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「ソーシャルコマース」ってなんだろう? - その背景や類型化,機能,今後のトレンドについて総まとめ

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先日は「ソーシャルグラフってなんだろう」という 記事 をアップして多くの反響をいただいたが,もうひとつ,今年になってブームとなりつつある言葉がある。それが「ソーシャルコマース」,別名「ソーシャルショッピング」だ。

しかしながらこの言葉には明確な定義がなく,最近注目されている「フラッシュマーケティング」ともあいまって,語る人によって内容の異なる,わかりにくいワードになっているようだ。そこで当記事では,この「ソーシャルコマース」について,背景や類型化,機能,今後のトレンドまでをまとめてみたい。
 
 
 
■ ソーシャルコマースの本質的価値 ... ソーシャルテクノロジーによる「商いの原点回帰」

コマースにソーシャルの要素を加えたものが「ソーシャルコマース」だが,まずマーケティングの変遷からその意義を理解しておきたい。まず,フィリップ・コトラーが最新著書「Marketing 3.0」で記したマーケティングの進化は次の通りだ。

  • マーケティング1.0 製品が中心 (良いものは売れる。消費者はひとつのカタマリ)
  • マーケティング2.0 消費者が中心 (消費者を細分化したカタマリとしてアプローチ)
  • マーケティング3.0 人間が中心 (生活者はひとりひとり異なる,心を持った人間) 

企業はすでにマーケティング3.0の実践を求められている。そしてこれからは,顧客を単なる消費者として見るのではなく,「多元的で,精神満足を求め,価値の創造に積極的に関わろうとする人間」として理解し,そのような顧客のニーズに応えることが重要だとしている。

このマーケティングの変遷をもう少し詳しく図式化(以降は当社オリジナル)すると次のようになる。

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その昔,江戸時代の三河屋は,ご近所の住人ひとりひとりについて,どんなものが好きか,どんな悩みをもっているかなどを人間関係の中で自然に把握し,それを商売に生かしていた。「梅さん,やっと活きのいいサンマが入ったよ,持ってきなよ」 こんな自然な会話で商売の輪が広がっていく。それだけではない。近所づきあいの中で,悪徳商売をする越後屋の悪事はすぐに噂になる時代だった。
 
産業革命による大規模生産,大規模販売は,商品を広く・安く・早く届けるという意味で大いなる価値があったが,他方で,需要と供給サイドは疎遠になり,買い手の顔を意識するより分析するという価値観に代わっていった。SPAやCRMも登場したが,売り手と買い手の精神的距離を縮めるにはいたらなかった。

そこで登場してきたのが,ソーシャルテクノロジーをベースにした「ソーシャルコマース」だ。高度な生産システムを保ちながら,企業と顧客の関係性を三河屋なみに深めることのできる時代になってきたのだ。「商いの原点回帰」,それがソーシャルコマースの本質的価値だ。
  
 
 
■ ソーシャルコマースの類型化 ... コマースとコミュニティをいかに組み合わせるか?

「ソーシャルコマース」ないし「ソーシャルショッピング」は,コミュニティにおけるクチコミの力をフルに活用したコマースサイトの総称だ。そしてこの「ソーシャルコマース」は,パブリックタイプ(広く多様な商品を対象)とプライベートタイプ(自社商品のみを対象)に分類される。「ソーシャルショッピング」という言葉はこのうちパブリックタイプをさすことが多い。

また今ハヤリの「フラッシュマーケティング」は,本質的にはタイムセールなど限定販売により衝動買いを促す手法だが,「ソーシャルコマース」の要素である共同購入とクチコミ効果を組み合わせることでGrouponのような成功事例が生まれてきた。異なるルートを持つ概念だが「ソーシャルコマース」と相乗効果が生まれるコマース・スタイルということができるだろう。
 
 
1.パブリックタイプ

1) 「買いたい情報」を共有する
商品情報に特化したソーシャル・ブックマーク・サービス。最も著名な事例は登録者が100万人を超えるKaboodle(参考記事:kaboodleに学ぶユーザー視点のブランディング)だ。

2)「買った情報」を共有する
クレジットカードやコマースサイト購入情報などを共有するサービス。最も著名な事例は昨年12月に開始されたBlippy(参考記事:クレジットカードでの買い物(店・品物・値段)を友だちと共有するサービスBlippy)だ。

3)商品やクーポンを共同購入する
一定人数が集まると格安で共同購入できるサービス。最も著名な事例は驚異的な成長を遂げているGroupon(参考記事:創業2年で売上300億円超,利益40億円超。驚異のソーシャルコマースサイト,"Groupon" 成功の秘密を探る)だ。
 
 
2.プライベートタイプ


1)メガSNS内にコマースサイトを運営する

メガSNS(現時点ではFacebookが最有力)内にコマースサイトを設置して運営するタイプ。最も著名な事例は1-800-FLOWERS.COM(参考記事:1-800-Flowers.com が Facebook 上で店舗開設)だ。

2)メガSNSと連係したコマースサイトを運営する
自社コマースサイトをメガSNSとコネクトするタイプ。最も著名な事例はLevi's Friends Store(参考記事:米Levi'sのサイトに見るソーシャルショッピングの近未来)だ。

3)プライベートコミュニティと連携したコマースサイトを運営する
自社コマースサイトと自社コミュニティを連動させるタイプ。最も著名な事例は弊社でシステム構築に関与させていただいたNissen Online(参考記事:絶大な信頼感を醸成するソーシャルコマース…通販大手ニッセンのオンラインショッピング)だ。
 
 
 
■ ソーシャルコマースの機能 ... コミュニティ効果をどう活用するか?

では,従来のコマースサイトと比較して,コミュニティ効果をドッキングさせたソーシャルコマースにはどのような機能を持たせればよいのだろうか?

下記の表は,コマースにおける購買行動プロセスごと,従来型Eコマースとソーシャルコマースとの機能比較をしたものだ。なお,コマースの購買行動プロセスとしては,「AISAS」(注意→関心→検索→購買→情報共有)を基本として,その前後に Insight(願望)とCollaboraton(互助協力)をプラスしている。

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ソーシャルコマースの世界では,「モノが売れていくプロセス」において,生活者が単なる受身の存在ではないことが特徴だ。生活者は「商品を探し,情報交換し,評価し,新しい付加価値を提案する」ことに積極的な関与を希望する,企業の大切なパートナーとしての存在なのだ。

これを視点を変えて「モノをつくるプロセス」で表現すると次の図(すべて当社関与のプライベートコミュニティ事例)のようになる。

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商品の開発フェーズから生活者が参加し,ともに企画・体験しながらファンが醸成されていく。商品を販売するコマースサイトでも生活者同士,生活者と企業が会話交流できるオープンな場を提供する。それは商品販売後の顧客サポートでも同様だ。そして生活者からの改善アイディアを次の商品開発に生かしていく。一言でいうと,生活者が主役の商品開発プロセスと言える。
 
 
■ ソーシャルコマースのこれから ... 生活者が求めているインサイトとソリューションは?

これから「ソーシャルコマース」はどのような進化をとげていくのだろうか?ヒントになるのは,情報大爆発を背景に多くの生活者が持つ,次のような共通のインサイト(無意識の願望)だ。

  • ・買い物に失敗したくない。だから信頼できて自分と似た趣向を持つ人のリコメンド情報が欲しい
  • ・忙しいので無駄な時間をすごしたくない。だからタイムリーに,超お得で提案をシンプルにしてほしい
  • ・特に期待していないが,もし感動や共感を感じるブランドが見つかったら嬉しいし,友人に推薦したい

これら生活者のキモチに精度高く応えられるソリューションこそ,新しい「ソーシャルコマース」に求められている機能だろう。具体的には,次の5つの観点でコマースのソーシャル化を深化させることが大切だと考えている。

1.対話の場を提供し,ソーシャル性を深める
透明性の時代において,これまでのような企業視点の一方的な売り込みは通用しなくなっていく。これからは(顔の見えない商品レビューではなく)「信頼と同好」に基づく友人からのリコメンドが購入意思決定のキーとなるだろう。企業は顧客のクチコミを恐れず,積極的に売り場でクチコミをアピールするべきだ。さらに利用者にとって信頼できる人,同好の人の意見が目にとまるようなサイト設計を心がけるとさらに効果的だ。そのためのキーとなる情報が「ソーシャルグラフ」(解説記事)だ。

2.生活者ひとりひとりのコンテクストを理解する
生活者をカタマリ化して分析するアプローチは通用しなくなってきた。これからは生活者ひとりひとりのコンテクスト(背景,事情)を理解して,必要十分な情報をタイムリーに提供するアプローチが重要となってくる。その実現のキーとなるのは,やはり個人情報や行動履歴を含む広義な意味での「ソーシャルグラフ」(解説記事)だ。

3.シンプルなフラッシュ・マーケティングを演出する
細分化された複雑多様な提案の時代は終わった。例えば日本の携帯電話の料金体系はその典型だ。誰にも理解されないトラップを含む複雑な仕組みは生活者の求めるものと正反対のものだ。もしくは多機能を追求するマイクロソフトとシンプルさを追求するアップルの違いと言っても良いだろう。情報過多の時代,時間を節約したい生活者を考えさせようとすると足は遠のいてしまう。時間や数量限定でお得感をシンプルに演出し,衝動買いを促すフラッシュ・マーケティングはその典型的成功パターンであり,専用サイトだけではなく,個別のコマースサイトにもその仕組みは取り入れられていくだろう。特に購入者が増えるほどお得になる「加速取引」はクチコミも加速する効果があるので,今後注目される手法と言える。ただし複雑に見せないことが重要なことは言うまでもない。

4.顧客に信頼されるアドボカシー・マーケティングを実践する
新規顧客の獲得を優先する時代も終わりつつある。生活者は常に相互で連絡を取り合い,ひと昔のように簡単にはだまされない時代になった。そして顧客との誠実なコミュニケーションが広告よりコストパフォーマンスの良いプランディング,集客手段になることはザッポスが実証(参考記事:米国ザッポス「顧客にWOW!をお届けする」奇跡の経営,その本質を探る)している。これからは顧客との長期的な信頼関係を構築し,ブランド・ロイヤリティを高めることに注力すべきだ。ツイッターはアドボカシー(顧客支援)マーケティングを実践するために最も有効なツールのひとつだろう。

5.顧客とともに価値を創造する
商品企画のプロだけではなく,消費のプロである生活者の多様な意見を取り入れて,ともに商品サービスを共創していくことが大切な時代になった。(参考記事:「セブンプレミアム」がお客様の声をPB商品開発に。「プレミアムライフ向上委員会」本日オープン) ただし生活者に商品開発をゆだねるという意味ではないことに注意したい。例えば商品アイディアの時点では「雑多な生活者の会話からキラリと光るアイディアを発見する」のが商品企画者の手腕であり,素材の選定では「多様な生活者の意見を参考にしながら」商品企画者が主導する。パッケージの選定,価格設定など商品開発後半フェーズでは「生活者の多数意見を集約していく」ことが大切になり,試作品は「生活者と一緒に体験する」ことでファンの醸成効果も生まれてくる。このように開発フェーズによって適切な生活者参加を図るノウハウが重要となってくる。いずれにしても大切なことは,商品開発会議や開発プロセスに「生活者の席」を用意し,彼らの意見に耳を傾ける誠実な対話姿勢だ。


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