書評「さりげなく思いやりが伝わる大和言葉」
書きものをしていると、表現につまずくことがよくある。そんな時は、大辞林、記者ハンドブック、現代国語表記辞典といった辞書を使うこともあれば、ググることもある。そういうわけで、表現集なるものは目を通さないわけにはいかない。
先日、ある方から「いい本よ」と薦められたのが、上野誠さんの「さりげなく思いやりが伝わる大和言葉」常識として知っておきたい美しい日本語(幻冬舎)だ。
この本では、日本語を「大和言葉」と「外来語」に分けている。この二つを区別することがポイントなのではなく、それぞれに歴史があるということを考えさせるためだ。外来語については、外国の言葉を学びながら日本語に取り入れて定着させようという努力により今日の私たちが使うようになったものだと説いている。
外来語を無理やり大和言葉に置き換えようとする必要もない。ただ、日頃から、この本で紹介されている表現を意識して使うようにするだけでいい。大和言葉ならではの、さりげなく思いやりが伝わるニュアンスというものを身につけていけるだろう。
大和言葉を使いこなすセンスを磨くには、日々、使う意識を持っていなければいけない。電子ブック版を購入してスマホに載せておけばスキマ時間に学べるので便利。
少し中身について触れたい。
「さりげなく思いやりが伝わる大和言葉」と題して、11章に分けて大和言葉と言葉の由来や使い方が紹介されている。
第2章の「場をなごませるひと言を使いこなす」に、ひどい混乱ぶりを表す「上へ下への」という言葉がある。次のような使い方をする。(p.28より引用)
つい30分前に、本社の社長がこの支店に寄るという電話が入った。慌てたのは言うまでもない。支店内は上を下への大騒ぎとなった。
上のものが下になるということで、混乱ぶりを表している。例えば大掃除。突然、本社の社長がやってくるとなると何もせずに待っているわけにはいかない。準備のためにあたふたと大掃除をするはずだ。かたや、年末恒例とも言える大掃除も同じように上から下へ、下から上へとものを動かすこともあるが、急遽しなくてはいけなくなった掃除ではない。こういった例をあげながら、本書ではニュアンスを説明している。また「下克上」のことを「上を下への大騒ぎ」というのは間違いであるといった指摘もしているので、つい間違って覚えてしまっていた大和言葉を学び直す機会にもなるだろう。