北米各州でのスマートグリッドプロジェクトの整理、共通の問題点の分析
電 力事業者が新しい装置や機器を導入した際のコストを回収する為に、電力料金の値上げを行使するのはスマートグリッドに始まった事ではなく、昔から行ってい る手法である。 しかし、昨今のスマートメータの導入に伴う値上げには大いに問題がある、と各州で議題として取りあげられ、Ohio州やTexas州などのように、この 慣習に規制をかける動きがでている。
Smart Grid Today誌の調査によると、Maryland州、Hawaii州、Michigan州、Indiana州、Colorado州、さらにVirginia州において、既にスマートグリッド導入による電気料金の値上げを禁止する条例の制定が行われている、との事。
Colorado州、Boulder市
同 市のスマートグリッドプロジェクトは、北米でも最も注目されていたものの一つであったが、電力事業者であるXcel Energy社の予算の大幅な超過が起因して、プロジェクト中断の恐れがでてきている程である。当初、$1530万ドルの予算でプロジェクトが完了する予 定だったのが、現時点では既に$4210万ドルまでに膨れ上がり、最終的には一億ドルに達するのでは、という予測もある。
Xcel Energy社 によると、予算超過の最大要因は、プロジェクトのパートナー企業の一つである、Current Group社に委託していた、通信インフラとして使用されるファイバーネットワークの工事にかかるコストであった、との事。
もう一点、大きな問題として指摘されているのは、プロジェクト自体が、州政府に対して、"Certificate of Public Convenience and Necessity,"と 呼ばれる申請を行っていなかった、と指摘されているのは。 この申請を行う事によって本プロジェクトのコストが予算超過した際の補填を保障し、プロジェクトに対する投資の上限を設定できる内容のものである。この申 請をしていなかった為に、Xcel Energy社は、コスト回収の為の電力料金の値上げを申請しており、州政府は$1100万ドルの値上げを承認している。
現時点において、Boulder市の住民でスマートメータが導入されている家庭は、全体の43%程度でほとんど本来の機能を発揮する用途に使われていない、との事。
Indiana州
現在、Duke Energy社は、当初のプロジェクトから大幅に縮小した計画書を改めて州政府に対して申請している段階。
当初の計画では、$4.5億ドルの予算で州全体に対するスマートグリッド導入の計画を立てていたが、州予算を承認する組織である、Indiana Utility Regulatory Commissionがこの計画を、「住民に対するメリットが見えない。」という理由で却下している。
修正に伴い、より小さなプロジェクトの申請が行われる事になった。今回は、予算$2200万ドルに下方修正され、スマートメータの台数も、80万台から、4万台に減らした。この縮小されたプロジェクトの結果をみて、その後州全体に適用するかどうかの判断を行う事である。
Michigan州
Michigan州の電力会社であるConsumers Energy社が当初予定だった、今後も5年間の$9億ドルのスマートグリッド予算を大幅に縮小し、$500億ドルに変更する事を発表している。
親会社であるCMS Energy社がスマートメータの導入コストの回収の為の電力料金値上げをMichigan州に申請しているが、同州のPSCから激しい規制を受けており、Elster社とのスマートメータの実証試験や、General Electric社とのWIMAXベースのAMI導入コストプロジェクト等も実施が危ぶまれている状況である。
California州
か れこれ一年以上も議論されてきた、Pacific Gas & Electric(PG&E)社のスマートグリッドの実証試験が民事訴訟までにエスカレートした問題は、PG&E社のカスタマーサービスの不備に大きな問 題があり、スマートメータ自体は正常に機能している、という結論が下された。
事の発端は、Bakersfield市に導入されたスマートメータ。導入とともに同市内の家庭で電力料金が高騰した、という報告が多発し、PG&Eに対する訴訟にまで発展する、という自体になった。この状況を受け、PG&Eが電力を供給し、スマートメータを導入した他の地域、San Francisco、Marin County等でも同様な動きが発生し始めてきた。
事件の調査の依頼を受けた第3者機関である、Structure Group社のStacey Wood氏によると、調査の結果、導入された1378台、全てのスマートメータにおいて、不具合は見出されす、正確な電力消費情報を記録している、と報告している。
つまり、電力料金の高騰は、他に要因がある、という事である。
要員の一つとして挙げているのは、この夏の異常な暑さにある、と報告している。さらにもう一つの要因としているのは、過去のメータの内約5%は、正常に機能しておらず、実は本来より少ない電力消費を記録していた、としている。
も う一つは、極わずかに新規電気料金の徴収にて誤りがあった事、さらに低所得者に対する割引システムにも誤りがあった事も指摘している。しかし Structure Groupが指摘しているのはその間違いではなく、顧客からのクレームを迅速に、そして正しく処理できなかった顧客サポート体制にある、という問題であ る。顧客に対する、スマートメータに関する紹介、そして導入によって何が変わるのか、という事を殆ど行っていなかった上に、顧客サポート態勢にも教育が行 き届いていなかったのが現状のようである。
同じカリフォルニア州において、San Diego Gas & Electric社やSouthern California Edison社が同様なタイミングでスマートメータを導入しているが、こちらのプロジェクトは殆ど問題が発生していない、という事もあり、PG&E社の問 題が大きく注目される結果に至っている。
今後衆議会は、Bakersfield市の民事訴訟をどのように扱 うのか、さらに今後ほかの地域に導入が予定されているスマートメータを継続させるのかどうか、継続的に審議する事になっている。また、カリフォルニア州の この一連の経緯は、同様な問題が発生しているてテキサス州等においても大きな関心の的になっており、カリフォルニア州だけに閉じる話ではなさそうである。
もう一つは、懸念としてあげられているのは、スマートメータが発生する強い磁場による健康被害の懸念である。Fairfax市などは、このような健康被害を懸念してスマートメータの実装計画を却下している、という状況である。
Hawaii州
他 州に引き続き、Hawaii州のPUCもスマートメータの導入プロジェクトを差止めた、という情報が明らかになっている。Hawaii州の電力会社であ る、Hawaiian Electric Co.社が$1.15億ドルの予算を投じてスマートグリッドプロジェクトを計画していたが、コンシューマの電気料金の値上げに直結しないスマートメータ導 入プランの提出をPUCに要求されている。
ここにおいても、コンシューマに対するスマートグリッドのメリットが明確に説明されているい、という事が問題視されている。
Maryland州、Baltimore市
Baltimore Gas & Electric社は、Mariland州のPSCに対して既に数回のスマートグリッド導入計画書の再提出を要求されている。 ここでも問題になっているのは、スマートメータの導入計画のコスト回収にコンシューマに対する料金をの段階的な値上げを計画している、という点である。
も う一つはBaltimore市が注目される要因がある。BG&Eはエネルギー省からのスマートグリッド導入助成金の満額である、$2億ドルを受け取ってい るため、プロジェクトの規模が他の州と比較して大きい、という点である。 もし、PCSに対する申請が却下される事にでもなれば、この$2億ドルの大金を政府に対して返却する必要がある。
最近の動きでは、BG&Eの最新の申請書がPCSに受領され、スマートメータの導入プロジェクトがスタートできるところまできているが、電力料金の値上げについては、プロジェクトコストの総額、$8.35億ドルの25%以内、という制限がつけられている。
PSC の主張は、スマートメータの導入自体がコンシューマの節電に直結する、という説明がなされていない、という事である。実質的には、スマートメータを統合す るエネルギー管理システムの導入も必要である、と指摘しており、その導入、実装も含めたBG&Eの計画案提出を要求している様である。
BG&Eの主張によると、このプロジェクトでコンシューマは$250億ドルの電力料金節約が実現できる、と述べているが、具体的にどのようなスケジュールや手法でそれが実現されるのか、あまり説明されていない事も指摘されている。
Texas州
While there may be certain potential benefits to the Smart Meters, ONCOR is not advertising that customers with smart meters will ultimately be charged different rates depending on when energy is consumed.
スマートメータにはそれなりのメリットがあるだろう、という書き出しに続き、Oncor社がコンシューマに対して電力料金の変更について教育をちゃんと行っていない事が問題である、と指摘している。
スマートメータを導入すれば即座に電気料金を自動的に節約できるのではなく、コンシューマが電気の使い方を変える、という努力も必要であり、それを正しくコンシューマに伝える事が重要である、という指摘である。
Baltimore市の状況を見ていると、スマートグリッド導入によって関する問題は、決して技術的な問題ではなく、マーケティング、教育の問題である、という事がよくわかる。
Virginia州同州の電力会社、Dominion Virginia Power社は、$6億ドルの予算を投じて、240万台のスマートメータの導入を計画している。 この大掛かりな導入計画の前に、現在既に55,000台のスマートメータの導入テストを州内2箇所で行っている。
まとめ