大学で授業を受け持つことになった話
今年は某大学において単位を伴った講座を受け持つことになった。初めてである。特別講座は何度か実施した事はあるが、僕は果たして半期2単位13回分の講義を行うだけのネタを持ち合わせているのだろうか、少々自信がない。とゴタクを並べる暇もなく、僕の心配をよそに実施が決定してしまった。好むと好まざるとに関わらず、何としてでも13回分のネタを搾り出さなければならない。
講義計画を提出せよと言う。仕方なく僕があちこちのセミナーなどで講演してきたネタを、何とか並べてみた。相手は僕が仕事で関わっているSystem i というコンピュータの事は聞いたこともないし、別に関心を寄せているわけでもない工学部の学生である。ごく一般的な視点から、科学技術計算とは異なるビジネス用のコンピュータの特性を何とか述べなければならない。仕方なく自分の持ちネタとして確立していないにも関わらず、こういう話もしなきゃいけないだろうなぁ、と思うものまで無理に計画に組み入れてしまった。誰か社内で技術者にネタの提供を求めればいいや、と思った次第である。
この思惑は見事に外れてしまった。頼ろうと思った相手が言うには、経験がないしどう資料をまとめればよいのかわからない、のだそうである。自力でネタをまとめるのはつらいので、何とか協力を仰ごうと構想を必死に語ったつもりだったのだが、説得力不十分で空回りに終わってしまった。要するに他人に資料を作ってもらおうだなんて、甘いんだよね。講義計画は提出済みだし、ある意味では13回分の講義の肝でもあるので端折るわけにもいけない。安直に講義計画を作った自分の浅はかさを呪いながら、まずは何でもよいから情報収集しなければ。
社内資料をあれこれ収集し目を通すうちに一つ気がついた。そうだ、僕はかつて業務部門に所属していたので、その時の知識と経験を活かせば良いじゃないか。昔の事なので大分風化してしまっていることは事実であるが、業務アプリケーションの解説資料を手に入れれば、何とか理解できるものもあるだろう。それに自分の経験をプラスしてネタとして仕立て上げよう、と考えると大分気が楽になった。
そうは思ったものの、業務から何年も遠ざかっていたので資料を読みこなすのに時間がかかる。なんて実際の業務って面倒なんだ。あらゆるプロセスや事象に対応できるよう、アプリケーション・ロジックが組まれている。科学技術計算が「狭く深く」行われるのだとしたら、商用計算とは「浅く広く」作られるのだと感じた。きっと工学部では「深い」計算については鍛えられるのだろうけれど、「広い」計算に関与することはあまりなさそうである。業務の仕組みを理解した上で、あらゆる事象を頭の中でシミュレーションすることが必要なのだろう。その面倒さの一部でも学生に感じてもらえるだろうか。ようやく出来上がった資料を眺めていて、少々不安が残るのも事実である。より良いアイデアのために、しばらく寝かせておいてから見直すとしよう。