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クラウド捜査アプリ"Gigwalk"と未来のジャーナリズム

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何とも大げさなタイトルにしてしまいましたが、中身はもう少しカジュアルな話です。

たまたま現場に居合わせた人々によって、災害や事件の生々しい画像/映像が撮影され、場合によってはマスメディア上にもそれが流れる――繰り返し述べていますが、これはまったく珍しい状況ではなくなりました。3月の東日本大震災でも数多く見られ、同震災を「史上最も記録された災害」と呼ぶ人も少なくありません。

しかし、いわば「素人」が危険を冒して手に入れたコンテンツを、マスメディアというプロが無償/安価で利用するという状況は望ましいものなのか。この問題は、昨日ご紹介した『あなたがメディア!』の中でも、著者のダン・ギルモア氏によって提起されていました。実際に何らかの形で撮影者にメリットがもたらされるよう、様々なモデルが検討されつつあるのですが、次の記事で紹介されているアプリ"Gigwalk"はその中でもユニークなものの1つでしょう:

New iPhone app helps pay the bills (Miami Herald)

実は今年前半から既に登場していたアプリで、以下の日本語記事で詳しく解説されています:

Gigwalk - iPhoneで写真を撮って、質問に答えて、稼ぐ(アメリカのみ)(app to i)

要は何らかの写真を撮る(場合によってはそれに加えて質問に答える)というお仕事(GIG)が提示され、それに応じて写真を撮ると、撮影者に報酬が支払われると。WEB2.0の時代が可能にしたクラウドソーシングを、アプリという形で実現しているわけですね。

しかし1回のGIGで支払われるのが数ドル程度(最大90ドルだが、簡単なGIGをいくつかこなさないと高額GIGを引き受けることができない)では、たいした報酬にはならないだろう……と思いきや。上記のMiami Herald紙の記事で紹介されている男性の場合、1ヶ月で350ドルも稼いだとのこと。まぁそのためにどの程度の労力を使ったかという話にはなりますが、自分の生活圏内にある程度のGIGがあれば、悪くない話でしょう。

気になる依頼の内容ですが、「ある店舗がまだ営業しているかを確認する」「別の店舗に変わっている場合には新しい店舗がどのようなものか報告する」「あるレストランのメニューがどのような内容か確認する」などといった具合のようです。レストランの店内を撮影するなど、一部グレーゾーンにあるものも含まれているようですね。運営が仕事内容をどこまで確認しているかは不明ですが、「有名人の私生活を撮影する」など、パパラッチ的な方向に向かう危険もあるかもしれません。

しかしその一方で、冒頭のような「被災した地域の現状を調査する」など、有意義な目的に活用される可能性もあるのではないでしょうか。さらに報道機関が自社の取材チームを(時間的/地理的に)送り込めない状況で、Gigwalkユーザーが特派員的な役割を果たすということも期待できるかもしれません。いずれにせよ、問題はこの仕組みをどのように運営するのかにかかっています。

もちろんGigwalkがそのような公共的存在を目指すべきという話ではなく、例えば報道機関がこの仕組みをコピーして、(CNNのiReport的に)市民ジャーナリズム的なものの土台にすることができるかもしれません(市民ジャーナリズムという言葉は手垢が付いてしまっていて、あまり良い響きではなくなってしまいましたが)。一つの未来像を感じさせるアイデアとして、Gigwalkは注目に値するのではないでしょうか。

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