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アメリカのIT業界を渡り歩いたビジネスコンサルタントがユニークな切り口で新時代のIT市場を分析

クラウドコンピューティングは一体どれだけ浸透しているのか?

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IT市場全体で果たしてクラウドコンピューティングがどの程度広がっていくのか、という意見は、未だに業界内で大きく別れている。恐らく、クラウドコンピューティングが影響を与える市場セグメントが非常に広いため、そのセグメントによって捉え方が大きく異なってくる、というのが原因である、と想定される。

例えば、ERPを利用する立場からすれば、クラウドとは、即ちSalesforce.comをはじめとしてSaaSアプリの事を指す。
MSPや、企業内のIT管理者の立場からすれば、クラウドはAWSを代表とするパブリッククラウドや、企業内に構築するプライベートクラウドを指す。
企業内の部門ユーザからすれば、クラウドは、即ちOffice365若しくはGoogleAppsの事や、各社登場しているクラウドストレージサービス等を指す。
それぞれのセグメントによって、クラウドの定義、価値観が異なる為、全部を一緒に評価する事が難しい上、ある意味ではあまり意味の無い事の様にも思える。

上記はIDC社が発表したクラウドコンピューティング業界の市場シェア予測に基づいて作成されたグラフである。このグラフを通して、IDC社が見ているクラウド市場の動向がいくつかのポイントに整理出来る。


1)クラウドコンピューティングの市場シェアは、2012年においてもIT市場全体の8.5%程度しか無い。ただし、2008年からの成長率を見ると、年間で25%の成長率を達成し、従来のOn-Premise ITの市場の成長率(18%)と比較して大きく伸びている。これからの伸びに大きく期待が寄せられている事である。

2)クラウドアプリケーションの半分以上(52%)は、ビジネスアプリケーションであり、いわゆるSaaSアプリケーションで占められている。主要なアプリケーションとしては、Google Apps, Office365といった企業のメール/ドキュメント管理系のアプリケーションに加え、Salesforce.comに代表される、SCM, CRM系のアプリケーションが大方を占めている、と考えられる。

3)クラウドアプリケーションの残りは、ITプラットホームやインフラに関するもので、IaaSやPaaS等のソリューションが中心である。クラウド市場が、アプリケーション系の市場とインフラ系の市場の2つに大きく分類され、市場を半分ずつ占めている、という状況が見えてくる。

4)企業におけるクラウドコンピューティングの利用は年ごとに増加していく事が予測されるが、急激に従来のIT資産を置き換えるのではなく、時間をかけて確実に移行していく姿が予測されている。

クラウドコンピューティングは新規の技術として捕えるのでは無く、新しいITの利用方法として解釈する必要がある事がこの資料から伺える。現在はSMBやゲーム/SNS市場での浸透が目立つが、時間をかけて業界全体に等しく広がっていくもの、と見る必要がある。過去の登場したインフラ系のITモデル(クライアント/サーバ、Webアプリケーション、等)と同様に、セキュリティ、プライバシー等の課題を解決する必要があるが、これも過去のITインフラが解決していったのと同様に着実に解決する方向に向かうもの、と考えられる。

この浸透に伴って、従来のインフラと同様に幾つかの共通課題に対する取り組みも登場してくる、と言える。具体的には次の様な項目は少なくとも明確になっていく、と想定される。

1)セキュリティとプライバシーへの対策の明確化と市場の理解

2)それに伴うコンプライアンスの考え方の定着

3)主たるベンダーの登場と市場の確立

4)標準的な価格帯への落ち着き

5)事実上のde-facto standardの登場、等がある。


個人的には、NISTを主軸としてAPIの標準規格化が動きとして進むと思うが、業界自体はそれより遥かに速いスピードで事実上の標準規格、ユースケースモデルをつくりだしていくもの、と思われる。クラウドコンピューティングの市場は、オープンソフトウェアの市場と非常に緊密な関係にあり、その世界での規格化のスピードは、NISTより遥かに早いものがあるからである。

標準化、という方法論についても大きく考え方を変えて取組むべきである、と考える。

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