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GREEオープン化とは? コネクト技術詳細とmixi/モバゲー/Facebookとの比較

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昨日,GREE社からオープン化に関するニュースリリースが発表され,多くのネット系媒体に報道されていた。中にはアプリ・オープン化とも混同した報道もあったので,まずその正確な内容を記したい。
   
そのもととなるリリース文はこちら
GREE、プラットフォーム戦略の推進について ~「GREE Connect(仮称)」を公開 (GREE, 2010/1/12)

ポイントを抽出すると以下の2点だ。

 1. 「GREE Connect(仮称)」の公開
「GREE Connect(仮称)」では、SNS「GREE」以外のWebサービス・アプリケーション・インターネット端末において、「GREE」のデータを活用した付加サービスの開発を可能に致します。機能の公開は2010年の春を予定しております。 また、技術仕様につきましては、決定次第公開していきます。

2. 「GREE」のプラットフォーム戦略の推進
グリーは、「GREE Connect(仮称)」のリリースをきっかけとして、外部デべロッパーによる「GREE」上でのサービス構築を可能にする検討も含め、プラットフォーム戦略を検討・推進して参ります。今後の予定については、決定次第お知らせしていきます。

ここで,1ではGREE以外のサイトやアプリからGREEのデータを利用するためのAPIを2010年春に公開することを意味し,2では将来,mixiやモバゲーのようにアプリケーション開発APIをオープン化する開発意向の表明を意味している。

このうち,2のSNS内アプリ・オープン化については,すでにmixiでは開始,モバゲーも近日開始予定であり,特に説明の必要はないだろう。今回のGREE発表においては,こちらはあくまで意向を表明したに留まっており,現時点では未定に近い状態だ。

それに対して,今回発表のあったデータポータビリティー技術 "GREE Connect" については,"mixi Connect"も正式オープンしておらず(現在はMSN等の限定提携先に提供しているのみ),理解されていない点も多いので,まずはこの「コネクト」とは何かを深堀してみたい。

 
■ データポータビリティ技術「コネクト」とは?

mixiを例にとって説明しよう。"mixiアプリ"はmixiサイト内で稼動するのに対して,"mixi Connect"とはmixiサイト外でmixiデータを使用するためのAPIのことだ。

  • mixiサイト外とは,PCウェブ,携帯ウェブ,ウィジェット,Windowsアプリ等
  • mixiデータとは,mixiユーザーのID情報,プロフィール,ソーシャルグラフ,会話等のアクティビティ等

そもそもこのデータポータビリティの考え方は,Data Portability Workgroupが中心となり(GoogleやFacebookも参加していた),相互運用性のみならず,ソーシャルアプリAPIユーザー権利等について共同歩調でプラットフォーム化をすすめていくことを目的としてすすめられていたものだ。

それが,Myspaceが2008年5月9日に独自体系 "Data Availability"を発表したのを皮切りに,5月10日にFacebookが"Facebook Connect"を,さらに5月13日にはGoogleが"Friend Connect"を発表するにいたり,当初のワークグループ構想は完全に崩れてしまったという経緯がある。

この中で唯一,Googleの発表した"Friend Connect"だけは,Data Portability Workgroupが目指していたものと近い,複数SNSのデータと接続できるオープン型コンセプトだった。

Mashable記事Friend Connect And The End Of The Fragmentation Era内にある図がわかりやすいので,引用しながら Google の"Friend Connect"の特徴を見てみたい。   

これはオープンIDや各SNSが公開しているAPIを利用して 一般のwebsiteがSNSにアクセスするイメージ図だ。これだと個々に開発する必要があり,業界全体の生産性が大幅に落ちてしまう。この標準化を目指したのがGoogleの提唱した"Friend Connect"だ。


"Friend Connect"があれば,websiteは共通APIにしたがって開発することにより,それに対応する多様なSNSデータを利用できることになるわけだ。

そして"Friend Connect"の中身については,Googleが発表したイメージ図がポイントをあらわしているので掲載したい。

これを見ると,"Friend Connect"は,サインインで"OpenID",ユーザー認証で"Oauth",アプリ開発で"OpenSocial"という3つの標準仕様をコアにしたデータポータビリティ技術であることがわかる。

これに対して,FacebookとMyspaceの発表したものは自社SNSデータへの統合アクセスAPIだった。これはFacebook Connectのイメージ図を見るとよくわかる。   

ここでは,あくまで中核にあるのはFacebookのもつデータベース,それをWeb,Desktopアプリモバイルゲーム機などのネットデバイスからアクセスするための統合アクセスAPI"Facebook Connect"なのだ。

なお,Myspaceについては,最後の賭けに出た"Data Availability"が,Facebook,Googleの目にも留まらぬ早業で追撃されたため,普及では大きく出遅れた。そして現在では,最も先行しているFacebook Connect軍門に下る可能性を示唆する記事まであらわれている。

Facebook Connect Will Be “Everywhere” on MySpace Next Year (Inside Facebook, 2009/12/4)

     

■ Facebook vs Google

現在,データポータビリティ戦争は Facebook vs Google の構図となっているが,現状ではFacebookがその圧倒的な成長力によってGoogleをリードしている。

最新SNS勢力マップ発表。Facebookが127ヵ国中100ヶ国でトップシェアを奪取 (2009/12/22)

例えば,2009年10月に行なわれたCBS Sports大学フットボール放送でのライブチャット利用におけるアクセスIDのチャートを見ると,Facebookが58.5%を占め,他SNSを圧倒していることがわかる。

これはConnectというよりも,オープンIDとして,どのSNSのIDが利用されたかという統計だが,"Facebook Connect"の強さの源を知ることのできるデータといえる。

Googleの弱みは,自社ブランドSNSがない(OrkutもFacebookに圧倒されている)点だ。対抗手段として昨年末にTwitterとのID提携を発表し話題をよんだ。同日にYahooがFacebook Connectを全面採用するというニュースもあり,水面下の激しい競争を垣間見ることとなった。

ID戦争勃発?米YahooはFacebookと、 GoogleはTwitterと連携 (湯川鶴章のIT潮流, 2009/12/3)

ここでFacebookの狙っていることは全世界の個人情報とソーシャルグラフ,アクティビティを一手に集約すること,またGoogleの狙いはその阻止にある。仮にFacebookが来年も同等のペースで成長し続けると,Googleと同等ないしそれ以上のパワーを持つ覇権企業に成長する可能性がある。このコネクト技術は次世代IT覇権を争う重要なカギとなるため,熾烈な争いとなっているのだ。

そして,それと同様の争いが日本でも起こりつつある。今回の"GREE Connect"もその一端といえる。

 
■ 日本におけるデータポータビリティ戦争

Facebookの普及が遅れている日本においては,データポータビリティ戦争の緒戦としてオープンID競争が起こり始めている。現在の最強プレイヤーはYahoo,すこし遅れてmixi,さらに今後猛追する可能性があるのは楽天だろう。そしてそれぞれIDを足掛かりに,課金決済やポイントなどをプラットフォーム化し,シェアを争うことになるだろう。

2009年2月作成でデータはやや古いが,世界と日本の個人情報獲得を巡る争いを図式化すると次のようになる。(例えば現在では,myspace陣営だったYahooがFacebookに移り,twitterがGoogle陣営に移っている)

Yahooや楽天はSNSではないためソーシャルグラフを持っていないが,そのかわり膨大の購買履歴がある。そのため日本においては多面的な争いとなっていくことが予想される。

また,日本において急成長を続けるTwitter/Google軍団と,今年上陸するFacebookが,強大な黒船としてこの争いに本格参入することになる。

そんな構図の中,新たに参戦したのが今回の"GREE Connect"というわけだ。

 
■ 国内主要SNSのオープン化概要

最後に,世界最強SNSであるFacebookと,国内主要SNSであるmixiモバゲーGREEの四社のオープン化状況を比較表にしてまとめてみたい。


まず,SNS内のアプリ・プラットフォームについて。   


    (クリックで拡大できます)

Facebookmixiは,ほぼ同じ完全なオープン志向であるのに対して,モバゲーはアプリのみオープンするという考え方だ。またGREEについては最初の記事でふれたように意向を表明しただけでその進捗は不明だ。


続いて,SNS外部に対するコネクトについて。   

 
この図にある通り,現在日本で使用できるのは,"Facebook Conncect""Friend Connect"のみ。ただし2010年春には"mixi Connect"が正式に公開され,"GREE Connect"も開始される予定だ。モバゲーはこの外部接続に関しては未発表だ。     

なお,"Facebook Connect""Friend Connect"は,他サイトに極めて簡単に(コーディングレスで)組み込むことが可能となっている。

 
"mixi Connect"
"GREE Connect"がいかに多くのサイトに取り入れられるか,開発環境の完成度がシェア争いの重要な鍵を握っている。それらも含めて,今後の各社の動向を興味深く見守っていきたい。

 
【追記】
当社社員の岡村健が,本日CNETブログにて類似テーマの記事を掲載しました。より具体的な内容となっていますので,ご興味あればこちらもぜひ閲覧ください。
GREEのオープン化でSNSオープン化戦争が激化 ~ 「コネクト」と「オープンプラットフォーム」の違い

 

 
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