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チュニジア政権崩壊におけるリアルタイムウェブとジャーナリズム

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もう10年も前になりますが、チュニジアを旅行したことがあります。イスラム文化の建築物と、ローマ時代の遺跡が点在する美しい国という印象が残っています。

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そのチュニジアで今、大きな混乱が起きています。20年以上も独裁を続けてきたベンアリ大統領に対する抗議活動が高まり、大統領が国外に脱出する事態にまで至っているとのこと。まずは何よりも、できる限り混乱が少ない形で、チュニジア国民が望むような政治体制が戻ることを願います:

チュニジア大統領が国外脱出、87年から独裁 (YOMIURI ONLINE)

 チュニジアでは、昨年末から物価高騰や高い失業率への不満を訴えるデモが全国で激化していたが、最近は批判の矛先が、1987年から事実上の独裁体制を敷くベンアリ大統領にも向けられるようになっていた。

 大統領は13日、事態収拾を図るため、2014年の次期大統領選への不出馬を表明。14日には、やはり14年に予定されていた総選挙を大幅に前倒しして今後6か月以内に行うと表明していたが、デモは収まらなかった。首都チュニスなどでデモ隊と警官隊との衝突による死者も発生する中、14日には全土に非常事態宣言が出されていた。

さて、最近の様々な政治的混乱においては、様々なソーシャルメディア+リアルタイムウェブが大きな存在感を放っていることはご存知の通り。それでは今回のチュニジアでは、どのような事態になっているのでしょうか?いくつか記事がアップされています:

Tunisian protests fueled by social media networks (CNN)

まずCNNのレポート。記事の冒頭、ハイライトが以下の3点にまとめられています:

  • チュニジアの抗議活動において、SNSサイトが重要な要素になっている。
  • 政府はブロガーの排除を最優先事項に置いている。
  • 若者の高い失業率が、抗議活動を後押しする結果となっている。

特にウェブサービスの活用という点では、イランなどのケースと同様、TwitterとFacebookが中心となっているようですね:

The protests that have gripped Tunisia in recent weeks are, to say the least, unusual. Organized dissent in the streets is rarely tolerated in Arab states, and human rights groups say the Tunisian government has had a short fuse when dealing with opponents. But what's going on in Tunisia is all the more unusual because the protests are being organized and supported through online networks centered on Twitter and Facebook.

最近チュニジアで続いている抗議活動は、控えめに言っても「普通ではない」ものだ。アラブ諸国では組織化された抗議活動が許されることはほとんどなく、人権団体によれば、特にチュニジア政府は反対派を即座に弾圧しようとする。しかしいまチュニジアで起きていることは、抗議活動がTwitterやFacebookなどのオンラインネットワークを通じて組織化・支援されるという、非常にまれなケースである。

通常のホームページも活用されているようですが、政府の対抗措置により軒並み閉鎖に追い込まれているとのこと。それに対して活動家たちは"Free From 404"(もちろん"not found"エラーを示唆しているわけですね)というスローガンを掲げ、政府の圧力を避けてTwitter、Facebookをコミュニケーションの場としているそうです。

Activists have also been uploading videos of demonstrations to YouTube using the hashtag #sidibouzid (the province where the demonstrations first began last month), despite the Tunisian authorities' banning of YouTube in November 2007. One that appeared Wednesday showed what appeared to be several hundred people -- mainly young, both male and female -- chanting slogans in the city of Sfax. Another, running 12 minutes and posted on "A Tunisian Girl"'s Facebook page, showed a confrontation Monday -- apparently in Tunis -- between protesters and riot police. Ben Mhenni also includes -- with an air of triumph -- a French newspaper article entitled "Le regime depasse par la cyberresistance" [the regime overtaken by cyber-resistance] as well as photos from Kasserine, one of the towns rocked by protests this week. Some of the photos show protesters holding U.S.-made tear-gas canisters.

活動家たちはデモの様子をビデオに収め、YouTubeにアップロードし、#sidibouzidというハッシュタグを付けて発信している(これはある地域の名前で、先月最初の抗議活動が行われた場所だ)。YouTubeはチュニジア政府によって、2007年11月に禁止されているにも関わらず、である。水曜日に公開された映像は、Sfaxという町で数百人の人々(大部分は若い男女)がスローガンを叫んでいる、というものだ。"Tunisian Girl"(※Ben Mhenniという女性が開設しているブログ)のFacebookファンページ上で公開された別のビデオは、12分間の長さで、月曜日に発生したデモ隊と機動隊の衝突(チュニジアで起きたもののようだ)が収められている。Ben Mhenniは他にも、"Le regime depasse par la cyberresistance"(フランス語で「サイバー抗議活動によって政権が崩壊」という意味)というタイトルが掲げられたフランスの新聞記事や、Kasserine(今週抗議活動が行われた町)の様子を収めた写真などを掲載している。その中には米国製催涙弾の容器を、抗議者たちが掲げているという写真もあった。

こうしたオンライン上のアピールは、当然ながら現場にいない人々にとって、貴重な情報を得る場所となり得ます。イランのケースでも海外のジャーナリストたちが国外退去を命じられたため、ウェブサービスが唯一の情報源となっていましたね。

一方で今回のケースでは、Twitterを通じたコミュニケーションはあまりにもスピードが速く、状況を把握するのは逆に困難だという指摘も出ています:

Crisis in Tunisia proves Twitter is the best, and worst, way to follow breaking news (The Next Web)

As you can see in the video below, following the stream of tweets using the #Sidibouzid hashtag is an exhilarating experience – real, raw human feeling being expressed and then amplified by Twitter’s megaphone.

The problem is that it’s too fast to keep track of. Even if you pause the tweets, or simply use a non-real-time Twitter client to break up the flow, making sense of the events is impossible. Some people are tweeting news, others what they’re feeling, there’s even a few cases of what just looks like “hashtag spam” saying nothing of use whatsoever. The fact that some reports from the former French colony aren’t in English make things all the more difficult to parse.

以下に掲載したビデオ(※リンクはこちら)からも分かる通り、#Sidibouzidというハッシュタグが付いたツイートのストリームを追うのは刺激的な体験だ。リアルで、生の感情が表明されており、それがTwitterというメガホンによって増幅されている。

しかし問題は、あまりにも速すぎてついて行けないという点だ。ツイートを一時停止したり、あるいは単に非リアルタイムのTwitterクライアントを使ったりしてフローを止めても、何が起きているのかを理解するのは不可能だ。ある人はニュースをツイートし、別の人は感想を述べ、また中には何の関係もない「ハッシュタグスパム」を行っている人までいる。フランスの旧植民地(※チュニジアのこと)で情報発信している人々の一部は、英語を使っていないという点も、分析をさらに難しくしている点だ。

つまり情報があまりにも多く、しかも速く流れているために、そこから「現場で何が起きているのか」を理解するのが難しくなっていると。この点はリアルタイムウェブ上でのコミュニケーションに関する普遍的な課題であり、ソーシャルフィルタリングやキュレーションなど、取捨選択に関する新たな概念が必要とされるところでしょう。

この点について、お馴染みHuffington Postがこんな記事を公開しています:

How Tunisian Facebookers Will Change Newsrooms (Huffington Post)

For Ben Said, Facebook was the first source of breaking news in the riots and what allowed him to consequently pass along the information for widespread coverage throughout France24. He knew however that just because it was on Facebook, he still had to go through quite an arduous process of fact-checking. "After the first wave of reports, we'd confirm the information with phone interviews and corroborations from various NGOs and official sources," he clarified.

Ben Said(※Imed Ben Said、フランスのニュース専門チャンネル"France24"のジャーナリスト)にとって、Facebookは暴動の速報を得た最初の情報源であり、France24での報道を可能にしたものだった。しかしFacebook上の情報である以上、事実確認という辛く困難な作業を行う必要があると彼は理解している。「第一報が過ぎた後で、私たちは様々なNGOや公的機関への電話取材、および裏付け作業を行い、情報の確認を行いました」と彼は述べた。

Huffington Postの立場からすれば当然ですが、オンラインメディアによって従来のジャーナリズムのあり方は大きく変わるだろうと予想しています。「ネットワークド・ジャーナリズム(Networked Journalism)」などという言葉も登場していますが、現場にいる一般の人々(あるいは彼らが発信する情報)と、いわゆる「プロ」のジャーナリストがネットワークでつながることで、新しい時代のよりジャーナリズムをつくって行こうという発想ですね。どこまで成功するかは分かりませんが、引用したBen Saidの例のような動きが今後も増えてくることは間違いないと思います。

長くなりましたが、いまや政治的な活動を行う上で(そしてその状況を外部から把握する上で)ソーシャルメディア+リアルタイムウェブが欠かせないものになっていることが、チュニジアのケースで改めて浮き彫りになっていると言えるでしょう。それが行われていることを前提とした上で、事件の全体像を理解したり、より信頼性の高い情報を得るためにはどのような仕組みが必要なのか。それを考えることが、いまメディアに関係する人々に求められている課題ではないかと思います。

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< 追記 >

他にもチュニジアにおける「Twitter革命」あるいは「Facebook革命」について、様々な考察記事がアップされています。ご参考まで:

The First Twitter Revolution? (Foreign Policy)
The #Tunisian Revolution Wasn’t Televized, But You Could Follow It On Twitter (TechCrunch)
Tweeting tyrants out of Tunisia: the global Internet at its best (Ars Technica)

【○年前の今日の記事】

「友達削除してハンバーガーをもらおう」キャンペーン、Facebook の反応は? (2009年1月15日)
在宅勤務は、オフィスで働く人々に悪影響? (2008年1月15日)
他人の眼で見る楽しさ (2007年1月15日)

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