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「ソーシャルゲーム」はどうして儲かるんだろう?- その重要指標と収益方程式を考察する

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世界中でソーシャルゲーム業界にファンドマネーが殺到し,バブルの様相を呈している。
 
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【データ元: Virtual Goods Investment Report】

 
その理由は単純だ。久々に発掘された,IT業界の「儲かる大金脈」だからだ。

ではなぜ儲かるのか?そしてどれくらい?

この記事では,ソーシャルゲームの根源にある「フリーミアムモデル」「ソーシャルモデル」の相乗効果を具体的に検証し,その儲かるビジネスモデルの謎を解き明かすとともに,具体的な目標値や収益の構造について深く分析していきたい。
 
 
■ フリーミアムモデル ~ 顧客数と利用者単価をともに向上させる奇跡のモデル
 
売上は顧客数と利用者単価の掛け算だ。そして多くの商売ではそのどちらに力点をおくかで戦略がかわってゆく。ブランド志向では顧客単価を,低価格志向では顧客数をという具合に。

今までも質と量をともに向上させる技術革新というものは多くあったが,この「フリーミアムモデル」は,商品はそのままに,ビジネスモデルを変えるだけで顧客数と利用者単価を同時に増加させることを可能にする,ある意味で奇跡のモデルなのだ。

では具体的に数字で見ていこう。

元になるデータは主として次の記事事例から引用している。
iPhone ゲーム,アイテム課金で売上が劇的改善。ARPUがFacebookの6倍,GREEレベルに (7/16) 
 
上記記事例はiPhone上でゲームを提供している21社に対する調査結果で,有料ダウンロードモデルから無料フリーミアムモデルに切り替えたことで収益が劇的に改善したという内容だ。ポイントを以下にまとめてみよう。

・有料から無料に変えたことで,利用者単価は0.99-1.99ドル/回から14.66ドル/年に増加した。
 → 利用者単価は10倍 (調査元:Flurry,ただしアプリ寿命は1年以内と想定)
・有料から無料にすると,利用者数は7.5倍になるという調査がある。
 → 利用者数は7.5倍 (調査元:Pinch media)

特に驚くべきはフリーミアムモデルに変えたことで利用者単価が上がるという点だが,実はオンラインゲーム業界では既に常識となっていることだ。
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【データ元: オンラインゲームフォーラム 市場統計調査2007

上図を見ると,オンラインゲームにおいても定額制より無料アイテム課金の方が利用者単価がはるかに高く,しかも年々その格差が開いていることがわかる。「初期でまとまった料金を払うより,サービスを体感した上で必要なごと納得のいく料金を支払いたい」という利用者ニーズが根底にあるからだろう。逆に言うと「ゲーム自体を体験していないので定額料金が適正価格かどうかわからない。どれだけ値打ちがあるのかなんて難しい問題を私に考えさせないで」という心理的取引コストの高さが定額料金や有料ダウンロードのネックなのだ。そしてそれをズバリ解消するビジネスモデルがフリーミアムだ。
 
 
■ ソーシャルモデル ~ 集客コストをクチコミ効果でダイナミックに圧縮
 
もうひとつの特徴は「ソーシャル」の名の通り,クチコミ効果が儲けの源泉となっていること。従来型ビジネスモデルでは,初期集客のための顧客獲得コストが決定的に重要な要素だった。そのため,商品力やビジネスアイディアよりも,既存顧客数ないし集客力(営業力および広告投下資本力)が事業成否をわける決定打となる傾向が強かった。

しかしソーシャルメディアの登場で集客力の源泉が大きく変化した。初期集客にペイドメディアは有効だが,それ以上に大切になってきたのがソーシャルメディア上のクチコミ拡散だ。そしてその効率をあらわす指標が「バイラル係数」だ。

  • バイラル係数 = 既存利用者から紹介された新利用者 / 既存利用者

ベースとなる利用者が1000人いて,彼らが年間2000人の利用者をクチコミで引き入れた場合,年間バイラル係数は 2000人/1000人 = 200% となる。この係数が100%を超える(1人が1人以上紹介するモデル)となると利用者が爆発的に増加していくことになる。ソーシャルメディアの登場によって,このバイラル係数こそ事業の正否をわけるカギとして注目されはじめている。
 
 
■ ソーシャルゲームの収益方程式

では,この「フリーミアムモデル」「ソーシャルモデル」をベースにした「ソーシャルゲームの収益方程式」はどうなっているのだろうか?まず,その方程式の前提となる重要指標を説明していきたい。

1.会員あたりの売上指標

  • 有料会員率 2% - 6%
  • ARPPU(有料会員あたり月売上) 2,000円 - 5,000円
  • ARPU(会員あたり月売上)=ARPPU×有料会員率  40円 ~ 300円

これらはプラットフォームとゲーム種別によって大きく異なる。例えば,Facebook系のARPU(会員あたり月売上)では,農園系や水族館系で50-150円,マフィアRPG系で100-200円,対戦ポーカー系(同期型)で200-300円が平均値とされている。また携帯ゲームはPCゲームと比較して (1)課金への抵抗感がすくなく,(2)キャリア課金があるため,ARPUが高くなる傾向にある。ARPUが高いゲームとしては,海外で「Texas Holdem Poker」,国内では「怪盗ロワイヤル」が有名だ。一般的な目標値としてはARPU100円とおくケースが多い。つまり10万人で月売上1000万円,100万人で月売上1億円だ。

(注)この式におけるゲーム売上やARPUは,プラットフォームや課金業者の手数料を控除した後のものを想定している。
 
2.ライフタイム・バリュー指標

  • ゲーム寿命 1ヶ月 ~ 12ヶ月

ゲーム寿命はゲームごとに非常に大きな格差がある。ゲームのクオリティが影響するのは当然のこと,継続的なパラメーターチューニングやイベント実施,プロモーションによって1年以上も売上をキープするゲームも登場している。またアプリ競争過多になっているFacebookやiPhoneと比較して,国内SNS上のソーシャルゲームの方が寿命が長い。典型的な成功例をあげると,Facebookでは「Texas Holdem Poker」や「FarmVille」,日本では「釣りスタ」や「怪盗ロワイヤル」だ。中でも「釣りスタ」は2年間もトップゲームを維持しており,そのノウハウは特筆すべきものと言えよう。一般的な目標値としては4ヶ月程度だろう。
  
3.新規会員獲得コスト指標

  • 広告クリック単価 20円 ~ 100円
  • コンバージョン率(登録する確率) 10% ~ 30%
  • 新規会員獲得コスト=広告クリック単価÷コンバージョン率 70円 ~ 1,000円

広告による新規会員獲得コストはプラットフォームによって大きく異なる。まずクリック単価だが,最も安価なのはFacebookでは20円程度,またスマートフォン(Admob,トラフィックゲート等)では20-50円程度だ。最も高いのは国内SNSで50-150円程度と推定される。そして新規会員獲得コストは「広告クリック単価÷コンバージョン率」で求められる。目標値は対象プラットフォームによって大きく異なるが,Facebookで100円,iPhoneで200円,国内SNSで500円程度が妥当な線だろう。ただし国内SNSの場合はゲーム数が少ないため,広告からではなくメニュー等から無料流入する比率がFacebookやiPhoneと比較して格段に高い。その点も考慮し,ここでは全プラットフォーム共通の目標として200円と設定しておきたい。
 
4.バイラル指標

  • バイラル係数(紹介された新利用者÷既存利用者) 50% ~ 1000%

ゲームのクオリティ,クチコミ・インセンティブなどゲームづくりのノウハウによって最も格差がつくのがこのバイラル係数だ。逆に言えばゲーム寿命と並んでソーシャルゲーム成功のキモの部分と言えよう。例えばZyngaを例にとると次のような推定が成り立つ。

2009年度獲得延べ会員数は1.5億人 [2008年末が5000万人,2009年末が2億人]
2009年度広告投下コストは推定37.5億円 [年間売上高×15%]
Facebook広告による平均会員獲得コストを推定100円とすると,広告による獲得会員は3750万人
2009年度クチコミによる新規会員数は1.125億人 [1.5億人-3750万人]
2009年初頭の既存会員数は8750万人 [5000万人+3750万人]
2009年度バイラル係数 116% [1.125億人÷(8750万人)]

個別ゲームのバイラル係数が公表されたケースはほとんどないため推定は難しいが,一般的な目標値としては,Zynga例を参考に100%とするのが良いのではないだろうか。つまり広告やメニューから入会した会員一人が,平均で1人の友人を勧誘するというモデルだ。 
 
5.その他コスト

  • ゲーム初期開発コスト: 1,000万円 ~ 3,000万円
  • サーバ等運用コスト: ゲーム売上×25% (サーバコスト15%,チューニングおよび運用人件費10%)

ゲーム初期開発コストもゲームによって大きく異なるが,ハイクオリティなゲームであれば2,000万円は必要だろう。またゲームの成功を大きく左右するチューニングのコストも,サーバ費用とともにしっかり見込んでおく必要がある。例えば最高レベルのクオリティを持つ「怪盗ロワイヤル」では初期開発コストの3~4倍をチューニングに投下しているとのこと。ここではZyngaケースから推定してゲーム売上の25%を目標値としたい。
 
6.ソーシャルゲームの収益方程式

以上の指標をベースにした「ソーシャルゲームの収益方程式」は次のようにあらわされる。

  • ソーシャルゲーム利益 = ソーシャルゲーム売上-運用コスト-広告コスト-初期開発コスト

上記で例示した重要指標ごとの目標値をあてはめると,成功の方程式は次のように求められる。

ソーシャルゲーム利益
= 会員数×ARPU×寿命 - (会員数×ARPU×寿命)×25% -(会員数×新規会員獲得コスト÷(1+バイラル係数)-初期開発コスト
= 会員数×100円/月×4ヶ月 - 会員数×100円/月×25%×4ヶ月 - (会員数×200円÷2)- 2,000万円
= 会員数×(400円-100円-100円)- 2,000万円
会員数×200円-2,000万円

ここでソーシャルゲーム利益をゼロとおくと会員数は10万人となる。つまり損益分岐点(固定費を除く)が10万人で,そこから先は会員数あたり200円がすべて利益として残る収益構造ということだ。

また重要なことは,クリック単価の安いFacebook等では広告だけで損益分岐点まで持っていくことが可能である点だ。例えば10万人会員を集めるために必要な広告コストはクチコミ効果を考えないでも1,000万円,それを投下すれば黒字となる,いわぱ資本力が正否の分かれ目となった場であることがわかる。

逆に広告単価の高い国内SNSの場合は,サイト内外でいかに効果的にゲームを知らしめるかが成功のポイントとなっている。例えばモバゲータウン守安氏によると,売上効率の高いゲームを選別し告知を積極的に行うとしているが,ここでもARPU100円が目標となっている。(CNET記事 より発言を抜粋)

ゲーム開発者からすると「どうして内製ゲームだけ優遇するんだ」と思われるかもしれませんが、現在だとまだ、トラフィックを流した後のARPU(ユーザー1人あたりの利用額)が全然違うんですね。ですので、どうしても内製ゲームのほうに(露出が)寄ってしまっています。

 今後はオープンゲームの中から売上効率の高いものが出れば、どんどん露出を強化していきたいと思います。効率の高いもの、というのは「30万ユーザー登録時点で1日の売り上げが100万円くらい」というイメージです。そうすると、100万ユーザー登録で月商1億円になる。これくらいを1つの目安としてゲームを作っていただければと思います。

 トラフィックは有限なので、今後は月商1億円を超えるアプリ同士の戦いになってくると思います。そこから月商が3億円になるのか、5億円になるのか。そういったゲームが半年から1年ほどで(人気が落ちて)沈んでいき、また新しいゲームが生まれてくることになるでしょう。儲かるものは非常に儲かるし、ダメなものはダメ、というようにはっきりしてくるでしょうね。

 
なお,この記事で解説した「ソーシャルゲームの収益方程式」は,開発コスト2,000万円程度を投入する本格的なソーシャルゲームを想定したものだ。また複数の目標パラメータを組みあわせているため,あくまでひとつの目安であることに注意していただきたい。

 
 

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Comment(3)

コメント

川島康寛

毎回楽しく記事を拝見させて頂いております。
とくに、今回の記事は「すごい」と思い、思わずコメントしてしまいました。
私のような学生にとって、数字・ファクト・ロジックが組み合わさった思考は大変タメになります。
この記事のような思考をいち早く身につけることが当面の目標です。
今後とも面白い記事を期待しております。

川島様
斉藤です。お役に立てれば幸いです。コメントありがとうございました。
これからは川島さんのようなデジタルネイティブの時代です。がんばってくださいね!

B2Bで追随しようにも、やはり客数の限界がありますかね?

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