オルタナティブ・ブログ > 佐川明美の「シアトルより愛を込めて」 >

元証券アナリスト、前プロダクトマネージャー、既婚な現経営者が、日頃の思いをつづります。

Global Trends 2025 を読む 8: サマリー(終わり)

»

やっと、今日で終わり。米国の国家情報会議(NIC: National Intelligence Council)が先月22日に公表した文書 “Global Trends 2025: A Transformed World” のサマリーから。

支配力弱まる米国

2025年には、米国は、その力は最大ながらも、世界舞台でもはや突出する存在ではなくなる。軍事面でも、米国は優位を保つが、他国の科学技術の発展、非国家主体を含めた非正規型戦術の採用、長距離精密兵器の普及、そしてサイバー攻撃の増大により、米国の行動選択の自由度は狭まる。結果他の諸国も対応を迫られる。昨今の反米主義にも関わらず、米国は相変わらず中東とアジアの調停役であり、国際テロリズムに対する軍事力行使にあたり主要な役割を果たすことを求められるだろう。気候変化といった新たな安全保障問題では、意見対立を越えて解決策を見つける課程で、米国のリーダーシップが期待されよう。と同時に、重要メンバーの多様性と巨大な力に対する不信感ゆえ、米国が他メンバーの支持なく独断で行動する余地は少なくなる。特に中国やロシア等重要メンバーの国内発展を含めた他地域の発展が、米国の政策を決定する重要な要素となるであろう。

2025 - いかなる将来か?

以上述べてきたとおり、大きな断絶、ショック、サプライズが起きる可能性がある。核兵器の使用あるいは疫病の世界的流行が起こるかもしれない。単にタイミングだけがサプライズとなるものもある。例えば、エネルギーの転換自体は不可避だ。問題は転換がいつ、いかにしておこるかだ。化石燃料から代替燃料へのエネルギー転換は、その影響が多大なだけに歴史的に見ても一世紀に一度起きる程度である。木材から石炭への転換は、産業革命の引き金となった。化石燃料からの、特に急速な転換は、中東やユーラシアの生産国に多大な影響を与え、結果世界あるいは地域舞台から没落する国も出てくるだろう。

他の断絶について予知するのは難しい。いくつかの潮流が組み合わさっての結果であろうし、リーダーの資質にも左右される。中国あるいはロシアが民主国家になるかどうか、はこのカテゴリーに属する。中国の中産階級の増大により中国が民主化する可能性は高まるが、必然ではない。経済の多様化が進まなければ、ロシアの政治多極化の可能性は低いだろう。下からの圧力で、あるいは指導者が経済の維持・成長のために、民主化を進めるかも知れない。石油ガス価格の低迷は、ロシアの政治経済的自由化を促すだろう。もしどちらかの国が民主化すれば、他の発展途上国に民主化の波を起こすだろう。

ヨーロッパと日本、それにロシアにおける人口構成の変化がどんな結果をもたらすかも定かではない。これらメンバーの世界・地域におけるパワーが必ずしも減少するとは断定できない。テクノロジー、移民の果たす役割、公共医療の向上、女性の就労機会の奨励などは、これらメンバーの経済成長の鈍化や社会不安の増大を食い止める手段となる。

国際機関がこの変化に対応し再生するかどうかも不確かだが、多分にリーダーシップに左右される。現在のように権力が分散する傾向では、国際統治能力は低下する。この傾向を反転させるには、新興パワーを含め国際コミュニティーにおける強いリーダーシップが求められる。

不確実な要素の中でも、紛争をもたらし国際化に深刻な影響を与えるものがある。大量破壊兵器を用いたテロリズムと中東における核競争がこのカテゴリーに属する。架空の4つのシナリオでは、世界で進行中の変化の結果として考えられる新たな難問を取り上げた。それぞれ新たな現実、ジレンマ、窮状を提示している。4つですべての可能性を網羅している訳ではない。またどれ一つも不可避である訳でもない。だが、他の不確実要素と同じく、これらのシナリオはどれもこれまでの流れを変えるものとなりうる。

  • 西のない世界 - 国際舞台のリーダーとしての"西"に替わる新たなパワーが出現する
  • 10月のサプライズ - 気候変化に大した配慮を払わなかった結果、世界の選択余地が極端に狭まる
  • BRICsの崩壊 - 重要資源を巡ってインドと中国間で大きな紛争が起きる
  • 政治は場所に限定されない - 国家ではなく非国家主体同士のネットワークが環境問題をリードする
Comment(2)