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9/1のSteve Jobs氏のキーノートスピーチを分析:iDataCenterの目的、その先の本当の戦略を読む

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昨日のSteve Jobs氏のキーノートスピーチは、生中継でストリーミング放映され、世界各地で同時配信されることになった。(写真は過去のイベントより)

Cult Of Macと呼ばれるAppleのフォロワーサイトによると、この生放映は、恐らくNorth Calorina州、Maiden市に建設中の大型データセンタの負荷テストを行う為に同データセンターからストリーミングしたのでは無いか、という予測 がでている。  別サイトでは、AkamaiのCDN機能が利用された形跡がある、との報告もある。

こういった噂が絶えない、現在建設中のApple社の新規データセンター、Apple社のクラウド事業に向けて、そのインフラを支える重要な役割を担う、ということだけが発表されており、具体的には何を実装するのかはまだ明らかにされていない。

スペックとしては下記の様な情報が明らかにされている。
●  総工費=$10億ドル
●  広さ= 50万平方フィート(約4.5万平米)
●  稼動開始が2010年末
●  約50人のスタッフで運営する
●  システムは、MacOS、IBM・Linux、Sun・Solarisベース
●  IBMのHACMP、HAGEOを始め、Veritas Cluster Server、OracleのDataGuardやReal Application Clusters等の、High Availability技術関連製品を多く採用する
●  ストレージ関連は、IBM、NetApp、DataDomainやTeradata社のデータウェアハウジング機能を採用する。
●  ネットワーク製品は、Brocade、Qlogic等

現在、Apple社の最大のデータセンターは、カリフォルニア州、Newark市にある11万平方フィートのの規模であるので、今建設しているものはその5倍近い大きさになる。

この巨大なデータセンターの用途として最も現実的な案として考えられているのは、iTunesのクラウドサービス化と同時に、音楽・ 動画を配信するサービス事業である。

Microsoft 社も自社のEdge Content Networkを運用しており、コンテンツ配信を行っている。少し異なっているのは、Microsoftの場合、世界各地にデータセンタを置き、データを キャッシングするシステムを導入してる事である。 一方、Appleは西海岸、さらに今回のイベントを通して建設される東海岸の2大データセンターで全てのコンテンツ配信を行う、集中型のシステム構成を目 指している。  東西にデータセンタを置き、5億人のユーザをサポートする、Facebookのアプローチに似ている。

このデータセンタを建設は、Apple社のOliver Sanche氏が取りまとる。 当人は、過去にeBay、Telecity Group、AT&T等のデータセンタの建設を手がけたベテラン。

Steve Jobs氏のキーノートスピーチでは、iTunesの発表と共に、iTVの次世代モデルが発表され、映画、テレビ等のコンテンツの配信を行う、という事も 発表されている。 この動画配信だけでも相当の規模のデータセンタが必要である、と想定される。 さらにPingと呼ばれるSNSサービスも開始し、これも動画、画像、音楽を複合的に取り扱うシステムとして説明されている。iPhone、iPad、 iPod等のデバイスの好調な販売と共に、iTunesのユーザは増化の一途を辿り、提供されるコンテンツの量も音楽、画像、に加え、動画が加わるとなる と、その量は大幅に増加するのは当然。  さらに、この大量のデータを今度はユーザのPC上ではなく、全てAppleが運営するデータセンター上で管理し、OnーDemandの配信で全ユーザに対 してリアルタイムで提供するサービスに転換するとなると、上記の規模のデータセンターが必要になってくるのはある意味では当然だろう、と思われる。

一方、それと同時にユーザのプライバシーとセキュリティの問題が話題として上がってくる事も想定できる。 Apple社のSNSとして発進したPingが既にプライバシーの問題を内在している、と指摘が早くも話題になってきている。

し かし、Appleがわざわざ超大量のユーザの音楽、画像、動画ライブラリを吸い上げてまで一括管理し、配信するための巨大なインフラを構築するのは、別な 理由がある、と推測せざるを得ない。単にこういったメディアの販売(動画はレンタルとの事)事業、という事だけではNetflick、Amazon等の e-Retail事業者と何ら変わらないし、基本的に差別化できる力があるわけでは無い、と思われる。

そこで、注目されるのは広告事業である。Googleをあそこまで成長させたモデルである。

Googleは、「検索」というアプリケーションを通して、ユーザの嗜好、動向などを集計し、それを広告事業に結びつけた事が成功の大きな鍵である。

Apple の狙いは、ユーザの収集する音楽、画像、映画、テレビ、等の「メディア」というアプリケーションを通して、その情報を広告事業に結び付けよう、としている のでは無いか、と想定できる。 Ping、が音楽・動画に限定したSNSである、という事を強調している事、Genius等の機能がユーザのの嗜好を無意識の内に集約している、という事 実、iTunesが既に米国のCDの販売数を超え、事実上の音楽配信の独占状態になった、という事実(iTunesロゴも変わり、CDの絵が無くなっ た)、等、いくつかの条件が揃っている。

$10億ドルかけて建設したデータセンター、以外と早くその投資の回収ができるかもしれない。

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