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ビジネスアナリティクス(BA)講演資料を読む。

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編集者たるもの、最新動向リサーチは怠りなく。ということで、今回は日本IBM主催のビジネスアナリティクス関連の講演資料を見てみました。関連資料(PDF)は以下からダウンロードできます。

IBM Business Analytics Forum Japan 2011 2011年11月9、10日 ロイヤルパークホテル(東京)
http://ibm.com/software/jp/analytics/events/baforum2011/

20111215_10423_pm

実は Business Analytics Forum Japan 2011 には実際に聴きに行こうと思っていたのですが、業務都合で行けず残念な思いをしました。しかし、このように講演資料を公開してもらえるのは非常にありがたい。日本IBM様、ありがとうございます。

BIからBAへ
いつの間にやら、「ビジネスインテリジェンス(BI)」は「ビジネスアナリティクス(BA)」と名前を変えた模様で、この流れはいつの頃からか。中寛之さんの「マッシュアップってどこにいったの? ガートナー戦略的テクノロジの過去を振り返る」では、ガートナーの「XXXX年に注目すべき10の戦略的テクノロジ」が紹介されていて、そこには 2009年に「ビジネス・インテリジェンス(BI)」が初登場しています。その後、次のように名前を変えながら重要テクノロジとして生き残っています。

XXXX年に注目すべき技術
2009年 ビジネス・インテリジェンス(BI)
2010年 高度な分析
2011年 次世代型分析
2012年 次世代アナリティクス

要するに、バズワードとして BI は手あかにまみれてしまってユーザーへの訴求力が乏しいものになった。これからはBAと呼ぼう。そういうことなのではと思います。ちょうど、ダベンポートの『分析力を武器とする企業』(2008)も売れましたし、世の中的にはそのような流れのようです。現在は、BI と BA は実質的には同じ意味だと思って問題ないでしょう。

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さて、以下では、ざざっとPDFを見ながらメモしたこと、思ったことなどを記しておきます。

【1A-1】こんなツールが欲しかった! ─IBM Cognos BIの進化と魅力─
▼5枚目スライド:買収を通じて成長するIBMソフトウェア
IBMは2003年からNETEZZA、SPSS、Cognos Softwareなど、ミドルウェアポートフォリオを完成させるために多数の企業買収(50社近く)をしてきたと書いてあります。つい最近だと、「IBM、小売向け販売データ分析のDemandTecを4億4000万ドルで買収」という記事を見かけたばかり。IBM、Google、Oracle、Microsoft、Ciscoなど、買収合戦は止まりそうにありません。

【2S-2】キャラクターの活用効果を可視化する ─SPSSとAMOSを用いたアプローチ事例のご紹介─ 株式会社 アサツー ディ・ケイ(野澤智行 氏)
この資料は非常に面白いのでダウンロードしてご覧戴きたいのですが、セッション紹介文は以下のようになっています。

今や「キャラクター」は、幅広い層でパブリックな存在になっており、コミュニケーションツールとして用いることで、多岐にわたる業種の企業でさまざまな効果が期待できます。どんなキャラクターを使ってどんな感情を刺激すれば狙った効果が発揮されるのか、特に企業メッセージへの「共感」獲得と「協働」「共創」を生み出す“ソーシャルコミュニケーター”としての役割を果たすにはどうすべきか、定量調査データを用いてご紹介します。

講演者の野澤氏が勤務するアサツー ディ・ケイ(ADK)は、広告業界国内第3位の総合広告会社で、1960年代からTVアニメなどを通じてキャラクターマーチャンダイジングを展開していたそうです。キャラクターの例としては、「8マン」「巨人の星」「マジンガーZ」「ドラえもん」、最近のものでは「ONE PIECE ワンピース」「クレヨンしんちゃん」「毎日かあさん」「スイートプリキュア♪」「クッキンアイドル アイ!マイ!まいん!」「仮面ライダーフォーセ」「たまごっち!」「プリティーリズム・オーロラドリーム」などがあり、ADKグループで商品化権を有するキャラクターは多数あるとのこと。

また、東日本震災支援活動でのキャラクター活用事例として、以下のものが紹介されていました。

ウルトラマン基金・被災地支援訪問 http://www.ultraman-kikin.jp/
ドラえもんの被災地訪問 http://dora-world.com/doragenki/
こども武士道 http://blog.livedoor.jp/kodomobushido/
てをつなごう だいさくせん http://www.teotsunago.com/
ともだちヒーロー 「ヒーロー(@tokusatsuhero)」 http://matome.naver.jp/odai/2130018452249294601

ヒーロー(@tokusatsuhero)on Twitter http://twitter.com/tokusatsuhero/
Ibm_business_analistics_hero


特に面白かったのは42枚目以降のスライドで、「キャラクター消費活動クラスター」の分析。各クラスタのタイプとキャラクターに求める体験がどのようなものか調査していました。その中からごく一部だけ抜粋して引用します。

オタク本格派
キャラクターに求める体験:「収集」、「カタルシス・非日常感」、「参加・同一視」
腐女子・歴女系
キャラクターに求める体験:「収集・コミュニケーション」、「参加・同一視」、「癒し・安らぎ」、「スキンシップ・触感」
アニメファン
キャラクターに求める体験:「郷愁・幼年回帰」
アニメライトファン
キャラクターに求める体験:「注目・トレンド」
コミュニケーションツール派
キャラクターに求める体験:「コミュニケーション」

さらに、次のように指摘しています。[ ]は筆者補足。
男性は物語[ストーリー]、女性は自己の分身を求め、若年層ほどコミュニケーションを重視
昔は、送り手側がキャラクターの価値を決め、コントロールしていた
今は、送り手側に加え、受け手側からの評価 がインタラクティブに反映 ⇒ 送り手・受け手の協働により、キャラクターの価値が“共創” (二次創作など) 例:初音ミク

そして、「いま『キャラクター』に求められる新たな役割」(34枚目)について以下のように述べています。
『キャラクター』が持つ「パプリックな存在」としての立ち位置やパーソナリティを生かすことで、企業や団体が社会的意義の強い活動を広める際に、コミュニケーションを円滑にして、生活者の幅広い層で共感や参加意識を高め、企業とのブランド協働や共創を促す役割を担うことができます。
                  ↓
このようなキャラクターの新たな役割を、 「ソーシャルコミュニケーター」 と命名します。


この資料に示されている分析は、キャラクター消費のみならず他の市場、たとえばソーシャルメディアも含めて利用可能か、示唆を与えるものとなっていると思います。

そうそう、キャラクターといえば、このエントリーも見逃せません。吉川日出行さんの「2012年は公式キャラクター2次利用元年になるか」。いつか、吉川さんには萌え文化論、いえキャラクター経済文化論を拝聴したく思っております。


【1A-3】競争に打ち勝つための業務プロセス改革 ─SPSS Deployment Familyの真価─
▼10枚目スライド:意思決定のタイプ
意思決定のタイプとして、次の3つを挙げています。

「戦略」の決定 (意思決定の範囲が大きい、不確実性高い)
業務上の決定
「戦術」の決定 (意思決定の数が多い、自動化の程度が高い)

このように規定したうえで、「データマイニングは、「戦術」レベルの意思決定に大きく貢献する」としています。うーん、そうなんでしょうか。戦略的意思決定の基礎固めにデータマイニングは有効だと思うのですが…。

▼16枚目スライド:「顧客」を起点としたキャンペーン
このスライドの冒頭の言葉は次のようになっています。

顧客理解を深め、予測分析によって高い効果の期待できる顧客アプローチを実践する

これを ITmedia などのウェブメディアに当てはめると、「読者」を起点としたキャンペーンとなります。いまオルタナトークのお題は「ブログ執筆のPDCA」ですが、こういうデータマイニングの考え方は使えそうです。オルタナブロガーのページに(任意で)設置されているGoogleアナリティクスだと詳しい情報はわかりませんが、ITmedia で使っている高価なアクセス解析ツール(SiteCatalyst。HTML のソースを見ればタグが埋め込んであるのでわかります)ならもっと詳しいことがわかります。たとえば、伊藤海彦さんのエントリー「やはり検索は強し - グラフカタリスト10月度アクセス分析」でいろいろとアクセス分析していて参考になります。

思うのは、これに加えて「どういう属性を持った読者がブログ、そして ITmedia サイトのページ上を見ていったか」という情報を集積していけば、有益なデータマイニングが可能になるのではないか。日経BP社の ITpro はログインしないと記事を読むことができないようにするなど、読者のプロファイル収集に積極的で、あれぐらいやれば自社サイトなどのオウンドメディアに適した SEO(検索エンジン最適化)が可能になるでしょう(関連エントリー:舩津章さんの「猛追撃に移る「ITpro Active」」)。オルタナブログに関して言えば、入り口分析だけでなく、「どういう読者」が「次に ITmedia本体のどの記事を見たか」がわかると面白いのですが、ブログ単位の Googleアナリティクスではそこまではわからないので、伊藤さんにはそのあたりの分析も見せてもらえると大変うれしく思います。


【1E-2】診療情報の可視化、分析、最適化ソリューションのご紹介
26枚目に統計とマイニングの違いが図になっていました。備忘を兼ねてメモ。

統計        マイニング
サンプリング    大量データ
仮説検証      仮説探索<
過去の洞察     将来の推測

31枚目以降で、カルテ内の主訴(患者が医者に訴える主な症状)や観察などをテキストマイニングして診断に役立てる、という例が載っていて感心しました。患者不在の電子カルテシステムと批判されることもありますが、こういう応用事例は患者の利益にもなるのではないでしょうか。

オルタナブログでの医療絡みのエントリーとしては、佐藤比呂志さんの「米国の医療改革」があります。ヘルスケアIT、自分(および家族)も含め、高齢化社会に生きる者たちにとって本当に重要なテーマだと思います。


【1E-3】Big data分析がもたらすビジネス変革事例 ─大量データ活用で新境地を開く─
【1E-4】インフラで差がつく!企業成長へのビジネス・アナリティクス本格活用の極意

このほかに、最近の流行語(?)のビッグデータがらみのセッションがいくつかあり、注目したい新しめのテクノロジーは「ストリーム・コンピューティング」あるいは「ストリーミング分析」でしょうか。これは旧来のデータを蓄積してから分析を行う DWH(データウェアハウス)や BI と異なり、膨大な量のデータの流れ(ストリーム)を対象にリアルタイム分析を行うというものです。

オルタナブログでビッグデータと言えばシロクマさん、こと小林啓倫さん。小林さんの「ビッグデータをバズワードで終わらせないために」は必読でありましょう。

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