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議員銃撃事件をツイートした女性、Twitter上で取材攻勢の対象に

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同じ話での投稿が続いてしまいますが、米連邦下院議員のガブリエル・ギフォーズ氏が銃撃された事件について、もう1回だけ触れておきたいと思います。

この事件については、Twitterが誤報の拡散に関与してしまうという状況が発生していました:

「誤報ツイート」は削除すべきか? (シロクマ日報)
「銃乱射で女性下院議員が死亡」の誤報、マスメディアのツイッター利用で一気に伝播 (メディア・パブ)

そしてもう1つ。Twitterと報道との関係において、別の問題が取り上げられています:

Seeking Out Sources, Made Transparent On Twitter (Nieman Journalism Lab)

事件の発生時、Caitie Parkerという女性(容疑者の高校時代のクラスメートとのこと)がこんなツイートを投稿していました(ツイートへのリンク):

tweet_1 

この事件、私の家から2分のところで起きました。 RT @BreakingNews アリゾナ州選出のガブリエル・ギフォーズ下院議員がトゥーソンで銃撃されたと報じられている。

この投稿を行った直後から、彼女の元にはマスメディアからの「取材依頼ツイート」が殺到し、最終的にその数は30以上になったとのこと(ただしTwitterだけが問題だったのではなく、Facebookやメールなど他のデジタルメディアを通じた依頼も同じくらい殺到していたそうです)。その中にはNew York TimesやCNN、AP通信などの大手メディアも含まれていました。

例えばこちらは、New York Timesの記者からの取材依頼(ツイートへのリンク):

tweet_2

@caitieparker ニューヨークタイムズの者ですが、コンタクトを取らせていただけますでしょうか。ベストな方法について、DMをお送り下さい。

こちらはAP通信からの依頼ですが、直接電話番号を載せています(ツイートへのリンク):

tweet_3

@caitieparker こんにちは、AP通信の編集者です。今日AP通信の記者とお話ししていただけますでしょうか?電話番号は602-417-2400です。ありがとう。

その他、同じ大学に通っていたことに言及する(同級生だから協力してよ!というニュアンス?)、「お疲れのことでしょう」と同情を示す、「この写真が犯人で間違いありませんか」と単刀直入に質問するなど、ツイートのアプローチ方法も様々だったようです。この取材攻勢に対し、彼女がどれだけの依頼に応えたかは不明ですが、最終的にParkerさんは「もう取材は受けません。私や家族にかまわないで!」とツイートして会話を打ち切ってしまっています。

当然のことながら、ウェブサービスを通じて事件現場とジャーナリストがリアルタイムでつながるということは、この銃撃事件が初めてではありません。例えば『リアルタイムウェブ-「なう」の時代』の中でも 触れましたが、米ディスカバリーチャンネルの本社ビルで起きた銃撃事件などの際にも、リアルタイムウェブを巧みに活用して現場の情報を得るということが行われました。あらゆるテクノロジーと同様に、使い方さえ適切であれば、Twitterをはじめとしたツールたちはジャーナリズムに新たな価値をもたらしてくれるものになるでしょう。

しかしその結果として、取材攻勢までリアルタイムで、しかも大幅に増幅された形で行われてしまっては元も子もありません。根本にあるのは「メディアは事件当事者にどうアプローチすべきか」という問題ですが、リアルタイムウェブをどのように活用すればメディアと当事者の双方にとってプラスとなるのか、今後十分に議論が行われるべきではないでしょうか。日本では逆に「マスメディアの記者がTwitterを使うべきか否か」が議論されている状態ですが、今後は同じ問題が発生する可能性もあるのではと懸念しています。

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