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マターネットが空を覆う日

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21世紀になったら空飛ぶ自動車が実用化されているはず――子どもの頃、そんな夢を抱いていたアラフォー以上の方々も多いと思います。しかし21世紀に入って10年以上経過した現在でも、空飛ぶ自動車が実用化される兆しは見えず、普通の自動車がちょっと丸っこくなったぐらい。ましてや空を飛べる個人用バックパックも存在しません。

その理由のひとつは、逆説的に聞こえるかもしれませんが、自動車と道路という優れたシステムが存在していたからでしょう。確かに様々な問題を抱えているものの、ひとたび道路インフラが構築されてしまえば、その上を走る自動車によって効率的な輸送を行うことができます。それを破壊して、「空飛ぶ自動車」というシステムを一から構築するというのは、大きな労力と決断力が必要になります。仮に空飛ぶ自動車が非常に優れた輸送手段であったとしても。

しかしそんなインフラや、システムのない環境の中で一から輸送手段を考えたとしたら。奇想天外に聞こえるこんなアイデアも現実味を帯びてくるかもしれません:

An internet of airborne things (The Economist)
Matternet: Swapping roads for flying drones (BBC)

インターネットならぬ「マターネット(matternet)」というアイデアについて。これを推進している人物の一人であるGustav Borgefalk氏(スウェーデン出身の28歳の起業家)がTEDxVasastan(ヴァサスタン)でスピーチしている映像があるので、そちらもご紹介しておきましょう(以下は日本語訳版で、オリジナルはこちら):

すっかりお馴染みとなった小型の4ローターヘリ。これを自動で離着陸できるようにし(ドローン化するわけですね)、さらに無数のノードとして配置することによって、小包を文字通り「パケット」転送の要領で配送可能にするというアイデア。ビットではなくモノ(matter)を運ぶのでマターネット、というわけですね。

1つの機体で長距離輸送をしようというのではなく、インターネットに倣ってバケツリレー方式にしたのが発想の転換と言えるかもしれません。1機が飛ぶ距離はおよそ10km。つまり10km間隔でノードを配置し、各ノードには荷物の積み替えを行う装置と、待機中のヘリに充電を行う装置を設置しておきます。さらに「パケット」の転送を最適化するシステムが必要ですが、これも恐らくネットのアナロジーから開発されることでしょう。ロボットヘリが縦横無尽に空を駆け巡るなど、まさにSF映画の世界ですが、話を聞けば確かに荒唐無稽なアイデアではありません。実現されれば、医療や災害対応などの分野で多くの命を救うことになるでしょう。

実際に経済面でも現実性のある計画であることが、エコノミスト誌の記事で解説されています:

Andreas Raptopoulos, the entrepreneur who led the academic team, reckons that the scheme would be competitive with building all-weather roads. A case study of the Maseru district of Lesotho put the cost of a network of 50 base-stations and 150 drones at $900,000, compared with $1m for a 2km, one-lane road. The advantage of roads, however, is that they can carry heavy goods and people, whereas matternet drones would be limited to payloads of 2kg in a standard 10-litre container. But the scheme is potentially lifesaving in remote areas, and might also have commercial potential to deliver small packages in the rich world.

研究チームを率いる起業家のAndreas Raptopoulosは、この仕組みが将来的には全天候型道路の建設にも対抗できるようになると予測している。レソト王国のマセル地区を対象にしたケーススタディでは、50の拠点を設置し、150台のドローンを導入した場合、90万ドルのコストがかかると推定された。これは1レーンの道路2kmを建設した場合のコスト100万ドルよりも少ない。しかし道路には、重い荷物や人々を運べるという利点がある。マターネットのドローンの場合、標準的な10リットルの容器で2kgまでしか運べない。だがマターネットは遠隔地における人命救助に活用できる可能性があり、先進国においても、小包を配送する商用サービスとして展開できるかもしれない。

またドミニカ共和国とハイチ共和国において、実証実験も開始されたとのこと。「マターネット」が途上国の空を覆う日も近いのかもしれません。また2kgの荷物を10km間隔で運ぶということであれば、日本でも都市部における小包や書類の配送に使えるかもしれませんね。

逆に日本などでも道路インフラの維持が問題になっていることを考えると、途上国で進化したマターネットが、先進国のインフラ老朽化に対する解決策のひとつとして輸入される――などという可能性もあるのではないでしょうか。最新のテクノロジーを前提にゼロから考えた場合、どのような輸送システムが可能なのか。途上国で行われている実験に、私たちも大いに注目する必要があるのでしょう。

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