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EU、オープンソースを支持する調査書を発表

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オープンソースソフトウェアに対して好意的な見解を示してきた欧州連合(EU)だが、先日、欧州委員会(EC)がオープンソースに関する新しい調査書を発表した(ニュース記事はこちら)。欧州のICT競争力におけるオープンソースを分析、EUの“2010年までにナレッジエコノミーを築く”という目標達成に重要と位置づけている。

このレポートを作成したのは、オランダにあるマーストリヒト大学MERIT(国連大学新技術研究所)。MERITが以前作成したレポートは、独ミュンヘン市など欧州の公共機関によるオープンソース採用に少なからず影響を与えたとされている。

今回の調査書は278ページという膨大なものだが、以下に要点をまとめてみる。なお、レポートは“FLOSS(Free/Libre or Open Source Software)”という言葉を用いているので、それを使うことにする。

経済におけるFLOSS
・欧州のOSにおけるFLOSSのシェアは米国のそれより高い
・FLOSSアプリケーションはWebサーバ、サーバOS、デスクトップOS、データベースなどでトップクラスのシェアを占めている
・FLOSSの市場普及率は、公共部門、企業部門でともに増加している
・FLOSSソフトウェアの3分の2は個人開発者により開発されている
・個人開発者のグローバルなコラボレーションという点で、欧州はリードしている
・欧州においては、中央ヨーロッパ、スカンジナビア地区にFLOSS開発者が多い
・ビジネスでは米国がリード、欧州は個人開発者の貢献が特徴

経済に与える影響
・品質管理とディストリビューションが適切に行われている既存のFLOSSアプリケーションの経済価値は120億ユーロに相当する。このようなFLOSSの開発コードはこの8年間、18~24ヶ月で倍増というペースで増えている
・このような既存FLOSSソフトウェアは、労働力にして13万1000人年に相当。年間8億ユーロに相当するコードがボランティアで開発されており、半分は欧州から
・無償で提供されるFLOSS開発に企業が投資している額は約12億ユーロ。これは、56万5000人の雇用に相当する
・2010年には、FLOSS関連サービス市場は全ITサービス市場の32%に
・2010年には、FLOSS関連の経済規模は欧州GDPの4%に
・FLOSSがEUで社内開発されるソフトウェアに占める割合は29%
・米国ではプロプライエタリパッケージベンダの雇用率は全ソフトウェア開発者の10%以下で、ITユーザー企業がソフトウェア開発者の70%を同レベルの給与で雇用している。そのため、FLOSSがプロプライエタリソフトウェアの雇用を侵食する可能性は低い
・FLOSSはSMBの創出に貢献する。欧州は歴史的に米国と比較してベンチャーが育ちにくいことを考慮すると、FLOSS開発者は新しいソフトウェア事業の創出にユニークなチャンスをもたらすだろう
・FLOSSはソフトウェアの研究開発費を36%削減可能
・EUはGDPに占めるICT投資比が米国より低いが、FLOSS利用を促進することは、これを埋め合わせることにつながるかもしれない。ソフトウェア開発においてFLOSSが占める比率を20%から40%にすると、EUのGDPは年に0.1%増えると予想される

トレンドなど
・EUにおけるFLOSSへの投資額は220億ユーロ(全ソフトウェア投資の20・5%)。米国は360億ユーロ(同20%)
・FLOSSにおける欧州の強みは開発者コミュニティ/弱みはICT投資全体が低い点、大企業のFLOSS採用が低い点
・FLOSSは新ビジネスのチャンスを提供するものだが、既存ビジネスを保護しようとする政策がもたらすFLOSSへの脅威は大きくなっている

レポートではアドバイスとして、競合前段階の研究および標準化におけるFLOSSサポート、学生に特定のアプリケーションではなくスキルを学ばせることで、ベンダーの囲い込みを避ける、学生にFLOSS的なコミュニティへ参加するよう奨励する、大企業、中小企業、FLOSSコミュニティの提携を奨励する、ハードとソフトの分離は市場の競争を奨励し、イノベーションの形を柔軟にする、などを提案している。

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