雇用とは、このような前提があればこそ、成り立っていたと言えるのでしょう。
現在の定年は、65歳ですから、当時と比べて10歳に引き上げられています。しかし、平均寿命は、81歳、つまり16年も伸びています。さらに「退職金」を見直す動きも拡がりつつあり、この年齢ギャップの拡大は、数字以上に負担を拡大しているように感じます。
この背景には、社員の経験や能力を評価し、昇給額が毎年積み上がっていく給与体系を、与えられた職務をこなせるかどうかで給与を決定する職務給制度に変更しようという動きがあるからです。職責を果たせなければ給与も上がらず、昇格もしない。つまり、粛々と経験を積めば、役職も給与も上がるので、定年までしっかり働いてくださいという仕組みではなくなろうとしているわけです。そうすると、過去の実績や勤続年数で積み上がっていくいまの退職金制度、つまり、終身雇用を前提として、若い頃は安い給与で働いてもらい、その差額を退職金でまとめて支払いますというあり方とは矛盾が生じてしまいます。だから、退職金のあり方を見直そうとの動きが出てきているわけです。
このような変化を考えると、仮に終身雇用が維持されたとしても、定年以降の自分の生活を守る自助努力が必要となり、セカンドキャリアを考える必要性が生じるわけです。
当然ながら、このような変化に対処する術を会社が教えてくれるはずはありません。結局のところ、当事者である自分が、自分のキャリアをデザインし、それに必要なスキルを磨き、自分で行動を起こす以外にないわけです。
DXや変革は、既存の雇用制度や働き方の再構築を加速することになります。これを傍観者として受け止めるのか、当事者として変革の当事者として関わっていくのかは、その後の自分のキャリアに大きな影響を与えるでしょう。どちらがいいとか、どうすべきかを他人がとやかく言うことではありません。ただ、この現実を踏まえて、変革の現実を自分事として受け止めて、判断を下す必要があることだけは、確かだと思います。
【募集開始】次期・ITソリューション塾・第44期
次期・ITソリューション塾・第44期(2023年10月4日[水]開講)の募集を始めました。
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ITに関わる仕事をしているならば、このような変化の本質を正しく理解し、自分たちのビジネスに、あるいは、お客様の事業活動に、どのように使っていけばいいのかを語れなくてはなりません。
ITソリューション塾は、そんなITの最新トレンドを体系的に分かりやすくお伝えすることに留まらず、その背景や本質、ビジネスとの関係をわかりやすく解説し、どのように実践につなげればいいのかを考えます。
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2022年10月3日紙版発売
2022年9月30日電子版発売
斎藤昌義 著
A5判/384ページ
定価2,200円(本体2,000円+税10%)
ISBN 978-4-297-13054-1
目次
- 第1章 コロナ禍が加速した社会の変化とITトレンド
- 第2章 最新のITトレンドを理解するためのデジタルとITの基本
- 第3章 ビジネスに変革を迫るデジタル・トランスフォーメーション
- 第4章 DXを支えるITインフラストラクチャー
- 第5章 コンピューターの使い方の新しい常識となったクラウド・コンピューティング
- 第6章 デジタル前提の社会に適応するためのサイバー・セキュリティ
- 第7章 あらゆるものごとやできごとをデータでつなぐIoTと5G
- 第8章 複雑化する社会を理解し適応するためのAIとデータ・サイエンス
- 第9章 圧倒的なスピードが求められる開発と運用
- 第10章 いま注目しておきたいテクノロジー
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