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盛り上がるブレストばかりが良いブレストじゃない。沈黙も含めて大事にしたい。(アイデア・デザイン・創造学を研究しているといろんなTipsに触れます。600文字で紹介します。)

120%課題。ブレストを促進しやすいテーマ設定法

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ブレストを引き出しやすいテーマ、ということについてご紹介します。

自由なアイデアを引き出すには・・・
テーマは自由なほうがいい、と言う意見。
テーマは具体的であるほうがいい、という意見。
この2つを両端として、悩むことがありませんか。

創造技法の本には、さまざまなテーマ設定のコツがありますが、
その一つをご紹介します。

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アイデア出しの際に、メンバーに与える負荷の強度が
「100%(ちょうどできる課題)」だと「退屈・無関心」という心理になり、
「150%」だと「失敗への恐怖・拒否」という心理になり、
「120%」だと、解いて見せようという「意欲」の心理になる。

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これが明記されたドキュメントは
書籍にはなっていないのですが、
「アップル法」という創造技法を30年前に考案された先生のノートなどに
見出すことができます。

この辺の議論はビジネス書でも、目標設定法として登場しますが
ブレストのような、集団で行う知的活動で、
メンバーの状態もバラバラな場合には、
こうした「120%課題」で発想テーマを設定することで
意欲的な発想の心理状態を作ることができます。
これから、ブレストを練習的にやろう、という時には、
ぜひ思い出してみてください。

たとえば、喫茶店を始めたいメンバーであれば、
地域の喫茶店のコーヒー価格や来客数を調べて

・コーヒーの単価を、今より20%高く売るにはどうすればいいか
・店への来客数を、今より20%増やすにはどうすればいいか

とブレストのテーマを設定すると、うまくいきやすいです。

※ 逆に非常に高い目標設定で、思考を現状から大きく変える、
  という方法もあります。
  これは、以前の連載で「エクストリーム・ゴール
  (あるいは、拙著『アイデア・スイッチ』P188)にて紹介しました。
  こちらもお勧めですが、はじめは「120%課題」で行い、
  大きな観点の変更、新しいアプローチを発想してもらいたい、という段になったら
  「エクストリーム・ゴール」のような"高い目標設定法"をもってくると、いいでしょう。
  ある種の人にとっては、現実の課題でいきなりエクストリーム・ゴールをすることは、
  「150%課題」と同じ心理になりますので。
  メンバーの資質や場の温まり方を見ながら、使い分けるといいでしょう。

 
なお、テーマ設定法は、発想法にとっては、とても重要な技法です。
その割りに、ないがしろにされがちです。

しかし、テーマの良し悪しが、出てくるアイデアの質を実は8割がた決めてしまう、
というところがあります。

ブレストのテーマ設定がうまくいくと、目にみえる形で発想技法を使わなくても
ブレストが促進される、という側面が、実際にはあります。

アレックス・F・オズボーン系の流れをくむ創造技法「CPS(創造的問題解決)」
の中では、テーマ設定の"フォーマット"(テーマ宣言文)を持っていますが、
それらについても、別の日にご紹介したいと思います。



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参考文献 (拙著で恐縮ですが)

アイデア・スイッチ 次々と発想を生み出す装置 (単行本)
石井 力重 (著) 

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脱線にちかい追記:

「アップル法」について

ほとんどの読者さんはご存じないと思いますが
大企業ではたらく、定年の近い技術開発者さんのなかには
この技法で製品構想を学んだ、という方も結構おられる、秀逸な技法です。
先日、考案者の先生にお会いしたところ、先生の中では
今なお、技法を進化させておられました。

良い創造技法が、かつて日本にはたくさんありました。
それらの真髄を学んだ人々のリタイヤとともに
企業内で忘れられていく局面にあります。
現代の発想技法にくらべて、「たくさんの時間がかかる」
「アイデアのあいまいな輪郭にじっと目を凝らす」
というようなところがあり、5分や10分ではできない点などが、
受けが悪い要因となっているようですが、
それらは、本質的に創造性の深いところを使わせる、
良い技法なんです。

定年近い技術者さんとのみに行くことがあったら、
彼らが30年前に受けたトレーニングをぜひ聞いてみてください。

ライフハックになれた身にも、新鮮な発見があるでしょう。
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