電力規制について 高級電力を保ってほしい
電力規制について 高級電力を保ってほしい
私は33年間の商社マンの間、約19年間、海外勤務をした。
西アフリカのナイジェリア・ラゴスに3年半、サウジアラビアの首都リヤドに8年半、ベトナムのハノイに2年、そしてネパールのカトマンドゥに4年半駐在した。
その間、すべての国で、ひどい停電を味わって生活していた。ナイジェリアは、慢性的に停電していた。ベトナムも駐在当時は、頻繁に停電があった。水も出なかった。
ネパールでは、大きな自家発電設備が付いている家を借りていたから、停電になると、発電機を始動していた。ネパールでは乾季の冬に計画停電が続いていた。
サウジアラビアは、最初の3年間ほどはひどかった。3年目ころから電力事情は日々良くなっていったがそれでも、電圧低下や瞬間停電はよくあった。
普通のこととして、猛烈に暑いサウジアラビアのことで、午後や夕方には異常な電圧低下現象が頻繁に起こった。電圧が低下すると、電球が暗くなり、エアコンが狂って大きくバタバタバタと轟音を立てて切れる。多分、市内の何万台ものエアコンが同じように停まるのだろう。
そうすると、今度は、電気の負荷(サウジアラビアの場合、ほとんどがエアコン)が急に無くなったことで、発電されている電気が負荷が無いことから、電圧が急激に上がる。220Vが260Vより高くなると、今度は電球が耐えられなくなり、電球がピンピンと切れてしまう。慌てて電気のスイッチを切りに回るのだった。
こんなことをしていて、家電製品も、エアコンも、すべてすぐにガタガタになってしまう。電圧の安定した、停電のないことは、電気製品が長持ちすることなのだ。
私が家族で駐在していた19年間は、このようなひどい電気の状態だった。このような状態のところで、ちょっとした工場を運営するためには、巨大な自家発電設備を入れる必要があった。その設備や燃料、運転員などの費用は、直接製造コストに跳ね返った。
私たちの自宅でも、デスクトップのパソコンを使うということは、無停電電源設備を追加で購入することになり、その分費用が掛った。
人間は、こうした状態にも慣れてくる。しかし、日本に帰国した後は違った。日本は最高級の電力供給の国だった。私が覚えている限り、ネパールから帰国した2004年以降に、私の家で停電したことは無い。こんな国は、世界にない。まさに、電気、水、ガスは、ひねれば点く、ひねれば絶対に出るように思いこんでいる。
それが今度の夏からは、難しくなってくる。関東圏内にあるすべてのエレベータの数、エアコンの数、冷蔵庫の数、デスクトップパソコンの数、それらを考えると、瞬間の停電でも、これらの機器は狂ってしまう。
自動パン焼き器は、寝る前に仕掛けて、朝焼けているというものだが、この機械は瞬間の停電があると、タイマーが狂う。そうなると、もうパンは焼けない。洗濯機のタイマーも狂うだろう。
深刻なのは工場だ。半年ほど前に、中部電力がほんの一瞬の電圧変動をしたら、最新鋭の半導体製造工場の生産に大きな影響が出て、多大な損害が生じたという。
日本が誇る技術や先端技術は、絶対に停まることの無い電力を大前提にしているものが多く、最高の電力供給があったおかげで、日本の安定した輸出が実現できていたのだ。
これらが揺らぐこと、いや瀕死の状態に追い込まれることになった。日本は輸出できなくなれば、外貨が入らなくなり、輸入できなくなる。輸入ができなくなると、私たちは、生活レベルの低下を被ることになる。この高級電力を支えてきた日本の電力会社にとって、今回の状況は断腸の思いだろう。
特定の停電不可能な工場への供給は、送配電のルートや特別の配電の工夫で、地域が停電になっても、生かしてほしいと思う。地域の住民もそれを理解して欲しい。たとえ、私のマンションが停電になっても、仕方がない。これらの日本の誇りの工場群を停めないで欲しいと願っている。
東京都を初めとする東京電力の管内での電力規制のために、省電力のアドバイザーを早急に多数育てる必要がある。ホームアドバイザーと企業向けのコーポレートアドバイザーを何千人単位で、育てて管内を回らせる必要があるだろう。
今回の体験が、将来の防災に必ず反映されることになると、私は信じている。そして、高級で、安全で、未来をみつめた新しい技術に積極的に取り組み、さらに緊急事態での対応も十分な信頼できる電力会社になってほしい。