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浮くか、沈むか。米国小売店舗業界の正念場

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2013年。新しい年が明けました。

米国小売業界の年間売上の4分の1を占めるというホリデー商戦が幕を閉じ、その結果を見て思うのは、「2013年はアメリカの店舗小売業界にとって大変な年になる」ということです。

クリスマス商戦

総じて言えば、ホリデー商戦中(11月、12月)のネット売上が前年比13.7%増を記録したのに対し、同時期の小売店舗の売上はわずか3.1%増でした。現在、年間を通じて、アメリカの小売市場売上全体にネット売上が占める割合は約7%。しかし、これが、生活者の価格感度がぐんと敏感になるホリデー商戦中に限っては、全体の16%を占めるまでに膨れ上がるのです。

それを意識してか、今回のホリデー商戦では、大手小売店舗がこぞって、ネット・ショップとの競争を意識した様々な対処策を講じました。 
ネット・ショップとの価格マッチング・サービスに始まり、同日配送サービス、店内でのウェブ端末やタブレットPCなどモバイル端末を活用したお取り寄せサービス、店舗での商品ピックアップ・サービス、無料Wi-Fiサービスや店内での娯楽やサービスを充実させたショッピング体験の提供など、あの手この手をつかっての抗戦でしたが、「ネット・ショップを打ち負かすための決定打」にはならなかったようです。

アマゾン・アプリ生活者の店離れのひとつの原因となっているのが、「ショールーミング」と呼ばれる現象です。アマゾンを筆頭にした「ネット通販」が幅を利かせるにつれ、店舗が「ショールーム化する」現象。顧客が店舗をショールームとして利用する、つまり、店舗に行っても商品を見たり触ったりするだけで購入はせず、代わりにネットに行って購入することを意味する言葉です。

もともとは、2010年にアマゾンが導入した「プライス・チェッカー」というスマホ対応の価格比較アプリが発端で、店舗の中にいながらにして顧客が商品価格をチェックし、ネット(アマゾン)で買うという購買行動がよく見られるようになりました。

しかし、現在アメリカのスマホ人口は全体の約50%。また、ユーザーのすべてが価格比較アプリを利用しているわけではありませんから、「ショールーミング」はスマホ・アプリのせい、というよりは、そうしたツールの開発と普及によって、生活者意識が大きく変わっていっているせいだといえるでしょう。

昔は店舗に行けば店舗で買い物をするものとみなが思っていました。購入チャネルとして、店舗に選択肢が限られていたわけですが、それが今は、店舗で商品の見た目をチェックしたり、手で触れてみたりするだけではなく、店舗にいながらにしてネット上の市場(いちば)で価格をチェックし、希望とあらば、即座に、その場で一番安いところから買うという選択ができるようになっています。

そうしたスマホ・アプリや「ショールーミング」のニュースが大々的にメディアに取り上げられているがために、スマホを持っていない人、即ち、アプリを使って価格比較をしたことがない人でも、そういった報道を聞けば、「へえ、ネットの方が安いのか」という印象を受けるようになります。

コア・バリュー経営つまり、「ショールーミング」のきっかけは「価格比較アプリ」というツールかもしれないが、「店舗離れ」の雪崩現象を起こしているのは「ネットの方が安い/便利だ/品物が豊富にある」という生活者意識の変化ではないかということです。「ショールーミング」など目新しい言葉が出てくると過剰なまでに騒ぎ立てるメディアもその責任の一端を担っているといえるでしょう。

しかし、考えてみれば、「ショールーミング」と言っているうちは、「ショールーム」としてお客さんに活用してもらっているということなのです。つまり、少なくとも顧客が門口をまたぎ、店内に入ってきているわけですから、この機会をものにできるか否かは店舗の実力次第ということになります。

私は、ショールーミングに対抗する最も有力なカギは第三の「体験」にあるのではないかと思っています。店舗小売業者は、「顧客が来店する意義」や「店舗でなければ提供できない価値」に着目し、それをベースにして具体的な戦略を考えていくべきだと思うのです。

「顧客がまた来たいと思うような店舗体験を創造するには?」ということを今いちど考えてみる。そうすると、行き着くところは、店舗で顧客に接する「人(社員)」がつくりだす感動、温かみ、人間味、エンターテイメントというところになってくると思います。      

トレイダー・ジョーズ

「グローサリー(食料雑貨品)はネット通販との競争があまりないカテゴリーなので指標にならない」という批判を恐れずに言えば、トレーダー・ジョーというアメリカのスーパーには「店舗のあるべき姿」として常に注目しています。猫も杓子もフェイスブックアカウントやツイッターと言っている時代に、この会社はフェイスブックもツイッターも持たないというロウテク・アプローチです。全米に360を超える店舗をもち、年商も85億ドル(推定)という大手チェーンでありながら、店舗に行けば店員と顧客の会話が飛び交う、まさに「ハイタッチ」なショッピング体験創造で熱烈なファンをつなぎとめている会社です。商品力に非常に優れた会社であることも否めませんが、顧客の「熱愛」の決め手はやはり接客だと思います。私も馴染みの店ですが、「これ買ったことある?おいしいのよ」と店員さんにものを薦められたり、逆に薦めたりという会話をいつも楽しんでいます。

電化製品量販店最大手のベスト・バイなどは、ショールーミングの打撃をまともに受け、先行きが心配されていますが、こういった店舗が起死回生を果たすためには、根本に立ち返って、「店舗だからできること」、「店舗にしかできないこと」を見つめなおし、店舗体験を大刷新することが望まれていると思います。


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