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ある時はコンピュータの製品企画担当者、またある時は?

床屋ビジネスのイノベーション

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この前ぼんやりと見ていたTVニュースによると、1000円床屋のビジネスモデルの根幹を揺るがしかねない規制が議論されているらしい。どうやら散髪後の洗髪用設備の設置を義務付けるべきだと主張している人達がいるのだそうだ。別に僕はそんなものが必要だと思ったことはないんだけど、衛生上の懸念があるからというのがその理由だ。

クレイトン・M・クリステンセン著の「イノベーションのジレンマ」流に言うと、1000円床屋は従来の洗髪もする床屋に対する破壊的技術に相当すると考えればよいのだろう。要するに散髪さえできればよいという床屋の原点に立ち返って、それ以外の付加価値一切を大胆に切り取る代わりに、料金を思い切って下げたサービスということになる。そしてそれが多くの人の需要にマッチしているので、ビジネスとして成功しているばかりでなく、さらに従来からある付加価値と料金の高い床屋のビジネスをも脅かしているというわけだ。僕自身も近所の1000円床屋を愛用している。少々の待ち行列があるものの、一人当たりの所要時間が15分程度と短いので回転が良く結果的に早く済む。洗髪はしてもらえないが、散髪後の髪は掃除機みたいなやつで吸い取ってもらえるので、特に不快に思う事はない。もっとも旧来の床屋では、待ち時間にのんびりと「クレヨンしんちゃん」を読むのが密かな楽しみだったのだけれど、そんな時間がほとんどなくなってしまったのはちと寂しい気がするが。

ところで洗髪用設備なんかを導入したら、いくらなんでも1000円に据え置くことはできなくなってしまうだろう。1000円床屋は以前から存在していたにも関わらず、今更のように設備の義務化を主張しているのが旧式床屋の協会みたいな団体であることが何とも言えない。表向きは洗髪しないのは不衛生と主張しているが、旧式床屋でも洗髪しないというオプションだってあった(おそらく積極的にはそれを勧めないのかもしれないが)はずなので、あまり説得力を感じない。一方破壊的技術のチェーン店の方は、衛生面で気をつけているから懸念されるような問題はないと反論していた。この衛生・不衛生のそれぞれの主張の信憑性は僕にはわからないが、「旧式技術」が自分のビジネスモデルを守るために、衛生面の懸念という大義を振りかざしながら、「お上」の力を借りて「破壊的技術」の妨害をしよういう構図にしか見えないのである。

件のTVニュースによると、既に設備の設置が義務化されている都道府県もあるらしい。床屋における洗髪は必須であるとのお達しでも出されたのだろうか。いずれにしても新旧両方のスタイルの床屋については、消費者が付加価値サービスの要不要で使い分ければよいと思うのだけど。でも衛生面の問題が事実であって、その旨誰かがきちんと説明してくれるんならまあしょうがないか。

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