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アメリカのIT業界を渡り歩いたビジネスコンサルタントがユニークな切り口で新時代のIT市場を分析

2012年に向けたクラウド業界の予測:3つのトレンド

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2012年が始まり既に1/4が過ぎましたが、クラウド業界は想定通り、さらに活発化している模様である。

しかしながら、クラウドコンピューティングが技術として、さらにビジネスモデルとして浸透していく中で、市場の関心は段々と進歩していっている、と言える。

2010年、クラウドコンピューティングが話題として大きくなった頃はクラウドの定義についての議論が市場を賑わしていたと言える。既にSaaSやPaaS等のキーワードは或る程度市場に浸透しており、Salesforce.comに代表される新しい時代のベンダーの成c長著しい状況が紙面を賑わしていた。とは言え、現実にクラウドコンピューティングを自社のITソリューションとして導入するケースはまだまだ少なく、注目はクラウドコンピューティングの定義、と言うものについての話題が多かったといえる。SaaSとは何か、PaaSとは何か、そしてIaaSとは何か、業界内でも意見が異なるケースもあり、明確な定義を求める市場に同期して、標準化を試みる団体の登場も増えてきました。

当時、特にキーワードの定義の面で話題になっていた要件としては次の様なものがある。

• SaaSアプリケーションとウェブアプリケーションの違い:マルチテナントでSubscriptionモデルで課金/請求すれば仮想化環境では無いプラットホームで動くウェブアプリケーションもSaaSと呼べるのか?

• PaaSも同様に、クラウドプラットホームで稼働するアプリケーションを開発する環境ではなくても、開発環境自体がマルチテナントでSubscriptionモデルで提供されればPaaSと呼べるのか?

• VMWareベースの仮想化環境でマニュアルでVMを供与する環境もIaaSと呼べるのか?

現在、クラウドコンピューティング全般に関する定義として市場でも最も認知度が高い、とされているのは、米国政府機関である、NIST(National Institute of Standards and Technology)が発行している、”The NIST Definition of Cloud Computing”である、とされている。特に政府機関向けのクラウドコンピューティングに関する受注要件としてこのドキュメントに準拠している事が要求される事が多い。民間市場でも等しく影響力はある、とされているが、市場での技術の進歩は早く、ドキュメント自体の改訂がそのスピードについていけないのでは、という懸念も一部ではあり、そもそも標準化、ユニバーサルな定義、というもの自体の価値観については意見が分かれ始めているのも、クラウドコンピューティングの市場の一つの特徴である。

2011年は、さらにクラウドを実際に導入し、ビジネスに適用するモデルとして様々な事例が登場し始め、プライベートクラウド、パブリッククラウド、ハイブリッドクラウド、マルチクラウド、等のキーワードが頻繁に登場する様になって来た。いずれも、単一のクラウドを利用する環境から、複数の異なるクラウドを組み合わせる環境に移行し、より高度なIT環境を構築しよう、という動きの中から生まれたキーワードである。もう、この時点に於いてはパブリッククラウドとして、Amazon Web ServiceのTokyoリージョンは稼働を開始しており、実際に利用する企業、またはシンガポールリージョンに既に運用をして東京にそれを移す企業等が増加している。同時に、日本国内のクラウド事業社として数社サービスを開始するところも登場し、今までコンセプト的な位置づけだったクラウドが、2011年には実際に利用出来るサービスとして定着し、複数組み合わせた利用方法に議論が移行し始めている。

2012年は、その状況からさらに発展して、より具体的な利用方法についての議論が進むもの、と考えられる。特に、今まではクラウドを利用する事に置かれていた関心が、クラウドを利用することによって得られるROI(投資対効果)を具体的に見いだす事に移行するが大きな動きとして上げられる。

クラウドを利用する事によって実際に得られるビジネス上の効果、というのは広義の意味では、コスト削減やスケーラビリティ等の効果が考えられているが、企業として本格的にクラウドを採用する為に必要な機能もまだ十分に整備されていない、という事も明らかになってきている。2012年はこれらの不足している部分を補完する為の様々な動きが活発化する事が予測され、それに伴ってクラウドの利用度が一気に拡大するものと思われる。

次が特に注目すべき機能や利用モデルである。

1)BigDataを利用したクラウド

クラウドが特に威力を発揮するのは、大量のデータを保存、管理し、同時にそれを検索等を通してアクティブに利用することが出来る、という面である。BigDataやNoSQLと呼ばれる技術は正にこの大量のデータを効率よく管理、運用する為の技術であり、そのデータの管理先をクラウドストレージに置くことによって、従来の企業内に置く高額なSANインフラ、Data Warehouseシステム、等をリプレースするソリューションとして注目されていくもの、と考えられる。

今後登場するキーワードとして、次の様なものがある。

✴  Data Sharing/Collaboration: 企業内、企業間で大量のデータを共有しコラボレーションアプリケーションを運用する事。企業内SNS等の動きが活発である。

✴  DBaaS (Database as a Service):企業内のデータベースシステムをクラウド化する動き。SQLアプリケーションをクラウド上で運用する為のインフラが必要となる。

✴  CloudBPM (Business Process Management), Data Warehouse, BI(Business Intelligence):企業のデータを管理、さらに分析を行うことにより、事業判断を迅速に行う為のツールは従来よりエンタプライズの戦略的なアプリケーションとしてIT投資が行われて来たが、クラウドを利用する事により、コストを大幅に下げ、さらにモバイルデバイス等のサポートも容易にする点、大きく評価されている。e-Discoveryやe-Document等のコンプライアンス向けのアプリケーション等も登場しており、今後急激に成長するもの、と予測されている。

✴  Cloud MDM (Master Data Management):企業内で各部門間で共有されるデータを総合的に管理するシステムとして構築されるツールやプロセスの集合体。Cloud MDMはこのデータの統合をクラウド上で行う方式を採用し、物理的に離れたシステム間の統合を効率よく行う点で有利な面がある。特に企業間の合併、M&A等による統合等がMDMを適用するニーズが多く発生している。


2)マルチクラウドコラボレーション

✴ ハイブリッドクラウド:複数のクラウドを統合して運用/管理する状態を指す。特に最近注目されているのは、企業内で構築したプライベートクラウドと外部のパブリッククラウドの両方で企業のアプリケーションを運用するケースであり、セキュリティ、パフォーマンス、コスト管理、ID管理、等複数の面で総合的な管理をする事が要求される。

✴ クラウドバースティング:通常はプライベートクラウドで業務を運用し、データ、CPUのいずれかのニーズが急増し、プライベートクラウド上のリソースだけでは運用しにくくなった状況において、必要に応じてパブリッククラウドのリソースを利用し、システム全体として性能、許容量、拡張性等を維持するソリューションである。e-Commerceアプリケーションや、ゲーミング、SNS等、トラフィックの増減が急激に、それも予測しにくい状況の中で変動するアプリケション等はこの方式を取る事によってシステムの最適化が図れる。

✴ コミュニティクラウド:ある特定の団体が、ある特定の目的を達成する為に共同で構築し、運用するクラウド環境。プライベートでもパブリッククラウドの両方で運用する事が可能である。

✴ DRソリューション:複数のクラウドインフラを利用して、企業で利用する業務環境の一部または全てを多重化し、パブリック、もしくはプライベートクラウド運用で起きうる障害に対するシステムの可用性を確保する為のマルチクラウド運用方式。単一のクラウドの運用方式では、業務運用がそのクラウドプラットホーム上で起きる障害に100%依存してしまう為、クラウド運用の多重化をする事によりリスクを分散する方式であるが、運用管理インタフェースは統一する事によって複数クラウドの運用を容易にする事が狙いである。


3)セキュアなクラウド

✴  クラウドセキュリティの可視化:クラウド運用で最も懸念されている2つの問題は、セキュリティとプライバシーである。この2つの問題が解決されることによる効果非常に大きく、クラウドサービスを提供するIaaS事業社の殆どは、この問題に対する取り組みを最大の課題として取組んでいる。2012年はむしろこの2つの課題の解決策をクラウドサービスの強みとして打ち出していくベンダーが増えていく、と予測される。戦略の打ち出し方として最初に想定されるのは、セキュリティに対する取り組み、対策の可視化である。ユーザにクラウドサービスのセキュリティレベルを定量的に評価、比較する事が出来る次の指標を打ち出す事がポイントとなる。

✦ セキュリティポリシー:顧客資産管理のセキュリティに関するポリシーの策定、公表

✦ データ暗号化:どの様なデータをどういう技術を利用して暗号化しているのか

✦ ウィルス防止:どの程度の頻度でウィルス対策を行っているのか

✦ 外部からの攻撃:DOA(Deny Of Access)攻撃への防御、DPI(Deep Packet Inspection)等の対応

✦ 24時間技術サポート:24*7体制で電話/eメールの保守サポートの有無

✦ 物理的セキュリティ:データセンタ拠点のセキュリティ(警備員、入出退管理)

✴  Private PaaS:従来企業内の閉鎖された環境の中で行われていた業務アプリケーションの開発を、パブリッククラウドに移行し、ただしその条件として、セキュアな環境をPaaS事業社に要求するケース。VPC(Virtual Private Cloud)の提供に加え、上記のセキュリティ対応も要求される。

✴  VPNクラウド:AWS等は既に提供しているが、顧客とパブリッククラウドの間に専用のVPNネットワークを構築し、さらに場合によっては、クラウド上の資産も特定のハードウェアし、他企業の資産と物理的に切り離す運用をサービスオプションとして提供する方。


エンタプライズ市場にクラウドの利用が浸透していく為には、この辺の技術の提供、サービス内容の充実が必要な要件になって来る事は明らかである。技術的には然程難しい事ではない一方、恐らく課題になるのは、従来のOn Premiseでの運用と比較してROIが改善されるかどうか、コスト面での評価がポイントになる、と考えられる。

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