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Facebookは実名制をあきらめて「革命」を支援すべきか?

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ソーシャルメディアは北アフリカ諸国の騒乱に、どこまで影響を及ぼしているのか。このテーマについては、先日個人ブログの方でも書きましたが、少なくとも「クラウド上のツールであること」という視点を忘れてはならないと思います。地下出版を止めるには印刷機を破壊してしまえば良いですが、ソーシャルメディアは破壊に対抗し(チュニジアでFacebookが政府側のID不正入手を防止)、破壊されても再生し(GoogleとTwitterがエジプト向けに「ネットなしでツイートできる」サービスを開発)、さらに使いやすいツールに進化します(YouTubeがエジプト関連動画をCitizenTube上でまとめ)。チュニジアとエジプトの情勢を目の当たりにした他の独裁国が、ネットを規制する方向に動いているというのも当然の話です。

しかしそれは同時に、ソーシャルメディアを運営する企業も、否応なく政治的判断を迫られるようになったことを意味します。かつてGoogleが中国政府から検閲への協力を迫られたように、今度はソーシャルメディアが各国政府とどのような関係を結ぶか、あるいは「反乱者」をどう扱うかが問われるわけですね。その決断次第で人命に影響が出る可能性は否定できないでしょう。

そしていまFacebookが、そのような難しい対応に迫られようとしています:

Facebook treads carefully after its vital role in Egypt's anti-Mubarak protests (Washington Post)

簡単に言えば「Facebookは政治的な活動を支援することに消極的ではないか?」と指摘する記事。確かにチュニジアのケースでも、政府の不正操作に対してFacebookは「純粋にセキュリティ上の問題」として対応したまで(少なくとも表面上は)であり、エジプトの件でTwitter社がユーザー保護の姿勢を強調したのとは対照的です。そしてより直接的な問題として、「匿名での利用を認めるべきか否か」を判断しなければならない状況であることが解説されています。

当然ながら、Facebookがこだわる「実名制」を厳格に守れば、反政府活動を行っている活動家でも実名を公表しなければならないことになります。そんなことになれば、仮に非公開のグループでFacebookを利用していたとしても、政府側に情報が筒抜けになってしまうでしょう。実際にはFacebookはすべての匿名アカウントを取り締まっているわけではなく、実際には大量の「捨てアド」的なアカウントが存在していますが、今回のような大事件の関係者となれば、その人物の匿名性に目をつぶるかどうか?に注目が集まることは避けられないでしょう。

では匿名を許可すれば良いのかというと、話はそれほど簡単ではありません。ご存知のように、実名制はFacebookが創業時からこだわってきた要素ですし、Facebookを通じた犯罪にも注目が集まっているような状況では、おいそれと匿名を許すわけにはいかないでしょう。また逆に匿名での活動が可能になれば、今度は極端な話、Wilileaksのような問題へと発展しかねません。実名/匿名どちらを選んでも、Facebookが政治的な立場を問われることになりそうです。

この点について、『フェイスブック 若き天才の野望 (5億人をつなぐソーシャルネットワークはこう生まれた)』の著者デビッド・カークパトリック氏もこうコメントしています:

"I have talked to people inside Facebook in the last week, and they are debating this internally," Kirkpatrick said. "Many countries where Facebook is popular have autocracies or dictatorships, and most of the countries have passively tolerated their popularity. But what's happened in Egypt or Tunisia is likely to change other countries' attitudes, and they'll be more wary of Facebook operating there."

「先週Facebookの関係者と会話したが、内部でこの問題を議論しているようだ」とカークパトリックは語る。「Facebookがポピュラーで、かつ独裁制を敷いているという国は多いが、そうした国のほとんどは消極的にFacebookの普及を許容していたに過ぎない。しかしエジプトとチュニジアで起きたことは、彼らの態度を変え、Facebookの活動に用心するようになるだろう。」

そして

Kirkpatrick added that these choices all come down to the company's famously private CEO.

"Inside Facebook," he said, "there's really only one person who makes these decisions. He has to decide."

カークパトリックは、全ての決断はFacebookのCEO(※マーク・ザッカーバーグのことですね)の肩にかかっていると付け加えた。

「Facebookの社内では、何かを決めるのは本当にたった一人の人物だ。彼が決断を下さなければならない。」

とのこと。果たしてザッカーバーグは、この状況をどう考えているのでしょうか?

個人的には、Facebookはここまで巨大なネットワーク(あるいは社会インフラとすら呼べるかもしれません)に成長してしまった以上、案件ごとに個別に対応する必要があるのではないかと思います。実名を前提としつつ、ユーザーからの訴えがあった場合には、特例として匿名での活動を許可する。それには膨大な手間がかかることになると思いますが、それだけの社会的責任をいまのFacebookは負っているのではないでしょうか。もちろん私企業が商用サービスとして展開してきた事業に、それほどの責任はないという考え方もあると思います。しかしインターネットへの接続、さらに極論としてソーシャルメディアの利用が人権として認められるべきか?という議論が起きるほどの状況になっているのが、現在という時代です。少なくとも、自らの判断一つで社会を変えてしまう可能性があることを自覚した上で、ソーシャルメディアの関係者はサービス運営に臨まなければならないと思います。

フェイスブック 若き天才の野望 (5億人をつなぐソーシャルネットワークはこう生まれた) フェイスブック 若き天才の野望 (5億人をつなぐソーシャルネットワークはこう生まれた)
デビッド・カークパトリック 小林弘人 解説

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