マルコム・マクリーンがすぐれて先見的だったのは、海運業とは船を運航する産業ではなく貨物を運ぶ産業だと見抜いたことである。今日では当たり前のことだが、1950年代にはじつに大胆な見方だった。この洞察があったからこそ、マクリーンによるコンテナリゼーションはそれまでの試みとはまったくちがうものになったのである。
(『コンテナ物語』 80頁)
鶴田裕史さんが『IT業界のマーケティングを問う』でマルク・レビンソン著『コンテナ物語』を紹介されていました(その①とその②)。偶然なのですが、僕も書店で平積みされているのを見て、「ビジネス書コーナーにコンテナの本?物流の専門書か?」と不思議に思って手に取った次第です。この本はタイトルの通り、現代の物流に欠かせないコンテナという「システム」(「箱」ではなく)がマルコム・マクリーンという人物によって発明され、確立されるまでを解説したもの。地味なテーマのように見えて、実は「イノベーションがどのように変革をもたらすか」を扱った、優れたケーススタディとなっています。
全てのケーススタディがそうであるように、『コンテナ物語』も数多くの教訓を与えてくれるのですが、ポイントの1つが冒頭に引用した一文です。実はコンテナという「箱」自身は、マクリーンの発明ではありません。当時(1950年代)はすでにコンテナ協会という団体すら存在し、普及に尽力していたとのこと。しかしコンテナを扱う「システム」がない、すなわち積み下ろしするための港内施設、陸運体制などが整っていなかったために、コンテナの特性を最大限に活かすことができずにいました。それを整え、コンテナから革新的な価値を引き出すことに成功したのがマクリーンというわけです。
マクリーンは陸運業から身を起こした人物でした。その彼が海運業に革命をもたらすことができたのは、1つには「荷物を安く、効率的に運ぶにはどうすれば良いか」にフォーカスしていたことが理由です。「私は陸運業者だ、トラックをどう走らせるかを考えよう」という態度であれば、そもそも海運を手がけようなどとは考えなかったでしょう。また船を手にしたときも、冒頭の引用文のように「海運とは荷物を運ぶ産業だ」と看破し、陸運・海運トータルで最適化される「コンテナというシステム」を立案・実現できたわけです。
マクリーンは当時の海運業者にとって、『逆転の競争戦略』でいうところの「侵入者/悪い競争業者」だったと考えられるでしょう。彼らが確立された枠組みの虜となり、非効率なシステムから逃れようとしない中で、マクリーンは「荷物を効率的に運ぶ」という一点でシステムを構築します。もちろん彼がアイデアを実行に移せるだけの能力があったことも重要ですが、マクリーンが既存の構造からではなく、本質から考えることができた点がイノベーションをもたらしたのだと思います。
私たちも、自分達の手がける業務の何が本質なのか -- 船を運航することが仕事なのか、はたまたそこに載せている貨物を輸送することが仕事なのか -- を十分に考える必要があるのでしょう。よく言われることであり、また簡単に思えることですが、コンテナという「ただの箱」ですら多くの人々には使いこなせなかったことを考えると、実行するのは本当に難しいことなのだと思います。
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- M.レビンソン『コンテナ物語』感想 及び同書の感想に対する感想(筆不精者の雑彙)
今日は最近読んだ大変面白かった本に関して一筆。その本とは、 マルク・レビンソン(村井章子訳) 『コンテナ物語 世界を変えたのは「箱」の発明だった』 日経BP社 であります。 本書はコンテナを使った物流システムがどのように形成され、世界各国の様々な産業がどのように形を変えていったかを述べたものです。コンテナ導入のストーリーにおいて中心となるのが、トラック輸送業者だったマルコム・マクリーンで、のちシーランドの経営者になります。コンテナにすれば面...

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