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モバイル社会の終わり

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映画館でも、DVDでもなく、ネット上で先行上映を行う。そんな映画が登場し、成功を収めているとのこと:

Internet Releases Join Cineplexes (Wall Street Journal)

その映画は"Bachelorette"(バチェロレッテ、未婚女性の意味)というコメディ作品で、主演はキルスティン・ダンスト(『スパイダーマン』の……ではなく『ヴァージン・スーサイズ』の!と個人的には書いておきたいところ)。制作したのはRadius-TWCという組織なのですが、これは『愛を読むひと』などの作品がある映画制作会社ワインスタイン・カンパニーの一部門で、新しい映画配給のあり方を模索するのがミッションなのだとか。

『バチェロレッテ』はiTunes上で8月10日に公開され(レンタル形式で価格は10ドル)、映画館での公開は9月に、DVDの発売はクリスマス後に予定されているそうです。これまでも実験的な形で「ネット先行上映」が行われたり、ネット上でのみ公開する低予算映画が存在したりしましたが、メジャー系が本格的に手掛けるのはまだ稀なケースとのこと。実際にアップルの広報担当者の話として、『バチェロレッテ』は公開後36時間でiTunesのレンタル映画ランキング1位を獲得したが、これは映画館で未公開の映画としては初めて、というコメントが紹介されています。

記事には売上額まで記されているので紹介しておくと、公開後3日間での売上は約50万ドル。単純計算で5万人が観たということになります。これだけだと成功か失敗かよく分からないのですが、比較として挙げられている"Moonrise Kingdom"(同時期に映画館で上映が開始されたコメディ映画)の売上が52万3千ドルだったそうですから、物理的コストがかからないことを思えば悪い数字ではないのかも。

この記事を読んでいて思ったのですが、現代はモバイル(mobile)社会だと言われつつも、消費者目線ではイモバイル(immobile)社会になっているのかもしれません。これまでは私たちの方が移動して、映画館に行くことが当然でしたが、これからは映画の方が移動して、家までやってきてくれる。それは最近流行のネットスーパーや「おとりよせ」、オフィス街の屋台村なども同様です。イモバイルといっても家に引きこもるというイメージではなく、自分の生活スタイルを変えなくても良い、というイメージでしょうか。

改めて言うまでもありませんが、書籍や音楽といったコンテンツの世界では既にモバイル化が定着しています。正確に言えば、本屋やCDショップのモバイル化ですね。そして映画館やスーパーといった存在までモバイル化するとなると、企業はどんどん移動式に・フレキシブルになることを強いられ、逆に消費者はどんどん固定的に・自分の生活スタイルに固執することが許されるようになるのでしょう。20世紀初頭に米国で小売店が登場したとき、商品は消費者が勝手に陳列棚から取る(セルフサービス方式)のではなく、カウンターに並んでいるのを店員に頼んで取ってもらう形式が主流だったそうですから、100年かけてようやく「(消費者から見た)モバイル社会」が終焉したと言えるのかもしれません。

とはいえ消費者は映画館と違って、上映スケジュール――ではなく「観たい映画と観たい時間」を明示してくれているわけではありません。企業はソーシャルメディア上の書き込みなどといったヒントを通じて、動かなくなった消費者の居場所を正確に探る、という努力を続けることを強いられそうです。

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