週末養蜂がしたくなってしまう良書 - ハチはなぜ大量死したのか
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「ハチはなぜ大量死したのか」は、「2007年の春までに、北半球から四分の一のハチが消えた」という、衝撃的な「事件」について語ったノンフィクション。昨日までハチで溢れていた巣箱から、大量のハチが一夜にして失踪してしまうというのは、養蜂家にとっては本当に悪夢のような問題だと思います。
ソフトウェアパッケージ業である自分の身に振り替えて考えると、長い時間をかけて必至で磨いてきた製品のソースコードが、いつの間にか全てのバックアップごと、記憶媒体から煙のように消えてしまうたようなものでしょうか。そんな事はありえないはずだけれど、地軸がどうとかいった関係から突然めちゃくちゃ強力な磁場が広範囲に発生し、全ての記憶媒体からデータが消えてしまう、なんてSFみたいなことも、起こりうるかも。
つまり、養蜂家にとってこの事件はそのくらい理不尽な、悪夢のような現象だろうと想像される、という事です。
そしてその養蜂家の悪夢は、実は我々の生活にも関わっています。ミツバチを必要としている人には、ハチミツを生産する養蜂家だけではなく、果実を栽培する多くの農家も含まれているからです。ブルーベリーやリンゴ、チェリー、アーモンド等、多くの農家の収穫はミツバチの働きに大きく影響されます。そして、その結果は果実の価格高騰として我々のサイフにも跳ね返ってきます。
つまり、この現象「蜂群崩壊症候群(略料:CCD)」は、ハチミツが高くなるというだけの問題ではなく、広範囲に、多くの人に深刻な影響を及ぼす可能性があるのです。
CCDの謎を解明すべく、養蜂家、研究者は多くの容疑者を取り調べていきます。犯人は電磁波なのか、それとも以前から養蜂家を悩ませているダニなのか?新種のウイルス?あるいは土壌に染み込んだ農薬なのか。原因を追跡する中で、問題はミツバチを一流の経済動物に育て上げた養蜂の歴史、近年の農業の大規模化等と複雑に絡まり合っていることがわかってきます。
ミステリーを理解するために、少しづつ語られる蜂の生態、養蜂の歴史は本当に面白く、読者に自然と「問い」を芽生えされます。どうしてこんなにたくさんの問題点を養蜂は抱えているのか?本来あるべき養蜂とはなんなのか。そもそも、自分は本当のハチミツを食べたことがあるのかな?
ミステリーの結論めいた話は一応、ここでは書かないでおきますが、この本が重要なのは、ミステリーの結末ではなく、それを追跡する中で得られるミツバチや養蜂への理解と問いであると、僕は思います。
例えば、本を読み終わった今、僕は今までは風景にしか過ぎなかった「養蜂家がちゃんと作った」ハチミツを食べてみたいと思っていますし、そればかりか「養蜂」をしてみたいとすら思っているのです。かなり本気で。
晴れた日に頭からあの網みたいなのがついた帽子をかぶり、手袋をつけて巣箱を開いては蜂の様子を見る、だとか、巣箱のそばにたたずんで、中から聞こえるブンブンという音を聞くだとか、自分のハチ達が花を探しに飛んでいくのを眺めるというのは、なんとも幸せそうに感じます。たまにテレビのドッキリ人間とかで、顔面いっぱいに蜂を群がらせてるおっさんが出てくるけど、あれは本当に蜂が好きなんだよ、たぶん。
あまりこんな事を書くと引くと思いますけど、それほど、この本で説明されるミツバチの生態というのは、不思議で、精巧で、愛らしい。そして自然に対してミツバチのような受粉昆虫が果たしている役割も、普通の人が考えているより遥かに大きい。それを理解する人が増える、ということが、CCDの問題を紹介するという事に留まらない、著者の一番の願いなのだろうと思います。
文庫が出ちゃってるので、書評としては遅いのですが、いい本なので、興味のある人は是非読んでみてください。
そして虫嫌いの僕の妻にも、是非読んでみて欲しいものです。
週末養蜂への布石として・・・。
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