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実名ソーシャルメディアのメリットってなんだろう?

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日本のソーシャルメディアには実名主義は根づくのだろうか?

mixiとFacebookのシェア争いに注目が集まりはじめ、多くの方が興味を持つテーマになっているようだ。

よく日本人には実名性は向かないという意見も聞かれるが、筆者はそう単純な話ではないと思っている。例えばネット上でのクレジットカード利用などでも、当初日本では危険すぎるという意見が多数派だったが、今では多くの人が当然のように利用している。暗号技術の進歩もあるが、つまるところ利用者のメリットとデメリットの天秤で決まって行くものだと思う。

また、よく議論されている、実名コミュニティは穏やかで、匿名コミュニティは荒れる傾向があるというのはコミュニティ全体の話で、だから実名を使うべきというのでは個人の意向を無視した論調になってしまう。利用者自身が実名を望むか、匿名を望むかが大切だ。

日本で匿名掲示板が主流だった背景もあり、日本人は匿名でのネット行動に慣れている。したがって匿名性最大のメリットである「プライバシーの確保」は理解されやすい。会社名を出すと言いたい意見が言えないなど、言論の自由が制限されるというのはノーマルな感覚だろう。

では利用者にとって実名を出すメリットはなんだろうか?この点が明らかにされ、利用者ひとりひとりが、匿名のメリットより実名のメリットのほうが価値が高いと判断した時、はじめて実名コミュニティが普及するというステップにいたるのだと思う。
 
 
■ 実名でソーシャルメディアに参加するメリットってなんだろう?

すでに実名でFacebook, Twitterに参加しているユーザーが実感しているメリットはなんだろうか。友人と常に繋がっている感覚を持てること、リアルタイムで付加価値の高い情報が入手できることなどは匿名であっても享受できる。筆者は、実名のメリットを突き詰めると「人脈の創造」に集約できるのではと思っている。

実際に旧友との親交はmixiで十分できるが、ソーシャルグラフが広がらない、ないし陳腐化してしまうとの声を聞くことが多い。また大学時代はmixiで連絡を取り合っていたが、就職を前にしてTwitterやFacebookに切り替えるなど、企業ときちんと交流していこうとする際に実名に移行することも多いようだ。

つまり、Facebookのような実名コミュニティは「社会人としての自分、表の顔,ソトの顔」としての利用に向いており、mixiのような匿名性の強いコミュニティは「飾りのない自分自身、家の顔、ウチの顔」としての利用傾向が強いと言えるだろう。

参考まで、ユング心理学の「ペルソナ」がこのソトの顔にあたる。社会に出ると外部から自分本来の性格とは異なる態度や役割を要求されるので、人間は「ペルソナ」(古典劇で役者が被った仮面のこと)をかぶらざるを得ないということだ。実名コミュニティでは、ペルソナを被った社会性の高い人間の集まりになるため、誹謗中傷が少なく、穏やかな会話が交わされる。そして、これがコミュニティ文化と言われるものを形成していく。

言い換えると、社会人としてリアル社会と同様の感覚でネット上で交流できるのが実名コミュニティと言えるだろう。その上ではネットとリアルが自然に交差して、人脈が創造されていく。これが実名コミュニティ最大のメリットだ。

では、なぜ実名ソーシャルメディアだと人脈の創造が促進されるのか、もう少し具体的に考えてみたい。
 
 
■ 実名ソーシャルメディアは、新しい人脈開拓スタイルを創りだす

日本風B2B営業の典型的なパターンを例にとってみよう。

まずはいかに最初のコンタクトをゲットするかが重要だ。もっとも効率が良いとされているのは、勉強会や知り合いの人脈をたどって紹介を依頼することだ。運良く人につないでもらえたら、初回アポは恒例の「ご挨拶」だ。そこでパンフレットを開き、次回アポイントのきっかけを探っていく。

初回顔合わせで話がトントンすすむことはめったにない。既存取引先があるし、初顔合わせの会社の信用力や実力など未知数が多いからだ。特に日本企業は慎重で、初回取引のハードルが高いことで有名だ。

ただしここで関係が途切れると、実需が発生する前に担当者の脳裏から消えてしまう。その企業が有望であるほど競合が日参している可能性も高い。かくして新規見込み客に対する長い信頼醸成期間が続き、論理性より気合と根性という精神論に傾いていく。

TwitterやFacebookを実名ではじめたビジネスパーソンが特に恩恵を感じるのは、この初期交流のハードルを一気に下げる効果だろう。

まずその人物にたどり着く人脈探索でソーシャルメディアを活用できる。特にTwitterはオープンでフランクな文化なので、紹介なしに直接メッセージを送っても、礼儀さえ守れば不自然ではないし、先方も目を通してくれるはずだ。

自己アピールにおいてもソーシャルメディアは最高のツールだ。ブログで専門分野を、TwitterやFacebookで人間性をアピールできる。パンフレットの静止文字より遥かに生き生きと見えることは間違いない。

実際にお会いする際にも、相手の考え方や人間性、趣味など、幅広いコンテクスト(相手の背景)を事前学習できるので、うちとけるのも早い。さらにネット上で継続的な交流も容易だし、良い情報を定期的にお届けするなどして貢献もできる。特に交流しないでも、顔写真をアイコンに使っていれば日常的にその顔やコメントが視界に入るため、印象が刷り込まれていく。表現は適切でないかも知れないが、テレビCM効果のようだ。

これが実名ソーシャルメディアによる人脈創造力だ。営業を例にあげたが、実際にはほとんどの社会人にとって人脈構築は大切なものだ。またビジネスだけでなく、趣味の世界でも実名のほうがリアルな交流に結びつきやすい。Twitter、Facebookを実名で利用しているユーザーの多くは、今までと比較にならないスピードで人脈が創造され、しかも継続的交流で関係性が深まっていることに気づいている。

 

■ これから、日本のソーシャルメディアの主流は実名になるのだろうか

最後に、疑問の原点であるmixi(匿名制)とFacebook(実名制)のシェア争いを再考してみたい。日本は世界でも数少ないFacebook未制覇国であり、一般人における知名度も低い。テクニカルに考えて、Facebook普及のためには、Twitterと同様に書籍ラッシュ、著名人利用、映画などをトリガーとしたマスメディア・パワーが必要となるだろう。知名度が上がれば、社会人を中心に実名性のメリットが理解されはじめるのではないだろうか。

【参考記事】
Facebookは日本に普及するだろうか? (9/2) 

ただし、世界的に見るとFacebookはすでに一般人にまで浸透しており、例えば米国では対全人口比で45%、対ネット人口比では70%弱が日常的に利用するインフラとなっている。しかも米国は世界トップではなく普及率で18位であることも驚きだ。(下記チャートはFacebookの対人口浸透率(Penetration)順ランキングだ)

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【出所: Facebakers Facebook対人口浸透度40%超の国々】

これが世界の流れであり、ワールドワイドに実名の人脈ネットワークが創造されているのだ。つまりそれだけ実名制のメリットが広く理解されているわけで、日本だけが例外になるとは考えにくい。ビジネスパーソンを中心に実名ソーシャルメディアが普及しはじめる可能性は高いように思う。

また仮にFacebookが普及しなかった場合でも、現在のmixiが国内人口の多くをカバーするコミュケーション・インフラに成長することは難しいだろう。匿名性の強いコミュニティは社会人にとって必需品ではなく、そのため企業にとっての利用価値にも限界があるからだ。その場合はFacebookの代替として、Twitterの存在感が増すことになるはずだ。
 
したがってmixiは岐路に立っているのではないだろうか。ひとつの選択肢は、このまま匿名性の強さを維持し、仲間内で本音が話せる「ウチの顔」コミュニティの側面を強調していくこと。この場合、日本のソーシャルグラフを独占するほどの広がりを持つのは困難だが、一定の存在感を保ち続けられる可能性が高い。

もうひとつ、大胆な選択肢もある。現在のmixiユーザーはそのままに、社会人向け実名コミュニティを新設することだ。そして匿名と実名の併存をOKとし、既存匿名ユーザーの実名化を促進すること。「mixi同級生」などこれに近いアプローチだが、一人のユーザーで複数アカウントを明示的に許すことにより、「ソトの顔」も「ウチの顔」も吸収できる世界でも稀なソーシャルネットワークを目指すことができるのではないだろうか。
 
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【出所: Silicon Alley InsiderによるFacebook未制覇国の状況】

最後にもうひとつチャートを紹介したい。Facebook未制覇国(中国を除く)におけるFacebookと既存ローカルSNSの対ネット人口浸透度(ただしPCのみ)を示したものだ。

【参考資料】
コムスコアによる最新Facebook未制覇国チャート (9/24) 

これを見て一目瞭然なのが、日本のPCソーシャル・ネットワーキング普及率の圧倒的な低さだ。Twitterを入れても、重なりを考慮するとPCネット人口(約6000万人)に対して推定25%程度、全人口に対しては15%未満の浸透にとどまっている。携帯SNSの普及率は高いがゲーム利用が中心であり、ソーシャルメディア普及においてかなりの後進国と言わざるを得ないだろう。逆にいうとそれだけ伸びしろがあるということだ。

ソーシャルメディアは、すでに電話やメールを超えたコミュニケーション・インフラとしての存在感を強めており、その浸透は自国内の人材交流、情報共有を効率化するだけでなく、グローバルなコミュニケーションを大いに促進する効果がある。

ぜひmixiとFacebook、そしてTwitterの健全な競争により、日本も世界レベルのソーシャルメディア普及に向かってほしいものだ。それは、元気な日本を取り戻すためにも重要なことではないだろうか。
 
 

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