スマート革命と大艦巨砲主義、フェースブックの悩みは大艦巨砲主義から航空兵力中心主義への移行スピードの欠如
<序文>
夏休みの宿題に吉村昭さん作の「零式戦闘機」(新潮文庫)を読みました。(ゼロ戦関連の著書は柳田邦夫さん作の「零戦燃ゆ」も傑作なのですが、今回はパス)皇歴2000年の誕生にちなんで「零戦」と命名された三菱重工名古屋航空製作所の傑作ですが、誕生後約4年間世界で敵無しの名機として描かれています。
企業ものとして読むと海軍の要望とそれに振り回される三菱重工の設計陣の議論も面白いゼロ戦ですが、日本の航空機製造能力がわずか10年で米英に追いついたあたりの記述は、中国のファーウエイや韓国のサムスン電子、LG電子の台頭に苦しむ日本家電を念頭に読むと非常に面白いです。
また作者の吉村さんは「牛や馬がゼロ戦を2日の道のりで飛行場まで運んだ日本のサプライチェーンのお粗末さ」に注目して本書を書く気になったと言っています。凡そ不可能と思えるようなお粗末な環境下でゼロ戦を作り上げ、生産した事実は、21世紀前後の国内携帯業界のアイモードの成功を想起させます。3Gすら始まっていない2G時代(回線は牛や馬の道のようにのろい時代)に良くあそこまで携帯電話インターネットサービスを作り上げたものだと今さら感心します。
しかし作者による真珠湾からミッドウエー海戦に至る過程で大艦巨砲主義から航空兵力主体への切り替えのスピードが米国の方が早かったと言う指摘は、現代のフェースブックの悩みを想起させました。
確かにフェースブックの悩みは明らかにここにあります。
★★ 零式戦闘機 (新潮文庫) [文庫]
<現代の大艦巨砲主義・・ブラウザーの上の戦艦大和作り>
パソコン+ブラウザー時代から小さなアプリの集まりによるシンプルなサービスの連合への移行と言う時代の嵐は、「大艦巨砲主義から航空兵力主体への切り替えのスピード勝負」と言う過去の歴史から一杯、学ぶ点があります。
特にフェースブックの場合には、パソコン時代にブラウザーの上で無数のソーシャルゲームや企業による多様なWebアプリを作り上げました。これは正にブラウザーと言うプラットフォーム上における大艦巨砲主義=戦艦大和戦略でした。
そして時代がスマート革命により、シンプルなサービスのアプリによる実現、そして疎結合のアプリ連合による対応と言う言わば航空兵力中心時代に代わろうとしています。個々の小さなアプリをゼロ戦やグラマン戦闘機に例えている訳です。アプリ連合は小さな戦闘機の群れと言うことになります。
フェースブックの悩みはHTML5中心主義を放棄し「大艦巨砲主義から航空兵力中心時代」へのスピード移管を決意した時点で決定的になりました。11億人を載せ、無数の多様なWebアプリを載せたブラウザー戦略を放棄せざるを得なくなったからです。ほっておけば航空兵力中心時代=アプリ中心時代のWhatsappや微信、LINE、スナップチャット、バインなどの航空兵力中心主義=アプリ中心主義の新興勢力に襲われます。そうなれば巨象が蟻の群れに襲われたように食われてしまいます。
<工業社会の日米差から創造の経済の日米差へ>
作者の吉村さんは雲霞のごとく押し寄せて来るグラマンなどから戦艦大和を守る為、ゼロ戦の特別攻撃隊が出撃し、ほとんどが途中で撃墜されていく有様を日米工業力の差の象徴と述べていますが、現代に置き換えると負け組の日本家電と勝ち組のアップルやグーグルの差は正に「創造の経済」への対応の差と見る事が出来るかもしれません。
歴史が繰り返されています。どこで悪循環を断ち切るのか。