わかってもらえないハローワーク
自分自身の事として十分にわかっているはずであるにも関わらず、最も回答に悩む質問の一つが、「パパは会社でどんな仕事をやっているの?」というやつかもしれない。答え方は子供の年代や理解力に依存するので一概には決まらないだろうが、子供にとって異次元の活動内容をどう説明したものかと頭をひねってしまう。例えば娘が幼稚園に通っていた時分は、当人が身近に見聞きする範囲内の概念で回答を完結させなければならない。会社の仕事というと、せいぜい何かを作るか売るか程度の活動しかイメージされないので、思案した挙句「コンピュータという機械を作っている」と回答した。
実態としては、営業担当者ではないものの売る側の部門に所属しているわけであるが、「売っている」とするとそれは「いらっしゃいませ」とどこかでやっていると思われる恐れがある。ところがこの「作る」という言葉を聞いて、どうも日曜大工とまではいかないが、ドライバーやらペンチやらを持ち出して組み立て家具と格闘している様を思い出したらしい。いや何かを組み立てているわけではなくて、売れるためにどういうコンピュータを作ればよいか考えるのが仕事なんだよ、ということで一旦は落ち着いている。
仕事として何をやっているかという質問を投げかけるのは、必ずしも子供に限らない。先日は僕の授業を受講している就職活動中の大学生から、似たような質問を受け取った。授業の最初に自己紹介してあるので、僕の身分は知られている。どうやらIT業界に興味を抱いているとの事だ。これはきちんと答えてやらねばとあれこれ思案したのであるが、結局娘に対するのとあまり変わり映えのしない、コンピュータの売り方を考える仕事、と芸のない回答になってしまった。売るための策を考えるとは、マーケティングのフレームワークと言われている4Cとか4Pなどを活用するのか、と至極真面目に畳み掛けてくるものだから、かえってこっちがしどろもどろになってしまう。確かにそんな事を授業で紹介したことがあった。なかなか授業を真面目に聞いてくれているらしい。いや公式は公式として意識はするのだけれども、それだけでは割り切れないことがあって現実はもっと泥臭いよ、あとビジネスパートナーやお客様に製品の価値を訴求するのも主な仕事の一つかな、と説明するところまでで、それ以上の追及は無くて終えることができた。
う~ん、これではいかんな。他人に理解してもらえるような回答ではないじゃないか。いつ問われても良いように、わかりやすい説明を用意しておかねばと思ったのだけれど、僕が自分の父親の仕事をこんな事だったんだなと、具体的にイメージできるようになってきたのは会社に入って何年か経過してからだったような気もするのである。TVなどで見聞きしない限り、売る・作る(生産する)・開発する、のどれかにぴたりと当てはまらない仕事を、社会人経験のない人間にイメージせよと言う方が無理なのだろう。
娘から又いつ同様の質問を投げかけられる事があるかも知れない。今度は理解してもらえる・もらえないに関わらず、「パパの仕事はカッコいい」と思ってもらえるような答えを用意しておくこととしよう。