日本最大規模のTwitterアクティブサポート、ソフトバンクSBcare。運用ノウハウを公開
ソフトバンク社の @SBcare は、日本最大規模のTwitterカスタマーサポート・アカウントだ。
そして、その特徴はアクティブ・サポート。顧客からの問い合わせを待つだけではなく、自ら困っている人をツイッター上で探して、企業サイドから支援を申し出るサービスだ。海外では航空業界などの事例がいくつかあるが、国内の本格的なサービスはソフトバンクが第1号で唯一の存在ではないだろうか。
2010年4月に、7名の有志がよって実験的に開始されたアクティブサポートは、その効果を社内で認められ、同年7月に公式サービス@SBcareとして本格的にスタートした。アカウントは3つ、ソフトバンク全般を担当する @SBcareのみならず、重要課題である電波改善関係で、@SBcareDenpa、@SBcareWiFi と個別窓口が用意されている。
@SBcareのアクティブサポートについては、当社著作「ソーシャルメディア・ダイナミクス」にてインタビュー紹介もしているが、さらに最新の情報をいただいたので、当記事にてご案内したい。
■ 体制と対応ボリュームについて
Twitter専任サポート部隊は常時10名体制、毎日500件のツイートを発信している。書籍インタビュー時には約200件とのことだったので、半年あまりで対応が2.5倍に増加、サービス認知が順調にすすんでいることがわかる。なお500件の内訳は、@SBcareに直接問い合わせてくる顧客は応対が200件、残りの300件がアクティブサポート、つまり企業サイドが探しだした顧客の応対だ。トラブルに陥っている顧客を探し出すため、現在は280以上のキーワードが登録され、リアルタイムにツイッター上の困っているツイートが傾聴されている。
ソーシャルメディア上では、中の人を前面に出し、人間的な応対をすることが大切だが、@SBcareでもその点はしっかり配慮されており、ホームページにも担当が社員/イラストつきで表示されている。
■ 運用や教育について
応対は通常コールセンターと同様、9時から20時を原則としている。部門内KPIは非公開だが、コールセンターやEメールセンターと同等のパフォーマンスが出せるよう取り組んでいるとのことだ。
運用ガイドラインも作成している。開示できる部分をいただいたので公開したい。
- 1日のはじまりは「おはようございます」のあいさつツイートから始める。
- 個人情報の取得はTwitter上では基本、行わない。正確な解答のために「お客さまの契約状況を確認する必要がある」と判断した場合は専用のEメールフォームを誘導する。(ミス等による情報リスクを避けるため、お客さまの強い要望がない限りDMでのやり取りは避ける。)
- Eメールを受け取り回答するのもSBCareスタッフ。必要であれば架電対応も行う。(入り口はTwitterだが、その後のサポート方法はこだわらない。チャネルは複数だが、チームはひとつ)
- サポート回答前は、必ず専用ツールで過去に対応した事があるかどうか履歴の確認を行い、その内容に応じて回答する。
- お問合せ前後のツイート内容も確認し、流れをつかんだ上で対応を行う。
- 情報発信(FAQ/小ネタ)は、利用者TLが発信ツイートで埋まってしまわないように、1日あたりのツイート数を決めて発信している。
また、下記のようなハッシュタグ運用も実施している。
・携帯についての豆知識 #Sitteta_SB
・会社概要、歴史、SBの取組みなど #Corp_SB
・サービス内容 #Service_SB
・FAQのURL付情報発信 #Faq_SB
・プレス情報 #Press_SB
・メンテナンス情報 #Mainte_SB
・MySoftbank関連 #mysoftbank
素晴らしいところは、@SBcareで収集する顧客の声が、1日2回というリアルタイムに近いサイクルで、ツイート内容によって振り分けられ、関連各部門に報告される仕組みがあること。トラブル情報だけでなく、お客様にお褒めいただいたポジティブなものも含まれるところも見習いたい点だ。
コールセンターにかかってくるクレームは、一人では対応できない深刻なものが多く、特殊な状況にある顧客の声に限定されていた。それに対して、Twitterで収集した声は、企業の存在を意識しない生活者の生の声、サイレントマジョリティの貴重な意見であり、それが可視化される意義、またリアルタイムに関係部門に配布される意義はプライスレスなものと言えるのではないだろうか。
教育体制も整えられている。ツイート問答をOJT形式でトレーニングするした後に、自らTwitterを体験するとのこと。ソーシャルメディアは体験しないとその本質は決してわからないからだ。また、良い事例、悪い事例を集めて定期的な研修も実施している。さらに現在では、スキル基準が設けられており、ツイートのモニタリングおよびフィードバックも実施されているとのことだ。
■ ツイートの内容について
カスタマーサポート・アカウントのため、お客様ごとの個別サポートが中心になるのは当然だが、最近は以下のようなコンテンツも流し始めている。
・ホームページFAQと連携した情報発信(10~15/日)
コールセンターでの頻度の高いお問い合わせや、コールセンター入電傾向、さらにはイベントにあわせた情報発信ツイートを実施している。目的は、お客さまにTwitter上で疑問を解決していただくことだ。
・ちょっとひといき(3~4/日)
お客さま対応の連続ばかりだとTLが殺伐としてくるので、SBCareスタッフの私的なつぶやきを1日数回ツイートし、企業アカウントの中の人をイメージしてもらいやすいように工夫している。ただしツイートが過ぎないよう、さじ加減が難しいとのことだ。
・SBCareフォロー感謝キャンペーン
12月から1月にかけての1ヶ月間、期間限定で感謝キャンペーン「SBCareをフォローしてお父さんグッズをもらおう!」を行った。応募方法は、SBCareをフォローした上で特定ツイートをRTすること。賞品は、白戸家お父さんグッズを100名様にプレゼント。当選連絡はDMで告知した。
ささやかだが、サプライズサービスも用意した。当選者への個別の手書きお手紙だ。あえて事前告知は行わず、届いた時に喜んでいただこう、という主旨で、スタッフ全員で、手作り感満載、100人分のお手紙をお届けしたのだ。すると、さっそく多くのツイートをいただき、中には写真まで投稿されたものもあり、スタップ一同、大変に感動した。
・写真をいただいたお礼ツイート1
・写真をいただいたお礼ツイート2
クレーム電話の連続で殺伐となりがちなカスタマーサポート業務では、働く方のモラル維持が大きな課題となっているが、このような人間的なふれあいや、喜びの声が届くことは非常に大切なことだろう。
Facebook急成長で話題になることがやや減った感のあるTwitterだが、このようなアクティブサポートは、数あるソーシャルメディアの中でもTwitterのみが可能なサービスである点にも注目したい。
孫社長がツイッターを開始したのは、2009年クリスマスイブのこと。絶対的なオーナーである孫社長が、さまざまな顧客意見に対して、即断で約束した「やりましょう」、当初の内部混乱は推して知るべしだったろう。
それから1年半、ソフトバンク社内には急速に顧客志向が目覚めはじめ、現在では国内でも類を見ない高度な顧客サービスを提供するようになった。顧客の生の声に全社員が触れ、耳を傾けること。ソーシャルメディア利用の基本であり、かつ最も効果的な
活用法と言えるかも知れない。
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