なぜ質問しないのか、質問できないのか
講義や講演で質問を求めても、質問しない、できない人たちが多い。講演の際に質問の時間を設けて欲しいとの依頼をうけることも多いのだが、そんな時間を設けたところで、誰も質問しないので、無駄ではないかと思う。
質問をしたくなるようにと、話しの展開をいろいろと工夫しても結果は同じだ。これは、講師側の問題と言うよりも、受講者あるいは、もっと根本的に日本人の精神構造に依存しているのではないかと、考えている。これは、学問的なテーマでもあり、「なぜ、質問をしないのか」というキーワードで検索すると、「学生はなぜ質問をしないのか」というような学術論文が、いくつか見つかった。これは、結構根深い話しであると感じている。
これら論文に目を通して、質問しない理由に共通するのは、次の3つの点だ。
- 他人の目、まわりの評価
- 「ちゃんとした質問」をしなければならないというプレッシャー
- 内容についての無関心
これらについて、掘り下げてみよう。
他人の目、まわりの評価
「恥ずかしいから質問しない」ということなのだが、何が恥ずかしいのかといえば、自分がため人間、できない人間と評価されることが、恥ずかしいのだろう。「こんなつまらない質問をするなんてレベルの低いヤツだ」、「あいつは常識がないなぁ」、「そんなことも知らないなんて」といった他人からの評価を気にしているのだろう。
初めての人たちも多く自分の正直な状態を晒すことができない状態、つまり、信頼感の醸成されていない、あるいは、心理的安全性が担保されていない状況の中で、自分をネガティブに評価されたくないという、強い抑制意識が働くのだろうと思う。親しい友人同士なら、たわいのない質問も気兼ねせずに出てくるのとは対照的な状況が、講義や講演にはあるのだろう。
ただ、講義や講演だけではなく、職場の中で、新人達が質問できない理由も同じだと思う。職場の中で、信頼関係や心理的安全性が担保されていないからだ。何年かすれば、この辺りはだいぶ解消はされるが、それでも上司や先輩に気楽に質問できない状況は続くことも多い。これは、組織の成長やパフォーマンスを劣化させる要因でもあり、マネージメントとしては、いつも気に留めておかなくてはならいことだと思う。
「ちゃんとした質問」をしなければならないというプレッシャー
「どんなことでも気楽に質問してください」と伝え、匿名での質問を受け付けているにもかかわらず、質問が出てこないのは、「他人の目、まわりの評価」とは異なる理由であろう。その根底にあるのは、「ちゃんとした質問をしなければ、いけない」というプレッシャーが、子どもの頃から染みついているからなのかも知れない。
「ちゃんとした」とはどういう状態なのかを説明することは難しい。しかし、多くの人たちが、規範意識に制約を受け、「ちゃんとした」状態が分からないにもかかわらず、「ちゃんとしよう」とこころがけ、「ちゃんと」の客観的な基準がないにもかかわらず、自分で「ちゃんと」の基準を妄想して作り上げて、「ちゃんとした質問ができないから辞めておこう」となるのだろう。
「他人の目、まわりの評価」といい、「ちゃんとした質問」といい、私たちは、自分の妄想で自分に枠をはめ、それを逸脱しないようにと、行動を律する。このような意識は、誰にでもあるのだが、特に若い人には強く表れるようだ。
「ちゃんとした質問」ができないから、質問をして、ちゃんと質問できるようになろうという発想もあって良さそうなのだが、子どもの頃から染みついた精神的規範意識を超えることは容易ではなさそうだ。子どもの頃から、あるいは、学校教育の現場から、このようなことにならないように。心がけておくべきなのだろう。
内容についての無関心
講義や講演の内容についていけない、あるいはつまらないと感じているから質問もしないというのもあるようだ。これは、もうどうしようもない。ただ、これは必ずしも、受講者側の問題とは言えない。講師の話がつまらないことも多分にある。この点については、以下の記事で書いているので参考にして頂きたい。
「質問は正義である」的な問答無用の暗黙の了解から、持論を展開したが、これについても考察しておこう。
私は、「質問は正義である」と考えている。その理由は、自分の考えと異なる考えに気づけるからだ。正しいとか間違っているかといった画一的な評価ではなく、自分の考えていることを他の視点や異なる価値基準で評価されることで、私たちは、知識を深め、視野を広げることがではき、人生の様々な場面で適切な判断ができる可能性を高められる。
実際の講義や講演で、「〜だから、〜しないほうがいいと思うが如何だろうか」といった質問を頂くことがある。しかし、試したこともなく、他人の体験を聞いたわけでもなく、ネットから得たうわべだけの知識で十分な考察もしないままに、答えを勝手に妄想している。これでは、適切な判断は難しい。このような考えを他人の前に晒し、他人の評価を受けてこそ、適切な解釈や判断へと近づくことができる。その意味では、この手の質問は大歓迎であり、質問をしなければ、いつまでも自分の狭い世界から抜け出せない。
講師の立場に立てば、質問に答えるのは面倒であると考える人もいるだろう。しかし、私は、思わぬ質問をぶつけられて、どう答えようかと脳みそをフル回転させるのは、なかなかのエンターテインメントであると楽しんでおり、自分の解釈や言葉を磨く訓練にもなるので大歓迎だ。まあ、そうでないと人もいるだろうから、ここは難しいところだ。
そんなわけだから、他人の評価など気にせずに、自分の成長のために、大いに質問をしたほうがいい。間違えなく、質問は成長を加速させる原動力になるからだ。
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目次
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