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ベンチマークとしての駅

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南北線六本木一丁目駅

僕は通勤に東京メトロ南北線を使っているのですが、近ごろ駅構内の案内表示がリニューアルされています。細部をちょっと変化させる程度なのですが、だいぶ案内が見やすくなりました。僕は毎朝使っているので、案内が分かり難くても問題ないわけですが、初めて使う人には便利になったと思います。

そんなことがあったので、先日地元の図書館で『駅再生―スペースデザインの可能性』という本を借りてみました。文字通り駅を1つの公共空間と捉えたときに、どうやってより良いデザインを実現していくかということを多面的に論じた本です。この本を読んでいて実感したのですが、駅という場所は「情報のかたまり」とでも言うべき存在ではないでしょうか。

駅には3種類の情報が存在しています。まずは「ここで何をするか」というコンテキスト情報。例えば上の写真は、東京メトロ南北線の六本木一丁目駅で、僕のオフィスの最寄り駅です。もし僕が家に帰るのではなく、渋谷でお客様に会おうとした場合、六本木一丁目から渋谷までの経路を調べます。そして「溜池山王駅で銀座線に乗り換えるので、1番線ホームに行き、赤羽岩淵方面電車の最後尾(乗り換えに便利なので)に乗らなければならない」という情報を得るわけです。

次に存在するのは「どこに何があるか」という場所情報。上の例で言うと、1番線はどこにあるか、最後尾はどの位置になるかという情報になります。そして最後は「いつか」という時間情報。例を続けると、次の赤羽岩淵方面電車はいつ発着するか、そして今が何時なのかという情報になります。駅を駅として機能させるためには、これら3種類の情報が過不足無く伝わる状態になっている必要があります。

さらに駅には「誰もが使えるようにしておかなければならない」という使命があります。駅にいるのは通勤・通学でいつも利用している人々ばかりではありませんし、日本人だけども限りません。また最近は経路検索サイトという便利なサービスがありますが、これも全員が全員使えるわけではありません。極端な話、初めてその場所を訪れた外国人、しかも予備知識ゼロの人であっても、問題なく使ってもらえるようにしておく必要があります。従って駅は単に情報が集約しているだけでなく、集約された情報が利用しやすい状態に置かれている存在なわけです(あるいはそんな存在であるべきです)。

そう考えると、駅は一種のベンチマークとして使えるのではないでしょうか。例えば初めて訪れた駅で、「この駅は初めてなのに使いやすいな」と感じたら、その駅には何らかの工夫がされているはずです。それを考えて、例えばWEBサイトのデザインに応用したり、マニュアルやパンフレットに当てはめて考えたり、店舗のレイアウトに当てはめてみることができると思います。あるいは逆に「なぜか分かり難い、疲れがたまる」と感じる駅があったら、反面教師として利用することができるでしょう。そんな風に捉えてみたら、通勤や客先訪問、出張で移動する場面であっても、様々な発見ができるかもしれません。

ちなみに先ほどの『駅再生』という本では、「駅構内にある無駄なスペース」というテーマも出てきます。例えば上の六本木一丁目駅でも、改札口の奥のスペース(写真の中心付近)は無駄に広く、いつもガランとしています。そんな場所を有効活用するアイデアを考えてみたり、あるいは逆に有効活用されている例を見つけてみることも、新しい発想を手にするきっかけとなってくれるかもしれませんね。

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