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ある時はコンピュータの製品企画担当者、またある時は?

皮算用のために無駄遣いをした話

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あまり一般的に使わないと思うけれど、ハイキングとか山登りのガイドブックなどには「健脚」という言葉にお目にかかることがある。要するに足が丈夫ということであり、歩くことにかけては人後に落ちないだけの体力があるという意味合いだと思えばよさそうだ。僕自身ひそかに健脚の部類に入るであろうと自負している。今でも230分程度なら街中を歩くのは苦にならない。交通量の激しい中を歩くのはあまり快適ではなさそうであるが、他の人を抜かしながら、やや速目のスピードでスタスタと行くのは、まんざらでもない。今の季節なんかは適度に体が温まるので、ちょうど良い運動量だと言える。

神奈川県は藤沢市にオフィスがあった頃には、電車に乗って20分程度の距離を、「僕なら大丈夫」と根拠のない自信を背景に、自転車通勤しようと試みたことがある。会社から支給される交通費から考えると、結構高級な部類の自転車に投資したとしても、一年も経てば元が取れるはずであった。10万円投じても惜しくはないと考えたが、そこまで自転車に入れ込んでいるわけではないので、「素人が乗るには結構高級」といった部類のあたりをターゲットにすることにした。友達の意見を聞き、専門誌で十分に下調べをしてから自転車専門店に出向いて、予めこのあたりと目算をつけておいた機種を購入することにした。最初から店にずらっとならんでいるのを買うのとはわけが違う、注文から納車まで一週間かかる7万円もする高級車である。これで少々の坂道も楽々と登ることができれば、健康と交通費の丸儲けの一石二鳥がかなうはずだ。

この甘い目論見は初日の通勤時にいとも簡単に打ち砕かれた。変速機があれば坂道もスイスイと行くはずであったが、それは人並み以上の脚力があることを前提としていたのである。歩くための脚力とペダルを漕ぐ脚力は、どうやら使う筋肉が違うらしい。排気ガスをもろに浴びながら会社に到着する頃には、息も絶え絶えで目もくらくらしており、帰宅時が憂鬱であった。仕事でもしながら体を休めないと、とても帰る気がしそうになかった。

それでも大きな投資をしたので、慣れることが肝心だろうと、一週間近くは体力的な無理を続けていた。そして大した進歩も感じられない、ある日の残業後の帰宅時に、ワンボックス・タイプのワゴン車で通勤している先輩が、帰るついでに家の近くまで送ってくれると言う。自転車だからとやんわりと辞退していたのだが、車が大きいから自転車ごと積み込んでしまえとばかりに、やってみたら意外に確かにすっぽりと収まってしまったのである。その日は安直に乗せてもらったら、これが楽だったのである。特に他人の運転する車に乗せてもらうのは極楽である。急に無理して自転車通勤する気力が失せてゆき、結局次の日から通常通り電車通勤に戻ってしまった。その後10年近く僕の高級自転車は、投資額に見合うことなくママチャリと同じ立場のまま、盗難に会うところでその役務を終えたのである。

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