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ある時はコンピュータの製品企画担当者、またある時は?

仮の自分

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東京は豊洲にあるキッザニアが人気である。インターネットで予約を取ろうにも、カレンダーを見渡す限りの満員御礼状態で、土日曜日に行こうと思ったら、キャンセルが入るタイミングをスナイパーのように虎視眈々と狙い続けなければならない。そしてちょっとでもスキができたら速攻で予約を入れるという早業が要求される。妻が毎晩インターネットの画面をにらみ続け、娘の小学校の運動会振替休日に狙いを定めること数日、ようやく入場券確保に成功したようだ。まったくこれだけで疲れる話だ。

要するに擬似職業体験ができるというのが、子供に受けるらしい。娘もいくつかの職業を体験し、一番面白かったのは警察官だったそうだ。予め事件のシナリオと被害者・犯人・警察官のセリフが決まっていたので、体験というよりも演技と言った方が実態に合っている。いずれにしても、「太陽にほえろ!」(古いな)のように走ったり、犯人と格闘したりはしないけれども、指紋採取(ごっこ)によって証拠を集めて犯人を特定するプロセスが面白かったとのことだ。キッザニアのお陰で、娘の将来なりたい職業トップ20に、めでたく警察官がランクインするに至った次第である。何年かすると、「昔キッザニアでの体験が忘れがたくて、政治家になりました」、なんてことを言う人が出てくるのかもしれない。ついでに贈収賄でどんな目に合うのかも擬似体験しておくといい。もっとも政治家は体験できないみたいだが。また、俗に言う3K職業もキッザニアで体験できるようにしておけば、人材の供給に事欠かないようになるに違いない。いや完全に逆効果になるかもしれない。

疑似体験願望って、大人だって同じじゃないかな。今の自分は仮の姿であって、本当はもっと違うことがやりたかった、なんて思っている人って結構多いのではないか。例えば同じ会社の中であれば、異動するなどすれば仕事の中身は変わるし、それはそれなりに面白みもあるのだけれども、さすがに業種・業態までおいそれと変われるわけではない。だからと言って子供だましの施設は作れても、大人だましの職業体験まではちょっと無理そうだ。でもあったら甘党の僕としては、ケーキ屋さんなどやってみたい気はする。

それにしてもキッザニアに来るのはリピーターも多いらしい。体験を売り物にするのは商売上効果的だということか。そう言えばかつてマーケティング理論において、価値というものを「原材料→商品→サービス→経験」、といった具合に段階的に把握することを学んだことがある。そして経験は記憶に残り、最も価値があるとされる。

見事にこの理論の狙いどおり、娘はまたキッザニアに行きたいんだそうだ。一方で五時間もの間、付き添いの親は我が子の様子を眺めながらひたすらに待ちつづけるしかない。妻は夏休みにターゲットを絞って次の機会を窺おうとしている。様子を聞くまでは話のネタに一度くらい行ってもよいかなと思っていたのだけれど、僕は謹んで遠慮させていただきたいな。

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