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【書評】"Reinventing Discovery: The New Era of Networked Science"

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ネットであらゆる情報が公開され、人と情報とが文字通りネットワークを形成する時代。その中で「知識」という存在はどのように変化してゆくのか――と書くと、先日ご紹介したデビッド・ワインバーガー氏の新刊"Too Big to Know"を彷彿とさせるかもしれません。しかし今回ご紹介するのは"Reinventing Discovery: The New Era of Networked Science"という本で、タイミング良く同じテーマが論じられているもの。ただタイトルからも分かるように、"Reinventing Discovery"は科学における取り組みを中心に考察した一冊です。

著者のミカエル・ニールセン氏は量子コンピュータの研究者で、『量子コンピュータと量子通信』という本なども書かれている方。研究成果や研究に使用したデータを積極的に共有し、また幅広い人々の参加を促すことで科学を発展させようというアプローチ「オープン・サイエンス」を提唱されています。本書でも様々なオープン・サイエンスの事例が紹介されており、こうした事例を読むだけでも参考になるでしょう。

例えば本書で度々取り上げられる"Galaxy Zoo"の例。直訳すれば「銀河の動物園」になりますが、実はハッブル宇宙望遠鏡で撮影された様々な銀河系の写真をオンラインで公開、その分類をボランティアで参加するユーザーにお願いしてしまおうというプロジェクトです。2007年にサイトが開設され、わずか1年で約5千万件の銀河の分類を達成、これまでに25万人以上のボランティアが参加しています。要はクラウドソーシング型の試みなのですが、面白いのは銀河系の分類に貢献しただけでなく、研究者でも気付いていなかった新事実を発見したという点。例えばこんな「グリーンピース銀河」もその一つ:

新タイプ“グリーンピース”銀河を発見 (ナショナルジオグラフィック)

天の川銀河の10倍の速度で星を生み出す新しいタイプの天体が見つかった。名付けて「グリーンピース銀河(Green Peas galaxy)」。インターネット上で銀河の画像を分類するボランティア参加型プロジェクト「Galaxy Zoo」が、今回の珍しい銀河の発見につながったという。

また最近ネットで「ゲーマーが科学者に勝利した!」として話題になった"Foldit"も本書で紹介されている事例です:

難問のタンパク質構造をゲーマーが解析 (Wired)

タンパク質の3次元的な分子構造を明らかにするオンライン・ゲーム『Foldit』で、科学者たちが10年間にわたって解けなかった難問を、ゲーマーたちが10日以内に解くという快挙があった。

前回ご紹介した"Too Big to Know"でも指摘されていた点ですが、データや情報に誰でもアクセスが可能で、またそこから得られた知見や分析結果もシェアされる状況下では、「知識」はアインシュタインのような天才の頭の中だけに収められているものではありません。もちろんそのような天才の重要性を否定するものではありませんが、僕らのような一般人がGalaxy Zooのようなプロジェクトに参加し、できる範囲での貢献を行うことも、科学の進歩にとって非常に重要なものになっていることを本書は指摘します。そしてそれは科学の分野に限った話ではなく、同じ「オープン」の言葉が使われている「オープン・ガバメント」の取り組みや、ジャーナリズムの世界、あるいは社会貢献といった分野でも同様でしょう。

ニールセン氏は本書を執筆した理由を、このように解説しています:

I wrote this book with the goal of lighting an almighty fire under the scientific community. We’re at a unique moment in history: for the first time we have an open-ended ability to build powerful new tools for thought. We have an opportunity to change the way knowledge is constructed.

私がこの本を書いた目的は、科学界を照らす強力な光を灯すためである。私たちは歴史上、重要な場面に立ち会っている。人々は史上初めて、知識を生む新たな道具をつくり出す無限の力を得たのである。私たちは知識の構造を変えるチャンスを手にしているのだ。

新たな「知識」の姿がどのような構造であり、それがどれほど強力なものなのか、本書はその一端を示してくれています。時にネットがもたらす変化は「人間はバカになった」という印象を抱かせるものですが、一方で科学者が発見できなかった知識をも見出す原動力になっていることを、私たちは認識する必要があるのではないでしょうか。

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