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Yahooとモバゲーの強者連合,そのインパクトと背景にある競争戦略を読む

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4月27日,日本のソーシャルメディア業界に激震が走った。

日本最大のポータルサイトYahooと,日本最大級の携帯ゲームSNSを擁するDeNAが業務提携し,共同でPC向けソーシャルゲーム・プラットフォーム「Yahoo!モバゲー」を晩夏から開始すると発表したからだ。

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【出所:ITmedia  ヤフー井上社長(左)とDeNA南場社長】

 

■ 両社提携の概要

ヤフーから発表されたニュースリリースに記載している基本合意内容は次の通りだ。

  1.  PC における連携の実施
    • 「モバゲータウン」と共通の利用者基盤を持つソーシャルゲームプラットフォーム「Yahoo!モバゲー(仮称)」のYahoo! JAPAN 上での構築・運営
    • 「モバゲータウン」のソーシャルゲームや定番タイトルの移植、新ゲームの開発・展開、既存ソーシャルグラフの展開
    • 「Yahoo!モバゲー(仮称)」における「Yahoo!ウォレット」決済の利用
  2. PC、モバイル双方における連携の実施
    • Yahoo! JAPAN ID とモバゲータウンID の連携による相互利用の実現
    • PC 版、モバイル版それぞれおよび両方の利用者に対するクロスプロモーションや相互誘導の実施

「Yahoo!モバゲー」にはモバゲーの人気ゲームをPC移植。モバゲーでのソーシャルグラフ(友人関係)をそのまま引き継いで遊べるようになる。

オープンプラットフォームではOpenSocialを拡張したモバゲーAPIを採用。SAP(ソーシャルアプリプロバイダー)からも広くゲームを募る。当然PCとモバイルが連係したゲームが期待される。アイテム課金と広告が収益源で,決済や広告はYahooが提供する。収入はSAPと両社で分配する。

【参考記事】 DeNAとヤフー、ソーシャルゲームで共同戦線 「Yahoo!モバゲー」の狙い (4/27)


■ 日本のPCソーシャル・ゲームはブルーオーシャンに近い

二社提携のターゲットは巨大な眠れる市場,国内PC向けソーシャルゲーム市場だ。同日4月27日にネットレイティングスから発表された日米PC向けSNS(ソーシャルゲームのプラットフォーム)の普及状況を見るとそのポテンシャルがわかるだろう。

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【出所:ネットレイティングス 2010年3月日米SNSの比較】

 
国内PC-SNS市場は未だ成長期なのだ。米国におけるFacebookリーチ率は59%であるのに対して,日本のmixiは18%。キャズムと言われる初期市場(アーリーアダプター)と一般市場(マジョリティ)の境界近辺で停滞している。(詳細はネットレイティングス記事をご参照)

そのために日米ではソーシャルゲームのユーザー属性も大きく異なる。米国では9割がPCなのに対して,日本では9割が携帯だ。また米国では女性が多く,年齢層もかなり高め(この女性シフトや高年齢シフトは,ソーシャルメディアが成熟すると共通して現れる特徴)だ。

【参考記事】 米国・英国ソーシャルゲームユーザー動向調査。55%が女性,平均年齢は43才 (3/11) 

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これは2009年12月におけるゲームポータル6社のページビュー比較だ。これを見れば一目瞭然だが,携帯が全体の92%(モバゲー 380億PV,グリー 225億PV,ミクシィ携帯247億PV)を占め,PCは8%(ミクシィPC,ハンゲーム,Yahoo!合計で71億PV)にすぎないことがわかる。米国の普及状況を見ても,国内PC向けソーシャルゲーム市場はブルーオーシャン(競争が少ない未開拓市場)に近い状態になっているのだ。
 
 
■ 「Yahoo!モバゲー」の狙い

「日本のPC向けソーシャルゲーム市場はまだ小さいが,海外と同様に伸びていくだろう」とヤフーの井上雅博社長は話し,さらに南場社長は続けた。「ヤフーとモバゲーを組み合わせたパワーは巨大。他社より大きいものを目指したい」

この言葉に表されているのが,まさに第一義的な「Yahoo!モバゲー」の狙いだ。PC向けゲームポータルの月間ベージビュー比較(前述グラブと同じ2009年12月数値)を見てわかる通りで,「Yahoo!ゲーム」は競合であるミクシィやハンゲームに完敗状態だった。

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今回の提携は,低迷している「Yahoo!ゲーム」にモバゲーの持つコンテンツと運営ノウハウを投入し,一気にトップを狙う戦略だ。ユーザーベースとして期待されるのはヤフー・ユーザー2500万人(月間アクティブユーザー数)とモバゲー・ユーザー1800万人(会員数)であり,成功すると一気に日本最大のPC向けソーシャル・プラットフォームに化ける可能性がある。

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【モバゲーの自社ソーシャルゲーム・プラットフォーム】

Yahoo!の既存PC会員,広告配信,課金インフラと,モバゲーの既存携帯会員,ゲームコンテンツ,ゲーム運営ノウハウの組み合わせは,このブルーオーシャンを狙うための最強連合と言ってよく,最小コストで最大効果を狙うものだろう。
 
 
■ Yahoo!とモバゲーそれぞれの競争戦略と,今回の提携が持つ意味

さらに今回の提携においては,ヤフーとモバゲーそれぞれの競争戦略が背景にあると予想している。

ヤフーの狙いは,対ミクシィ,対Facebookではないだろうか。日本でも海外同様に個人情報/ソーシャルグラフの争奪戦が始まっている。世界的にはFacebookが先行し,Twitterが急追している状況だが,日本ではオープンIDで先行するヤフーが良いポジションにある。ただし競合に対するヤフー最大の弱点は「ソーシャルグラフ」(友人関係情報)を持たないことだった。

【参考記事】 GREEオープン化とは? コネクト技術詳細とmixi/モバゲー/Facebookとの比較 (1/13)   

モバゲーのソーシャルグラフはミクシィのそれと比べると質・量ともに劣るが,ソーシャルゲームを工夫することでより精緻なソーシャルグラフを収集することも可能だろう。今回の提携により,ヤフーは弱みをカバーし,競合企業に強烈なカウンターを放つことになった。

一方,モバゲーの狙いは,ずばり対グリーだろう。しばらくグリーの一人勝ち状態が続いていた国内SNS市場だったが,オープン化で潮目が変わりつつある。モバゲーが総ページビューを半年で倍増させたのに対して,グリーは昨年12月に上場来初のページビュー減少となったことがその象徴だ。(下図をご参照。単位は会員数が千人,PVが百万PV)

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モバゲーはこの追い風に乗り,グリー未着手のPCに乗り出して一気加勢に勝負を決する戦略だろう。ソーシャルゲームは頻繁な訪問でポイントを稼ぐものが多く,PCベースのゲームと言えども携帯からのアクセスが増加するはずだ。したがって既存の携帯サービスへの相乗効果も高いと予想される。

SNSやソーシャルゲームはネットワーク外部性(ユーザー増加に伴い利便性が増加する)が非常に強いサービスなので,均衡点を越えると一気に勝負がつく傾向が高い。2008年にトップとなったFacebookは,今や競合であるMySpaceと10倍近い規模差(下図参照)となっている。その前の MySpace 対 FriendSter のケースも同様だった。しばらく三社均衡状態が続いていた日本のSNS市場だが,この提携が成功すると,一気にモバゲーに流れが傾く可能性すらあると言えよう。

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なお国内SNS三社の動向については,四半期ごとに当ブログで分析しているので,興味ある方はぜひ参照してほしい。

【2010年2月版】 直近決算発表に基づくmixi,GREE,モバゲーの業績比較 ~ オープン化による影響は?(2/10) 
【2009年11月版】 直近決算発表に基づくmixi,モバゲー,GREEの業績比較 ~ 業績差はさらに拡大。mixi,モバゲーは独自戦略を打ち出す (11/12) 
【2009年8月版】 直近決算発表に基づくmixi,モバゲー,GREEの業績比較。明暗を分けた要因の分析 (2009/8/6) 
 
 
また広告媒体としてのモバゲーの弱点は10代男性にユーザーが偏っていた点だったが,ヤフーユーザーの流入により高年齢層の獲得が期待できる点も大きい。ヤフー・ユーザーは国内SNS三社と比較して圧倒的に高年齢層が多いからだ。
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Sex


■ ヤフーとモバゲー,業務提携のまとめ

ヤフーは弱点だったゲームコンテンツとアプリプラットフォーム,ソーシャルグラフを,モバゲーは弱点だったPCユーザーと高年齢層ユーザーを獲得した。それぞれの事業分野には重なりが少なく,今回の提携による大きなデメリットは見当たらない。

ソーシャルゲームは世界的にも注目されている成長分野だ。PC,多機能携帯,スマートフォンそれぞれに強力なマーケット・リーダーが存在している。(色の濃さは市場浸透度)

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数年後にはスマートフォン向け市場が最大規模となり,かつ最も競争の激しい分野になるはずだ。そこで影響力を発揮するためにも,今回のPC向け市場進出は重要な布石となるだろう。

なおハンゲームの親会社であるNHNは5月10日づけでライブドアの最大株主となる。これにより,ハンゲーム(PC),ハンゲ.jp(携帯)にライブドアを組み合わせ,「Yahoo!モバゲー」のライバルとして浮上してくる可能性がある。プラットフォームのオープン化等は未発表だが,今後の行方が注目される。

さらにグリーやミクシィも提携パートナーを模索する可能性があるだろう。その場合には,前述のNHNに加え,グリー社長の出身母体である楽天(5位),アメーバを抱えるサイバーエージェント(6位),goo(11位),msn(12位),ビッグローブ(16位),ニフティ(17位)などがその候補だろう。(カッコ内はAlexaによる日本サイト順位) もしかしたら Facebook もありうるかも知れない。
 

【付記】
本記事はプレスリリースなどの公開情報をもとに個人の意見をまとめたものだ。また当社ループスはDeNA社からコンサルティング業務を受託しているが,そこで知りえた情報はこの記事には含まれていない。


【国内外SNS関連記事】
直近決算発表に基づくmixi,GREE,モバゲーの業績比較 ~ オープン化による影響は?(2/10) 
Facebook ビジネスモデルを徹底分析 ~ mixi,モバゲー,GREEと比較 (1/31) 
GREEオープン化とは? コネクト技術詳細とmixi/モバゲー/Facebookとの比較 (1/13) 



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