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コークの味は国ごとに違うべきだが、パブリッククラウドのサービスはどうか?

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フラット化する世界」へのアンチテーゼ的なとらえられ方をすることもある
コークの味は国ごとに違うべきか」(パンカジ・ゲマワット著)を絶妙なタイミングで
読んでいた。そう、Azureの日本向けサービスをどうすべきか議論している真っ最中に。

「コークの味は国ごとに違うべきか」は、地域エントリー戦略、グローバル戦略の
解説書であり、コカ・コーラが過度なグローバル均一路線を改め地域ごとの商品開発を
最終的に許容するようになった経緯や、世界均一インフラの代表格であるインターネットを
活用したグーグルの検索サービスがロシアや中国で浸透に苦戦を強いられているために
現地営業部隊を強化したといった、いくつかのストーリーが掲載されている。

スターバックスやマクドナルド、レゴブロックなど主に消費財を扱う企業のケースが多いが、
中で述べられている考え方は産業財やサービスなどにも一般化することができる。
本書で事例の分析に用いられているフレームワークは主に下記の3つである。

■CAGE (Cultural, Administrative/political, Geographical, Economic)分析
国ごとの違いを文化的、制度(政治)的、地理的、経済的の4つの視点で整理する

■ADDING (Adding Volume, Decreasing Cost, Differentiating, Improving industry attractiveness, Normalizing risk, Generating knowledge)スコアカード
販売数量の向上、コストの削減、差別化、業界の魅力の向上、リスクの平準化、知識(およびその他の経営資源)の創造と応用という6つに価値創造の構成要素を分解し、評価する

■AAA (Adaptation, Aggregation, Arbitrage)戦略
地域差異に適応、集約、裁定(価格差から生ずる利益)の3つで対応する

第一章のタイトルが「フラット化しない世界」となっており、「フラット化する世界」への
強烈な批判か?と思ってしまうが、実際にはそれほどエキセントリックな話ではない。
企業が事業単位をグローバル化するための戦略を体系化してまとめた本である。

さまざまな企業の取り組みが紹介されているが、私が見た限り一番整理されていると
感じたのはトヨタの現地化を例に解説されていた下図である。

Region_strategies_2

ある商品やサービス、たとえば、Windows Azureを、U.S.以外の地域に展開する際に、
考え得る戦略オプションは、だいたい上図の6パターンのどれかに収まる。あとは、
どのタイミングで、どのステージに移行してゆくのが賢明かという時間軸の判断だろう。

パブリッククラウド商用展開で先行しているAmazonのEC2は今一番左の状態にあり、
北米から提供されるサービスを、英語の管理UIや技術資料のまま、クレジットカード決済で
提供している。日本側で日本独自の対応をしているわけではない。UIや資料の翻訳、
現地通貨での決済(請求書払いなどの商慣習対応含む)、手厚い問い合わせ対応体制など
日本でビジネス展開する上で、およそ当たり前のように必要とされてきたものの準備を
整えることなく、北米に集約された拠点からグローバルにサービスを提供している。
集約しているのはデータセンターだけではない。事務処理などのオペレーティングも同様だ。

Google App EngineはUIが少しずつ日本語化されつつあるが、日本に根付いた日本の
ためのサービスにまだ仕立て上げられているわけではない。

といった、Azureと比較されがちなパブリッククラウドサービスでは、いずれも日本を含む
各国の事情をあまり深く考慮することなく、「U.S.以外の人も使っていいですよ」という
上図でいう一番左の姿勢をとっているように、今のところ見える。

新しモノ好きな開発者やIT企画担当による、ちょっとした実験、ホビー目的の利用であれば
それほど問題ではないのだが、日本というお国柄で、いざ「エンタープライズ向けに」、
「パートナー企業の皆様と共に」などと言い始めると、事態がややこしくなり始める。

当面お客様やパートナーの皆様が期待するのは上図でいうところの左から2番目の状態、
すなわち、日本に設置されたデータセンターを利用し、日本向けの課金、問い合わせ対応
などのオペレーションを整え、PaaS事業を現地化したうえで、提供することなのであろうが、
これは我々だけでなく、他のクラウドベンダーにとっても少々ハードルが高いだろう。

目指すべき先はおそらく一番右のステージ、すなわち、原材料や労働力などの要素を
考慮してもっとも有利な地域で部品を生産し、地域の拠点となるハブで最終組み立てを行い、
すみやかに市場に提供する、クラウドサービスでいえば、電力や税制優遇などの観点で
最も有利な地域に終端データセンターを設置し、地域拠点にキャッシュサーバー集合体の
ようなデータセンターを設置し、コストを最適化した上でレイテンシーなくサービスを利用
できる環境を整えることなので、方向性としてずれているわけではない。

無理ではないが、実現には少しばかり勇気と熱意、時間を要する。
あわせて、このクラウド業界ではスピードの軽視は命取りである。

となると、当面の落としどころをどこにするか、どの順番でいつごろ対応してゆくかが、
正直なところ非常に悩ましい。Azureの商用提供がU.S.で開始される11月および、
その先に予定されている日本でのサービス提供開始に向け、ひとつずつ問題を
片付けてゆく必要がありそうだ。

というのが、PaaSを提供するマイクロソフトの立場での悩みだが、手持ちのアプリを
クラウド化、SaaS化することで、主に技術的な参入コストを最小化し、商圏をグローバルに
広げたいという目論見をもつISV各社にとっても、楽観的にフラット化を考えるのか、
現地化が必要なのかは、同じように悩ましい問題になってくるだろう。

個人的には、あまり日本向け仕様に手間やコストをかけることなく、今のところ進化を
牽引しているU.S.の文化、商習慣レベルで提供されるサービスを前提としつつ、
世界最先端の事例として一旗揚げたいという志のお客様やパートナー様、開発者の皆様と
ご一緒に初期ビジネスの立ち上げを行いたいと思ってはいるのだが、オンプレミスや
パッケージソフトウェアの世界で手厚く対応してきたが故に、クラウドだからとどこまで
許してもらえるのかは、皆様のご意見に耳を傾けながら、慎重に判断するようにしたい。

 

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