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ある時はコンピュータの製品企画担当者、またある時は?

スキー場で遭難者を出しそうになった話

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東京近辺で雨が降ると、ああ山は雪だなと思えばうっとうしさも半減する。今年も十分な積雪はあるようなので、先日家族で上越にスキー旅行に行ってきた。僕がスキーを始めたのは会社に入ってからだ。道具代やら旅行代やらを考えると、大学生がちょこっとアルバイトをして貯めた金で賄える程度のものではない。そもそも夏には山登りに忙しかったので、仕方なく冬季はじっと都会付近に閉じ篭っているしかなかったのである。

熱心に取り組み始めたのは、アメリカ・カリフォルニア州はサンノゼに駐在に出かけた時である。独身で他にすることもなかったし、ちょうど暇を持て余していた同様の境遇の日本人が同じアパート(1020世帯の居住空間を収容する建物が何十とあるような団地のようなイメージ)に住んでいたので、よく週末に誘い合わせてはスキーに出かけていた。金曜夕方定刻に会社を出て45時間も車を飛ばせば、かつて冬季オリンピックが開催されたこともある、ネバダ州境近くのSquaw Valleyに到着である。そして土日曜にリフトの運転開始から終了まで滑りまくって帰宅する。こんな生活を1シーズンに10回近くも過ごしたろうか。おかげで大抵の斜面は転倒せずに降りてこられるようになっていた。帰国後も何度か会社の仲間とスキーに出かけ、まあ何事もなく楽しくやっていたと思う。

八方尾根に仲間67人で出かけた時は、スキーを履くのはほとんど初めてといった初心者が一人混じっていた。最初のうちは皆で滑っていたのだが、せっかく八方という広いスキー場に来たのだから、各自の技量に合わせてあちこちで滑りたい、という声が上がり始めた。そこで集合時間と場所を決め、一旦解散をした。初心者に対してはコース図を確認してなだらかな斜面を示しながら、その地域に留まっていて欲しい旨念を押した。下手な所へ行って遭難されてしまっては困るのである。

さてリフト営業時間が終了する集合時間が来ても、件の初心者はやって来ない。夕闇迫る中で遠くに人影を見つけては近寄って行くのだが当人ではない。一時間近くもすると視界も利かなくなってきた。リフト降車場の人がスキーで滑って来るのをつかまえてはそれらしい人を見かけなかったか聞くのだけれど、目撃していないと言う。もしかしたら先にペンションに帰っているかもしれないと急ぎ戻ってみたがまだであった。これはいよいよ遭難か、捜索隊を頼まねば。最初は冗談交じりだったのが、次第に蒼白になりながら、件の初心者のご両親に何と説明しようかということが頭をよぎる。初心者を放置するとは何事だという非難の声が頭の中で響き渡る。仕方ない、捜索を頼もう、と決めかかった時、件の初心者が何の前触れもなくタクシーに乗って帰って来た。皆ほとんどその場にへたり込んでしまった。

集合場所はわかっていたのだが、真直ぐに降りて来ることができず、横へ横へと流されるように降りてしまい、遠く離れた場所に降り立ったのだと言う。そしてリフトも止まってしまい、板を持って水平移動するのもつらいので、タクシーで帰ってきたとの事。当人は割合にケロリとしていたのが救いだったように思う。この時の経験は皆に強烈な教訓を残したのである。たとえ何があっても、初心者をスキー場に一人にしてはいけないと。はるか昔の経験なのだけれど、未だにこの教訓は僕にとって絶対的なのである。

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