「人生ゲーム」は、ズルとルールが隣り合うリアルな世界だった
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最近はテレビゲームが全盛になって、あんまりアナログな「ボードゲーム」というものを見なくなりましたが、小学校の頃は人生ゲームとか、お化け屋敷ゲームとか、みんなでワイワイ、ボードゲームを囲んで楽しんでいたものです。
子供が大きくなってきて、もう少し物心がついたらボードゲームも出来るようになるかなと思い、最近、今時のボードゲーム事情を調べてみています。
しかし、やはりというか、最近のボードゲームは一部の大人向けに提供されているものが主となっており、子供向けには、あまり流行ってはいるとは言えないようです。
確かに、今はテレビゲームが発達しているので、毎回ルーレットを回したり紙のお金を数えたりする、面倒なボードゲームを選ぶ必要もないのかも知れませんが、アナログなボードゲームには、テレビゲームがどれだけ綺麗な画像を使ってもかなわない、抜群の「リアル感」があります。そのリアル感とは、ズバリ「ズル」です。
これはまあ、僕の仲間うちだけの話かも知れませんし、あんまり変な事を書くとちゃんとしたボードゲームの人に怒られてしまいそうですが、僕達は人生ゲームを「ズル折り込み済み」で遊んでいました。
ズルの手口
一番ライトなズルは「お札隠し」です。これはお金が溜まってきた時に、一番額面の大きなお札をこっそり盤の下なんかに隠してしまう、というもので、お金があまり無いように装う事ができます。
そうすると、例えば、お金が半分になるイベントで被害者を選ぶ時に「こいつは貧乏だからやめてやろう」なんて、お情けをかけてもらえたりしますし、自分の正確な順位がばれにくくもなりますので、相手の油断を誘う事ができます。もしばれても「あれー?こんなトコにお札が入り込んでた!危ない危ない」なんて言っとけばなんの問題もありません。
子供とはいえ経験を積むと、こんな技も含めて駆け引きが行われるようになり「あいつは10万ドル隠しているはずだから実際には25万ドルくらいか」とか、隠し財産も含めて計算しながらゲームを進めるようになります。そんな時は額面の小さなお札を少しづつ隠すようにするなど、やり口が高度になっていきます。
もう少しブラック感の強いズルは「お釣りごまかし」です。簡単にいうと、ドベになってションボリしていると、銀行の係をしている人が、ちょっとだけお釣りをごまかして多めにくれるのです。
そして、同じように自分が銀行の係をしている時には、その親切な人が困っている時にはお返しをしてあげたりもします。いわゆる日本的なというか、人情的なというか、談合的な馴れ合いの世界です。ほめられたものではありませんが、なんかちょっとリアルに人生を感じるのは僕だけでしょうか。
ポイントは、ゲームを左右するような金額はズルしないという事です。あくまで、お釣りの端数をごまかす程度、八百屋のおじさんの「キュウリ一本おまけしといたよ!」くらいな感じに留めておきます。なぜなら、これはゲームに勝ちたい、勝たせたいからのズルではなく、アナログなボードゲームだからこそ滲み出てくる人情味のようなものが、ルールをはみ出た部分で、ズルという形に昇華したものだからなのです。うん、悪くない。悪くないですね。
ルールの隣にある世界
実際の世界でズルをすると、大概は何処かでしわ寄せを受ける人が出てきますし、最終的にはかけがえの無い「信用」を失う事になりますからいけませんが、ゲームの世界では、全員が暗黙的にズルを認めていると、ズルも含めた全体が「ゲーム」となりえます。実際、お札を隠す技を最初に見た時は「そんな方法があるのか」と、その頭の良さに感心した記憶があるくらいです。
モノポリーとか、ディプロマシーとか、駆け引きそのものがルールの中に組み込まれているゲームならともかく、駆け引きがルール化されていない人生ゲームにも、盤の下に隠された本当の金額を読み合ったり、隠すお札を選別するために両替のタイミングを測ったりという駆け引きが、自然に生まれて来てしまう。これは、アナログなゲームにしかありえない魅力だと思います。
これが、テレビゲームのボードゲームだと、そうは行きません。お札は数字となってバッチリ画面に表示されますから、額面の大きな札を隠す事も出来ませんし、収入やお釣りは寸分の狂いもなく管理されます。そこには変えようの無い厳格なルールがあり、そこから外れる事は許されない、というか、決まったルール以外の世界が、そもそも存在していません。
リアルの世界では、ルールを守っていたとしても、決まったルール以外の世界が、すぐ隣に存在していて、自分達がその気になればルールそのものを変える事も出来てしまいます。テレビゲームは便利で面白いけれど、テレビゲームしか知らずに育ってしまうと、そこにあるルールは「絶対的」で、自分達で変える事出来ないものだ、という概念を強く持ってしまう危険性もあるのかなと言う事を、人生ゲームと、そのズルの思い出で考えたりしました。
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