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商社マンの営業として33年間(うち海外生活21年間)、国内外で様々な体験をした。更に、アイデアマラソンのノートには、思いつきを書き続けて27年間、読者の参考になるエピソードや体験がたくさんある。今まで3年半、ITmediaのビジネスコラム「樋口健夫の笑うアイデア動かす発想」で毎週コラムを書き続けてきたが、私の体験や発想をさらに広く提供することが読者の参考になるはずと思い、ブログを開設することにした。一読されれば「読むワクチン」として、効果があるだろう。

妙な食べ物 その5 可愛い昆虫との共生食品

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妙な食べ物 その5 可愛い昆虫との共生食品
 三井物産の海外駐在で、ミツバチを飼っていたのは、私だけだろう。

 2年半ほどの期間飼ったが、ミツバチは本当に不思議な昆虫だ。そして可愛い。
 もともと私は小学校の時に、アシナガバチの研究で、京都市の賞を取ったことがある。それ以来、ずっと蜂の研究は忘れていた。ネパールのカトマンドゥ事務所長になった時、広い庭の家だったが、それ以上にカトマンドゥが常春で、年中花が咲いていて、王立植物園の近くで養蜂の会社を見つけて、俄然、昔の蜂を飼っていたことを思い出した。

 養蜂業の専門家と相談して即決、ミツバチを3箱購入して、庭に並べ、3群のミツバチを中に住みこませた。最初は蜜が無いから、砂糖水を与えながら、飼い始めた。家に住み込んでいるガードマンにミツバチの面倒を見させることにした。ほぼ2週間に一度ずつ養蜂の専門家がチェックに来ていた。

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 私が帰国する時には、交代の事務所長でも、よほどの物好きでない限り、ミツバチは飼わないだろうから、その時に、ガードマンに3箱のミツバチを譲るつもりだった。


 ガードマンだから、門の内側にいるので、その横の庭の3箱のミツバチは、いつでも視界にある。最大の強敵はスズメバチだ。一日に数十匹ものスズメバチがミツバチを襲ってくる。ミツバチを食べにくるのだ。

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 ミツバチは自らの命をなげうって、スズメバチと闘う。数十匹ものミツバチが団子のようになって、スズメバチに覆いかぶさり、窒息させるという。ガードマンは、板きれを持っていて、それでスズメバチを叩き落していた。

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 私は毎日、会社に出るまえに、ミツバチの箱の天井を開けて、ミツバチたちが忙しく働いているのを見た後、出かけていた。ミツバチの元気なのを見るだけで気分が良くなった。私は一度もミツバチに刺されたことはない。怖いと思ったこともない。ところがスズメバチをやっつけて、ミツバチを守っていたガードマンは3度ほど刺されていた。家の犬は、ミツバチを飼い始めた直後に鼻を巣箱で嗅いで、刺されて以来近寄らない。

 ガードマンは、多分、黒いシャツを着ていたので、クマと間違えられたのではないだろうか。

 カトマンドゥは、冬も雪は降らない。しかし、かなり冷えることもある。毎朝見ると、前の日の夕方に巣箱に戻ってきたミツバチが、巣箱直前で力尽き、近くの芝生で仮死状態になっていた。手の平に載せて、息を掛けると、ぴくぴくと動き始めるのだった。

 雨季には毎日雨が続く。そうなると働きに出られない。巣箱の中の蓄えられた蜜をみんなで食べざるを得ない。そんな時には、連日、砂糖水をお手伝いさんが与えることになっていた。

 このブログのタイトルの奇妙な食べ物と付けているが、考えようによってはハチミツほど変わった食べ物は無い。人間が食べるもので、昆虫がつくる食べ物って、他にあるだろうか?もちろん蜂の子やイナゴなど、他の色々な昆虫を食べる風習は世界中にあるが、昆虫の生産するものをそのまま食べるのはハチミツだけだ。

 このハチミツができるまでが大変!
巣箱から飛び出していくミツバチは、航空母艦から出撃する飛行機のようだが、巣箱から数キロ離れた花を求めて、飛んでいく。花の微量の蜜を掬って、蜜袋に蓄えていく。一日中集めて、自分の体液というか、唾と混ぜて、蜜袋に蓄えても、この蜜はサラサラの流れやすいもので、ミツバチは飛行中にこのサラサラの蜜を少しでも乾燥させて、ドロッとするように、努力しているのだ。

 ミツバチが巣から遠くの花をめがけるのは、この飛行中の乾燥が効果を得るだけの距離を確保するためだから大変だ。

 巣箱の入り口の板台に到着すると、蜜袋に入っている蜜を他のミツバチに口移しする。それを何度か繰り返して、その都度、ミツバチの体液と混ぜて、粘度を上げて、味を変えて、巣の中の蜜の貯蔵庫に入れる。

 貯蔵庫には、蜜や花粉、そして、卵から幼虫、さなぎの領域に分けられていて、幼虫がさなぎになるまでは、口移しで餌を与える。

 蜜の貯蔵庫に入っても、まだ乾燥度が足らなかったらサラサラと流れ出る、そのために、働き蜂は、一晩中羽をブンブン動かして、乾燥を続けている。巣の中の温度が高くなりすぎると、やはり一晩中羽を動かして巣内を冷やそうとしている。

 働き蜂は、生まれて死ぬまで、数十日間まさに二十四時間働き続けるのだ。そこにはまったくブレはない。これも考えられないことだ。こうしてできたハチミツは、私が知っている限りでは、昆虫の作った、昆虫の体内を通過した食品では、人間が食べるのはハチミツだけではないだろうか。それも加工しないでそのまま食べている。ミツバチの蜜の中に、感染菌や寄生虫などを考えたこともなく、甘い、甘いと食べているというのはすごい。もちろん、プロポリスなどの成分が腐敗を防いでいるのだが。ハチミツは千年も賞味期限があるというが、本当だろうか。

 数百年前までは、ハチミツは唯一の甘さで、その価値は計り知れないものだった。そして、驚異のロイヤルゼリーが、働き蜂を女王蜂に育てあげ、女王となると、毎日数千個ずつ卵をうみ続けて、数年間生きるという。この分野でも、まだまだ未知のことが、残っている。なぜ、こんな威力があるのかは、明確になっていない。

 ハチミツは、本当に驚異の食べ物だ。カトマンドゥでの我が庭のハチミツを採取した時、全部取り上げないで、一部にとどめて、ミツバチと共生するところも好きだ。採取した2リッターほどのハチミツを、私はスズメバチを殺す役目のガードマン、時に砂糖水を与えるお手伝いさん、そして毎日巣箱を覗いては、悦にいっている私の3人で分けた。混ざりもののないハチミツ、その味を忘れられない。

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 日本では、日本ミツバチだが、当時ネパールで飼っていたのは、西洋ミツバチだったと思う。写真はすべて私の撮影で、カトマンドゥだ。





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