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ある時はコンピュータの製品企画担当者、またある時は?

AS/400産みの親の退職

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AS/400というコンピュータ(今はPowerシステムと表現されるが、ここはあえて古い名前で呼んでおく)に関わるコミュニティーの中で、最も有名な人物と言えばおそらくDr. Frank Soltisだろう。いくつかの革新的なアーキテクチャーを作り上げたのが彼であり、AS/400生みの親とも言われている。先日来日した際に聞いたところではIBM在籍40年とのことだが、さすがに今年末で退職するらしい。

一般に外人が日本で講演する際に課題になるのが、通訳を入れるのかどうかという点である。例えばお客様相手で質を求めるとなると、プロの通訳、しかも同時通訳を頼むこともある。一方コストをかけるほどではないけれども通訳は必要となると、社員が借り出されることになる。さすがに同時は無理なので逐次通訳で対応する。僕も何度かそういう役割を仰せつかったことがある。外人が話した内容のポイントだけは逃さないように殴り書きでメモを取り、それを見ながら日本語に通訳する。僕の感覚では正確に言うと、通訳というよりは理解した内容に基づいた日本語の作文である。それも本業に関わる内容ならば理解にそれほど苦労はしない。予め説明資料を手に入れて、どんな内容なのかを把握できれば、極端な話、外人が何を言おうと何となくそれに沿った説明をしてしまうことだってできる。

困るのが資料も無く、話の内容もその時々で変わるケースであり、実はFrank Soltisの講演はその典型なのだ。彼の逐次通訳を仰せつかった際に、予め打ち合わせの機会を持って講演内容を聞いても、「AS/400のアーキテクチャーをざっくりと話すだけで、技術的なことは話さないよ。キーワードはあれやこれや。。。」といった具合で5分もあれば終わってしまう。まあその程度ならばこっちもわかるので大した事はなさそうだが、それだけで60分ってのはないだろう。不安に思って、あんなこと、そんなことは話題に出るかと水を向けると、「まあちょこっとはね」程度の雲を掴むような反応しか返ってこない。それ以上追求のしようもないのであきらめて本番に臨んだりすると、とんでもない事になる。何の予備知識がないにも関わらず、トランジスタのゲートの開閉スピードがどうのこうの、漏洩電流がどうの、などと、僕の知識・理解を超えたところに話が及んでしまったりする。約束が違うじゃないか、と思っても後の祭りである。Frankが言う技術と、僕が思う技術のレベルが違うのだ。懸命にメモを取っても、把握したポイントが正しいのか自信が無い。誤訳をするわけにもいかないので、通訳係という立場を忘れて、思わずFrankに途中で内容確認のための質問をしたこともある。

Frank退職のニュースを聞いて、そんな頭から煙を吹くような思いをした経験が真っ先に思い出された。今となっては懐かしいが、もう一度と言われたら思わず尻込みしてしまうかもしれない。いくつかのニュースソースによると、彼は現在本を執筆中だとか。実は僕が大学で使っているネタの一部に、彼の著作に基づいてパワーポイントに仕立て直したものもある。新作が出たら手に入れてネタの充実を図るとしよう。本当は最初からパワーポイントを作っておいてくれると助かるんだけど。

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