技術者の目標は「セレブ」でいいのか
「SE出世双六(すごろく)」なるものが登場したとのことで、ITmedia さんで紹介されていました:
■ SEの生活が分かるすごろく登場
■ ストレス入院からITセレブへ: 悶絶! これがSEすごろくだ
(ITmedia エンタープライズ)
「SE版人生ゲーム」といった内容で、リリースや資格習得など、SEとして経験であろうさまざまな出来事がマス目にちりばめられています。
パッケージの裏面を見ると、監修を務める元日立システムアンドサービス取締役社長の名内泰藏氏のコメントが書かれている。「この『SE出世双六』には、システムエンジニアが生涯経験するであろう、リアルな“体験”が散りばめられている」とある。
とのこと。そして最終的に「ITセレブ:セレブが集まるパーティの常連になる」でゴールとなります。
なるほど、なかなか面白い発想だと思ったのですが……どうも気になる部分があります。それは、
しばらく進むと、「ストレスで体調を崩す 1回休み」というマス目が登場する。実はこのゲーム、ストレスや病気などで1回休みというマス目がとても多い。
という部分。残念ながらIT系技術者の世界にはこういった側面があることは事実で、それをネタに笑ってしまおうという気持ちは分かるのですが、こうして世間に出してしまうことで「内輪ウケ」では済まなくなります。特にこのゲームを出した目的は
SEという職業に対する学生の理解を向上させ、技術者の確保や育成につなげることを目的とする。
ということだそうですから、「過酷な現実を笑って済ませる」以上の配慮が必要だったのではないでしょうか。
たまたま『ハーバード・ビジネス・レビュー』の最新号(2008年1月号)に、「日陰仕事にいそしむ人を動機づける法(How to Teach Pride in "Dirty Work")という記事があり、そこでこんな一節がありました:
アリゾナ州立大学教授のブレーク・E・アシュフォースとほか2名が『アカデミー・オブ・マネジメント・ジャーナル』2007年2月号に寄稿した論文によると、いちばん有望なのは、その仕事のイメージ・アップにつながるような価値観や理念を打ち出し、それを定着させることだという。害虫駆除会社の場合、スタッフたちが身につけた豊富な専門知識の価値を評価するといったことが考えられる。
いや、「SEが日陰仕事だ」というつもりではないのですが、ある仕事の社会的地位を向上させるには、上記の通り「イメージアップにつながる価値観や理念」を育てるのが一番ではないでしょうか。だとすると、SEの目指すべきゴールが「ITセレブ」というのはあまり納得できません。セレブになりたいなら、「ストレス満載で身体を壊しやすい」なんて職業でなくてもいいですし、そもそも「セレブを目指す」なんて人は現代にはあまりいないでしょう。
そうではなく、「技術者でしか味わえない達成感・幸福感」といったものを打ち出すべきではなかったか、と思います。例えば「社会インフラとなる重要なシステムを安定させた」や「技術解説書を出版し、『○○の神』とあがめられるようになった」などなど。「金持ちになる」以上の重要なゴールが、探せばたくさんあるはずです。そういったゴールを示してこそ、「大変な仕事だけど目指してみるか」という学生が増えるのではないでしょうか。
なんだか「ネタにマジレス」みたいなエントリになってしまいましたが。笑いは笑いでいいとして、その中にマジ語りする部分を含めて欲しかったなぁ、と思います。