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ソブリンAIにおけるNVIDIAの92%シェア分析と各国の独自LLM基盤整備に向けた選択肢

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データの主権や自国言語の保持を目指して各国が独自AIモデルの開発を急ぐ中、その計算基盤において特定の単一企業への集中が進んでいます。調査会社のCounterpoint Researchが2026年8月5日に公表したレポートによると、米国と中国を除く世界55か国のソブリンAI大規模言語モデル(LLM)のうち、92%が米NVIDIAのAI半導体を用いて学習されていました。

自国主権を掲げながらもハードウェア供給を外部に頼らざるを得ない構造は、インフラの確保やコスト面で新たな制約を生んでいます。同時に、欧州や中東における代替半導体の採用や、推論領域を狙う新興勢力の動きも活発化しています。

今回は、自国製LLMにおける計算基盤の寡占実態、代替アーキテクチャ模索の現状、学習から推論への需要変化、今後の調達戦略と制度設計の判断軸について、取り上げたいと思います。

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自国主権を掲げるAI開発で表面化する計算基盤の寡占構造

国家安全保障やデータ主権の確立、自国言語への最適化を目的に、独自の大規模言語モデルを開発する「ソブリンAI」の取り組みが世界各国で広がっています。自国内でのデータ保持や運用基盤の確保が進む一方、その心臓部である計算資源の調達構造には大きな偏りが生じています。

Counterpoint Researchが2026年8月5日に公表した調査レポート「Sovereign AI LLM Research Report, July 2026」は、米国と中国を除く80か国以上を対象に調査を行い、自国製LLMを開発する55か国の170以上の稼働モデルを分析しました。その結果、ソブリンAIモデルの学習に用いられたAI半導体のシェアにおいて、NVIDIAが92.4%(約92%)という高い占有率を示したことが分かりました。

この結果について、同社リサーチディレクターのMarc Einstein氏は、モデルのホスティング環境は自国の主権下へと移行しているものの、AI半導体の調達先は主権化されていないという実態を指摘しています。データの管理権限を国内に留めようとする各国の主権構想と、半導体サプライチェーンの高度な寡占状態との間には構造的な乖離が生じている状況です。

各国の政策担当者や事業推進部門は、自国主導のAI開発を進めるにあたり、ハードウェア基盤の供給制約や将来の拡張コストをいかに制御するかという判断を迫られています。

CUDAエコシステムが形成する学習基盤の参入障壁と持続性

NVIDIAがソブリンAI基盤において圧倒的な占有率を維持している背景には、先端半導体の設計力だけでなく、長年培われてきたソフトウェア環境「CUDA」の存在があります。大規模モデルの分散学習や最適化を支えるソフトウェア基盤が成熟しているため、開発現場では開発期間の短縮と信頼性を優先して同社製品を選択する傾向が定着しています。

巨額の公的資金や民間投資を投じるソブリンAIプロジェクトでは、開発の遅延や失敗が許されにくいため、実績の乏しい代替基盤を採用するリスクを避ける判断が働きやすくなります。NVIDIA自身も世界各国の政府、研究機関、通信事業者と数十億ドル規模の複数年提携を結び、自国専用のAIインフラである「ソブリンAIファクトリー」の構築を主導しています。

この結果、ハードウェアからミドルウェアに至る垂直統合型の基盤への依存度が一段と高まる構図が作られています。初期の学習段階で特定のソフトウェア体系に最適化されたモデル構造は、その後の運用や機能拡張においても同一環境の継続利用を促し、インフラの切り替え障壁を高める要因として作用します。

計算資源の確保を急ぐあまり単一の供給網に基盤を固定化させることは、将来的な調達価格の変動や供給停止に対する脆弱性を高める可能性があります。利便性の享受と引き換えに、どのような長期的な依存関係を受け入れるのかという視点が求められています。

欧州と中東で胎動する代替アーキテクチャの戦略的布石

NVIDIAの一強体制が続く中でも、過度な依存を回避し独自の計算基盤を確立しようとする試みが一部の地域で進んでいます。調査結果によると、米AMDは4.1%(約4%)のシェアを獲得し、欧州を中心とする地域で戦略的な拠点を築いています。

欧州では、共同コンソーシアムがフィンランドに設置したスーパーコンピューター「LUMI」がAMDのAI半導体アーキテクチャを採用しており、欧州発のソブリンLLM学習において中核的な役割を果たしています。この動きはアジア太平洋地域にも波及しており、豪州のMaincodeや、韓国の基盤モデルコンソーシアムに属するMoreh(子会社Motifによる「Llama-3-Motif-102B」開発)、Upstageなどとの提携へと広がっています。

一方、中東のアラブ首長国連邦(UAE)では、米半導体スタートアップのCerebras Systemsが1.7%のシェアを確保し、独自の存在感を示しています。Cerebrasはアブダビ拠点のテクノロジーグループG42と9億ドル規模の投資提携を結び、9台の相互接続スーパーコンピューター群「Condor Galaxy」を共同構築しました。これにより、アラビア語LLM「Jais」や推論モデル「K2 Think」などの開発を主導しています。

さらにCerebrasは「Cerebras for nations」構想を掲げ、G42、MBZUAI(モハメド・ビン・ザイード人工知能大学)、インド先端計算開発センター(C-DAC)と連携し、インドへのスーパーコンピューター導入を進めています。国家規模の資本力と主権構想を結び付け、特定ベンダーに依存しない独自のインフラ基盤を構築する事例として示唆に富んでいます。

日本とイスラエルに見る独自チップと軽量化アルゴリズムの模索

ソブリンAIの実現手法は、巨大な計算クラスタによる大規模学習だけに限定されません。残る1.7%の領域には、自国製アーキテクチャの活用や、アルゴリズムの工夫による計算量削減といった多様なアプローチが含まれています。

日本においては、理化学研究所と富士通が共同開発したスーパーコンピューター「富岳」の独自CPU「A64FX ARM CPU」を活用した「Fugaku LLM-13B」が開発されました。汎用GPUに頼らない独自アーキテクチャを用いたモデル開発は、技術的な自立性を実証する試みとして位置づけられます。

また、日本のAIスタートアップであるSakana AIは、ゼロからモデルを事前学習するのではなく、既存の公開モデルを複数組み合わせて高度化する進化型モデルマージ技術を用いて「EvoLLM-JP v1」を構築しました。この手法は、膨大な計算資源と半導体の調達を必要とせずに高い言語処理性能を実現する選択肢を示しており、インフラ調達力に制約のある組織にとって有効な代替案となります。

イスラエルでは、AI企業AI21 Labsが開発した「Jamba 2」がGoogle Cloudの独自AI半導体「TPU(Trillium)」上で学習されています。自前でハードウェアを保有するだけでなく、クラウド事業者が提供する独自アクセラレータを目的に応じて選択する調達形態も、依存リスクを分散する現実的な手段として機能しています。

推論領域への需要シフトが拓く新興半導体勢力の参入余地

ソブリンAIを巡る競争の力点は、モデルの事前学習から、実際の行政サービスや産業利用を担う「推論」のフェーズへと徐々に移行しています。推論段階では、超大規模な分散クラスタの連携性能よりも、低遅延、消費電力の抑制、トークン処理あたりの経済性が重視されるため、参入障壁の構造が変化します。

この推論市場を捉えるべく、新興半導体メーカーが各国の通信会社や現地インフラ事業者との協業を加速させています。米QualcommはサウジアラビアのHUMAINと提携を進め、韓国のAI半導体新興企業Rebellionsは通信大手SKテレコムと組んで国内推論基盤への浸透を図っています。英国ではGraphcoreがHadean、英国原子力公社、STFC Hartree Centreとの協業を推進しています。

さらに、Positron AIやSambaNovaといった新興企業、Google TPUやAWS Inferentiaなどの大手クラウド独自チップも、トークン処理あたりの費用改善や開発支援を武器にソブリン市場への浸透を狙っています。学習インフラの寡占に対して、推論インフラは地域性やコスト要件に応じた分散化が進みやすい領域です。

今後のAIインフラ投資においては、学習環境の整備と推論環境の分散化を切り分けて設計する視点が求められます。初期学習では確実性を優先して標準的な基盤を用いつつ、日常的な運用を支える推論基盤には電力効率やコスト競争力に優れた多様な半導体を柔軟に組み合わせる多層的な調達モデルが、現実的な選択肢となるでしょう。

今後の展望

自国主権を掲げるAIモデル開発が学習から社会実装へと進むにつれて、計算基盤の調達戦略は単一ベンダー依存から多層的なインフラ構成へと再編される動きが加速することも想定されます。半導体サプライチェーンの地政学的制約と、日常的な運用における電力やコスト効率への要求が連動することで、推論基盤の分散調達やモデルマージのような計算量削減技術の採用が一段と進むと考えられます。

今後は、データやモデルの主権性を確保することと、ハードウェア調達の柔軟性を維持することのバランスをいかに取るかが問われます。自国の産業規模やエネルギー供給力に見合った計算資源ポートフォリオをどのように構築し、技術変化に応じた移行余地を確保していくのか。インフラの選定基準そのものを再定義し、長期的な自立性と実用性を両立させる体制を整える時期を迎えているのかもしれません。

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