オルタナティブ・ブログ > 猫のベロだまり >

ある時はコンピュータの製品企画担当者、またある時は?

蝶の観察日記

»

我が家はマンションなので庭がない。代わりにベランダにわずかばかりの鉢植えを並べてある。何年も前に購入したハイビスカスの花なんかは未だに元気で、夏になればいい加減に水さえやっておけば、1~2日に一輪くらいのペースで新しい花を咲かせている。チューリップなんかも球根の手入れもせずに野生の花よろしく放置してあるのだが、毎年春には着実に花を咲かせている。当初は3本程度しかなかったはずなのに、小粒な子孫を反映させてしまったせいか、今年は15以上もの芽を出した。ただ、ごく小さな花を咲かせたのは2本程度のものであるが。

ベランダにある最大の鉢にはミカンの木が植わっている。花を見たいとか、実がなったら食べたいという目的ではなく、チョウの幼虫を観察したいと何年も前に娘が言い出したからである。それまでに拾ってきた、わけのわからない色々な幼虫を丹精込めて育ててもことごとくが立派な蛾になり、何度も期待を裏切られたものである。羽化するまでは名前なんかつけてペットのように慈しんでおきながら、成虫になったらとたんに手のひらを返して、外へ追い立てたものだ。いや中には成虫になるや否や丸めた新聞紙で「撃墜」したこともある。そんなことがあって、どうにかして本物のチョウチョを育てたいと言い出したのだ。モンシロチョウを呼び込むべくベランダでキャベツを育てるのは現実的ではないし、と、昆虫図鑑で調べたらアゲハチョウは柑橘系の木に卵を産むことがわかった。ならばと、妻が近くの花屋でミカンの鉢植えを買ってきたというわけだ。

ミカンの木をベランダに置くからといっても、近くをアゲハチョウが通りすがるかどうかなんてわからないし、たまたま通りすがったとしても5階もの高さのところにミカンの木があるなどと、どうやって察知するんだろう。まあ無理だろうなと思っていたが、意外なことに毎年のように2~3匹のアゲハの幼虫が巣立ってゆく。

ミカンの葉の上で蠢く鳥のフンみたいなやつが、その待ちかねた客人なのだ。初めての時は、昆虫図鑑と付き合わせてアゲハチョウの幼虫と判明したとたん、娘があまりに興奮するものだから写真を撮っておいた。実は僕も妻もアゲハの幼虫を見るのは初めてだった。そしてその後の成長の過程を写真に収めるついでに、娘に観察日記を書かせることにした。ちょうど夏休みだったし、自由研究のネタとして使えるだろうというわけだ。

チョウの観察と言えばおそらく山場は羽化の瞬間であろう。ところがはた迷惑なことに、羽化するのは明け方なのだそうだ。ほぼ毎日の観察日記をつけている以上、ここまできたら羽化の瞬間を見て写真に撮るんだという娘の主張に一理はある。当時の娘は、一人で起きて観察して、ついでに写真も撮っておきなさい、と言えるほどには大きくなっていなかったので、結局親がお付き合いせざるを得ない。幼虫が2匹いたが、蛹になったのは1日ずれがあったので、羽化も2日連続になる可能性があった。娘は夏休みかもしれないが、こっちは平日なのにだ。

結局僕も羽化の観察に1日お付き合いすることとなった。娘の方はあれほど強硬に主張しておきながら、なかなか起き上がってこない。まあ、何か変わったことがあったら教えてあげるからと言ってはみたものの、半分眠りながらぼ~っとしていたら、いつの間にやら体が殻から出掛かっている。あわてて娘を連れてくると、もう皺くちゃの羽を広げようとゆっくりと羽ばたいている最中であった。30分位経ったろうか、力強く羽ばたいたかと思うといきなり部屋中を飛び回り始めたので、窓を開けてやるとあっさりと南の空へと舞い上がって行った。娘の方は「ゆりちゃん」に手を振りながら、朝っぱらから大きな声でまた帰って来てねとやっている。以降「ゆりちゃん」の子孫は毎年のようにやって来る。先の週末に3匹がミカンの葉を食い荒らしているのを発見した。

Comment(0)