電車の中の聖人君子
フレックスタイムだのホーム・オフィスだの企業に属していながら仕事をする形態は様々、とは言うものの、特別な事情がないので全く利用していない。いちいち周囲に説明するのが面倒なのも事実であるが、どうも自宅では精力的に仕事をしようという気にならない。仕事部屋なるものがあれば事情は違うのかもしれないが、狭い我が家ではオンとオフの境界線を設定することは不可能である。住宅事情を嘆いても仕方ないので、混雑のピークであろうがなかろうが、結局電車に乗って定時までには出社している。
想像を絶するとまではいかなくても人間がパックされてしまうほどの混雑時には、それなりのマナーもあると思うのであるが、そういう教育というのは聞いたことがない。となると個人の常識・良識に従って対応することになるが、常識は人の数だけあるので事はすんなりとはいかない。
とにかく全く身動きできない状態なので、神妙に降車駅までは立っていなければならない。ただ単にまっすぐに立とうとしている僕の体の真下に、どうして誰のかわからない他人の足があるのだろう。体の断面積分は自分の領地のはずなのに、おかげで真っ直ぐに立てないじゃないか。仕方なく斜めになりながら他人に寄りかかった状態のまま、適切な空間を求めて足をうろつかせることになる。立つ時の両足は肩幅以下だよね。
満員電車の中でまでメールやりとりしなけりゃならないほど、そんなに仕事に追いまくられているのかい?緊急時は止むを得ないし、そういう時は携帯電話がちょっと僕の背中に当たって、僕のすぐ耳の脇でキーを叩きまくってうるさくたって、まあ少し位は我慢しますよ。でもメッセージが、「ゆうべは何時まで飲んでたの?」なんてものだったりしたら、ウエスタンラリアートだからな。
時々電車は揺れるので、どこかにつかまった方が安心なのはわかる。それがつり革だったとしても、自分の「領空」の範囲内ならばよしとしよう。いや少しくらい「領空侵犯」があったとしても、人の頭を押さえつけることさえなければ、まあ許す。でも、つり革をつかむ腕が他人の頭に当たっているにも関わらず、何食わぬ様子で携帯電話のメールに熱中しているようなヤツがいたりしたら、スキだらけの脇を狙って肘討ちものだな。
という具合に、満員電車の中は一触即発状態である。何か不都合なことがあったら、自分が「被害」に合っている事を申し述べ、心穏やかに相手に改善を依頼する。こんなことができるのは聖人君子くらいなものだろう。庶民はいきなり喧嘩モードになってしまいそうである。余程のことがない限り、修行と思ってじっと静かに耐えるべきか。特に夏はクーラーが効いていたって、精神衛生上よろしくない事この上ない。やはり時差出勤しようかな。