iPhone ユーザーは「コンテンツにお金を払っちゃうヘンな人達」なのか?
iPhone が切り開いた"App Store"というビジネスモデル。意外なところからカネが湧いてきたことをゴールドラッシュに喩える動きもあるようですが、そもそもなぜ iPhone ユーザーは「コンテンツにお金を払う」という、ウェブ時代に逆行するような動きを見せているのでしょうか?その根本的な疑問を取り上げた記事が New York Times に掲載されていました:
■ Why Are iPhone Users Willing to Pay for Content? (New York Times)
It may be no surprise that the best-selling computer book so far this year is “iPhone: The Missing Manual,” by my colleague David Pogue (O’Reilly, 2007).
But here is something that did surprise me: The most popular edition of this book isn’t on paper or the PDF file that O’Reilly Media also sells. It is the downloadable application for the iPhone, according to Tim O’Reilly, the chief executive of O’Reilly Media.
Amid all the discussion of micropayments and other ways that the creators of news and other content can be paid for their work, the iTunes App store is shaping up to be a surprisingly viable way to sell all sorts of information and entertainment.
現在までで、今年最も売れているコンピュータ関連書が『iPhone : The Missing Manual』であることは驚きではないだろう(この本は私の同僚 David Pogue が書いたものだ)。
しかし驚かされたことがある。この本で最も人気のバージョンは、紙版でもPDF版でもない。出版元である O’Reilly Media の Tim O’Reilly によれば、それは iPhone 用のダウンロードアプリケーションとのことである。
マイクロペイメンツ(※ネット上で行われる少額決済)など、ニュースを始めとした様々なコンテンツの製作者が対価を得る仕組みについて議論が行われているが、iTunes App store はあらゆる種類の情報やエンターテイメントを売る場としての地位を築きつつある。
記事はこのような書き出しで始まり、ウェブ上で無料で手に入るようなコンテンツが、App Store で有料アプリとして売られている(そして買われている)状況が述べられています。ちなみにこの『iPhone: The Missing Manual』は紙版は$24.99、iPhone アプリ版は$4.99。しかし iPhone アプリ版の価格を$9.99にしたところ、売上が75%に低下したためあわてて元の$4.99に戻したのだとか。従って iPhone ユーザーは「別に価格なんて気にしないよ」というヘンな人々ではないようです。それではなぜ、コンテンツを「売る」というネット上では誰もが苦労していることを App Store は成し遂げられているのでしょうか。
この疑問には様々な解説が可能でしょう。そもそも iTunes 自体が、違法ダウンロードによって無料で音楽データが手に入るという状況の中で、ちゃんと音楽に価格を付けて売ることに成功したサービスでした。これについては「違法ファイルを手間暇かけて探すより、ごく僅かな額なのだからお金を払って合法ファイルを手に入れる方が良い、とユーザーに納得させたからだ」「いや、iPod というデバイスの存在も欠かせない」など様々な議論が行われていますが、同じ理屈付けを今回の App Store の成功に対しても行うことができるかもしれません。例えば「iPhone の使い方という情報はウェブ上で無料で拾うことができるが、いちいち検索してそれを拾い集めるのはかったるい。$4.99という僅かな価格で、しかも iPhone で閲覧するのに最適化されているという利便性が、『コンテンツにお金を払う』という結果を引き出したのだ」的な形で。
個人的には、少なくとも現在の状況下では「iPhone ユーザーはコンテンツにお金を払っちゃうヘンな人達」という側面も否めないのではと推測しています(iPhone ユーザーの皆さますみません)。というのも、この ITmedia 界隈を見ていても明確ですが(笑)、iPhone のアプリを体験するというのが1つのエンターテイメントのようになっていますよね。「えっ、こんなネタアプリに価格付けて売っちゃうのかよw いいや、話の種にダウンロードしてやれ」みたいな。また安くなったとはいえ(日本でもソフトバンクがキャンペーンを始めましたね)、iPhone はあくまでもスマートフォンであり、それを使いこなすのはある程度経済的余裕のある人々のはずです。従って App Store のようなモデルが様々なキャリア/メーカーで採用され、アプリの開発者も利用者も増えた状況下でも「ゴールドラッシュ」と呼ばれるような状況が続くかどうかは、現在のユーザーだけを見ていても分からないのではないかと思います。
一方で、日本のケータイが独自の文化圏と課金システムを作り上げており、そのため「ケータイネット」上では「コンテンツにお金を払う」ということがある程度普通のこととして行われているという点も、多くの人々によって指摘されているところです。仮に iPhone が「情報は無料」という悪しき(?)文化がはびこるPCネットから距離を置き、ケータイネットのような「iPhone ネット」的文化圏を形成した上で少額決済の仕組みを維持するのであれば、「iPhone アプリに少額のお金を払うのは普通」という常識が定着するかもしれません。
先日の記事でも書いた通り、これから Android や Windows Mobile 上でも App Store 的なビジネスモデルが展開されようとしています。はたして「情報は無料」という認識が何に根ざすものなのか、それを崩して「情報で儲ける」ためには何が必要なのか、Apple 以外のプレーヤー達も観測することで見えてくるのではないでしょうか。もちろんその中には、日本のケータイ文化圏を改めて研究するという取り組みも必要になることでしょう。
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