オルタナティブ・ブログ > 読むBizワクチン ~一読すれば身に付く体験、防げる危険~ >

商社マンの営業として33年間(うち海外生活21年間)、国内外で様々な体験をした。更に、アイデアマラソンのノートには、思いつきを書き続けて27年間、読者の参考になるエピソードや体験がたくさんある。今まで3年半、ITmediaのビジネスコラム「樋口健夫の笑うアイデア動かす発想」で毎週コラムを書き続けてきたが、私の体験や発想をさらに広く提供することが読者の参考になるはずと思い、ブログを開設することにした。一読されれば「読むワクチン」として、効果があるだろう。

妙な食べ物 その4 この臭いは

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妙な食べ物 その4 この臭いは
 サウジアラビア時代に友達になったスウェーデン人の自宅を家族で訪問した。ストックホルムから約400キロほど北の町だ。

 夏まつりの7月中旬だというのに、午前中は、寒くて、しとしと雨が降っていた。11月後半のような天気だった。
 午後は、一応晴れていたが、どんな天気の中でも、スウェーデン人はバーベキューを遂行する。肉や野菜を焼きながら、
「健夫、これがスウェーデンだよ」と、直径15センチほどの大きな缶詰を取り出してテーブルに置いた。

「これを今から開ける。覚悟はよいか?」と言う。
「何の覚悟だ?」と、何が起こるのか、分からなかった。
「この缶詰は、スールストロミンといって、この缶詰は、飛行機では手荷物も、預け入れ荷物も持ち込み禁止されている。万が一、この缶詰が荷物で持ち込まれて、缶が破裂したら、飛行機は大変なことになり、近くの空港に不時着して、膨大な損害を賠償請求されてしまう。それだけ臭いのだ。しかし、旨い」
「何なんだ、それは」
「ニシンの缶詰だよ」
「そんなに臭いか」
「私はその臭さを保障する」
「どんな臭いか」
「まさに、大便の臭いなのだ。さあ、開けるよ」

 ヨメサンと長男は6メートル、その庭の端まで、逃げた。
「この缶詰を見ろ、外側に膨れているだろう。これは内部のガスが溜まっている証拠なのだ。これを飛行機の荷物室で気圧が低いところに持って行くと、缶が破裂しやすい。そして、大便の臭いの汁が噴き出す」

 友人が缶切りで、開けようとした時、私も3メートルは離れた。
「プシュー」とガスが抜けた。

 その後は、手続き的には普通の缶詰。そして、蓋を取り払った。まずは、友人が試食する。
「旨い。これだよ、これだよ。サウジでは食べられないよ」
「そりゃそうだ」
「じゃ、健夫、お前食べるか」
「おう、やってみよう。あの、小さい切れっぱしを」

 友人が、小さな端切れをフォークで刺して、私に向けた。私は手を伸ばして、恐る恐る近づけたら、出た―、すごいNコの臭い。これはゆっくりと口に接近は難しい。「ええい」と、手に命じて、一気に開いている自分の口に投げ込んだ。顔全体がNコの臭いのバリアに包まれた。その次の瞬間、飲み込んだ。よく味わう時間も無かった。ただ、それまでは、外部臭気に怯えていた自分が、一瞬の後に、臭気発生源になったことで、複雑な心境となった。

 ただ、この臭いは、戦後の我々日本人の便所の臭いを思い出したので、西洋人よりも慣れやすい臭いではないか。また、くさやなどでも、予行演習していることから、案外、日本でも珍味として通じるのではないかと思っている。
 発酵を抑えて、丈夫な缶詰での輸出も考えて良いのではないだろうか。

 しかし、このスールストロミンよりも強力な、ものすごい食べ物があるという。それはハカートルというグリーンランド鮫の腐れ漬けだ。グリーンランド鮫の血液には、酸化トリメチルアミンと尿素が含まれていて、不凍液になっている。この鮫を人がそのまま食べると脳障害を起こすという怖い魚だ。

Greenland Shark.jpg

(写真は、RS-fielf blodspot.com より)
 
 アイスランドでは、(他にも食べる魚は一杯あるだろうに)グリーンランド鮫を捕まえて、まず半年間、地中に埋めて腐らせる。それから数週間、外に吊るす。もうどうしようもない腐敗臭がする。これを食べるのだ。彼らの祖先のバイキングが1000年以上前から食べてきたものだという。この腐った鮫を船に載せて、遠くまで旅をしたのだろうか。食べる時は、多量のシュナップ酒で洗ってから食べる。大変な食べ物があるものだ。(参照: 感動する科学体験100、News Science社樋口健夫、樋口容視子訳、技術評論社、P180)


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